スキル,ついてますか~組み込みソフトウェア開発の人間学~(2) ――星空の作りかた

渡辺のぼる

tag: 組み込み

コラム 2005年7月 5日

 ある日曜日の昼下がり,お台場の日本科学未来館に行ったときのことです.「特別イベントプラネタリウムMEGASTAR-I星空のつくりかた~大平貴之の世界~」が開催されていました.大平貴之さんは,大学時代にレンズ投影式プラネタリウム(メーカで作るのもたいへんなしろもの)を自作した人です.その後,11.5等級までの星を投影できる移動プラネタリウム「MEGASTAR-I」や12.5等級までを投影できる「MEGASTAR-II cosmos」などを自作しました.以前「プラネタリウム・クリエータ」としてNHKの教育テレビに登場したこともあります1

 筆者は「MEGASTAR-I」による満天の星空を見て,久しぶりに感動しました.

●しごとに夢を持ち込もう

 技術者の中には,夢や趣味をしごとにしている人の確率が高いのかもしれません.技術者には「好きなことならとことん極めるように学び,働く」という素質のある人が多いように思います.

 筆者の場合,技術者として担当していた開発内容は「夢」や「趣味」ではありませんでしたが,分野としては学生時代にあこがれていたもの(通信関係)でした.また,おもしろいしごとに携わっているときは,時を忘れて没頭したものです.おもしろいことであれば,「何とかして実現したい」と考えます.そのためなら,目の前の問題や発生しそうな問題を解決するのに役立つこと(勉強,訓練など)に積極的に取り組めるでしょう.そして,そのように取り組むほうが,楽しい技術者人生を過ごせるでしょう.

●技術者の呼称に夢を!?

 大平貴之さんの「プラネタリウム・クリエータ」という肩書きにはとても夢を感じます.おそらく,「星」と「創造」という二つのキーワードが含まれているからでしょう.「プラネタリウム(星)」は対象とする応用ドメインや技術要素として,「クリエータ(創造)」は担当する業務として夢を感じさせるものと表現できます.それでは,組み込みソフトウェア開発で夢を感じさせる職種名があるでしょうか? 正直に言って,思い浮かびません.「家電」,「通信機器」,「品質(クオリティ)」,「エンジニア」,「アーキテクト」などのキーワードでは,夢というよりも厳格でち密な印象になってしまいます.

 日本の組み込み技術を考えたとき,「技術者」として,これまでどおりに厳密でち密なものを「作る」人,技術を極める人は必要不可欠です.また,「創る」ことのできる人材も組み込み業界に必要です.いっそ,技術者とは別に,ビジネスや商品企画を創りあげられる人を「クリエータ」として定義してはどうでしょうか?

●スキル基準より条件が複雑なキャリア基準

 さて,組み込みソフトウェア開発のスキル標準「組込みスキル標準(ETSS)」の策定作業のほうは,策定期限の目標である年度末(2005年3月末)が迫り,忙しい毎日です.とくに,それぞれの職種にどのようなスキルが必要であるのかを提示する「キャリア基準」については,課題(要求仕様)が複雑で,苦しんでいます.IT スキル標準(ITSS)との親和性,「技術者」と「技能者」の違い2,職種呼称,開発力強化のための重点職種など,考えなければならないことが多いからです.この年度末で策定するキャリア基準はDraft版3にとどまる予定です.なお,現在策定中のETSSには,「クリエータ」という職種は定義されていません.残念....

●夢と希望と現実と

 ETSS策定の進捗が気になりながらも,家族サービスとして出かけた日本科学未来館.満天の星空の映像を見ながら,自分の息子(2歳)にも夢を持ってほしいなぁ,と考えていました.しかし,息子は星空に雪が降り出す光景になったとたん,映像が怖くて泣き出してしまいました.頭上では幻想的に星と雪が舞い降り,手元の現実世界では息子の涙と鼻水が流れ続けたのでした.

 注1;大平貴之さんが運営するWebサイトのURLは「http://www.megastarnet.com/」.MEGASTAR-II cosmosは,投影する星の数でギネスブックに登録されている.
 注2;プログラマを職種とするか否かで議論した際に,この問題が出てきた.キャリア基準では"技術者"を定義するための職種を検討している."技能者"はある作業を極める人材であり,"技術者"は作業手順や方式を改善できる人材として区別している.
 注3;2005年3月末までに,スキル基準(組み込みソフトウェア開発に必要なスキルにはどのようなものがあるのか)については1.0版,キャリア基準と教育カリキュラムについてはDraft版の策定を予定している.公開は2005年5月末ごろを予定.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2005年5月号に掲載されました)


わたなべ・のぼる
組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)

◆筆者プロフィール◆
渡辺のぼる.電機メーカ系ソフトウェア開発企業のファームウェア開発者.2002年以降,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)において組み込みソフトウェア技術者のスキルを体系的に整理するスキル標準の草案を作成.2004年9月,スキル標準の策定に専念する職場に出向,現在に至る.

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