携帯電話機の進化をフレキシブル基板が支える ――JPCA Show 2005
プリント配線基板技術に関する展示会「JPCA Show 2005 第35回国際電子回路産業展」(主催:社団法人 日本プリント回路工業会)が,2005年6月1日~3日に東京ビッグサイトで開催された.主催者発表による来場実登録者数は総計で3万2045名で,昨年の3万118名を上回った(写真1).携帯電話機やディジタル・カメラ(デジカメ),AV(audio visual)機器などでの採用をねらった基板技術の展示が目立っていた.
●フレキ基板の屈曲回数を高める
今回のJPCA Show 2005でもっとも興味深かったのは,携帯電話機で液晶ディスプレイを搭載した部分(液晶部)とキーボードを搭載した部分(キーボード部)を電気的につなぐフレキシブル・プリント配線基板(以下,フレキシブル配線基板)である.
携帯電話機は,従来,本体を折り畳む方式が主流であった.クラムシェルとも呼ばれる.クラムシェルは液晶部とキーボード部の接続にヒンジを使う.フレキシブル配線基板はヒンジで1回巻くようにして実装される.このほか,最近では回り継ぎ手(さるかん)を使った機種やスライド式の機種もある.フレキシブル配線基板材料メーカである新日鐵化学は,液晶部とキーボード部の接続方式が異なるこれら3種類の携帯電話機とフレキシブル配線基板の実装状態を展示し,来場者の関心を集めていた(写真2).
携帯電話機が使用されるたびに,液晶部とキーボード部をつなぐフレキシブル配線基板は屈曲する.屈曲を繰り返しても折れや断線,短絡などの不良が発生してはならない.松下電工は,屈曲可能な回数を従来よりも高めたフレキシブル配線基板材料「FELIOS(R-F755)」を出品した.銅はく厚み/フィルム厚み/銅はく厚みが18μm/25μm/18μmの材料を100とすると,12μm/20μm/12μmと薄型の材料では相対値で128になるという屈曲回数の実測結果をパネル展示していた(写真3).なお同社のカタログによると,銅はく厚み/フィルム厚み/銅はく厚みが18μm/25μm/18μmのR-F755は,10万回の屈曲に耐える.これらはいずれも,クラムシェルの携帯電話機を想定した試験による値である.試験条件は屈曲角度が0度と170度,屈曲径が8mm,1回巻き,曲げ周期60回/分.
三井化学は,フレキシブル配線基板材料「NFX」の耐屈曲性をテストし,携帯電話機に適していることを示した(写真4).液晶部とキーボード部の接続にヒンジを使うことを想定した場合で従来品の約1.3倍,スライドを使うことを想定した場合で従来品の約1.6倍の屈曲回数があるとしている.「今後はスライド式の携帯電話機が増える傾向にあるので,試験結果を展示した」(三井化学の説明員).
●配線基板をさらに薄く
配線基板をさらに薄くする動きは,相変わらず活発である.「極薄」と銘打った基板材料の展示が目立つ.
フレキシブル配線基板では京セラケミカルが,カバーレイ(配線の保護層)を含めた厚さが29μmしかないフレキシブル基板材料「スーパー極薄フレキ」を出品し,来場者の注目を集めていた(写真5).従来品の厚みが62μmなので,「スーパー極薄フレキ」の厚みは約半分しかない.狭いすき間に折り曲げて実装しやすくなる.厚さ1.0mmに折り曲げるのに必要な力は,従来品が77g重だったのに対して,「スーパー極薄フレキ」では19g重で済むとしている.具体的な応用としてDVD装置のピックアップを例に,フレキシブル配線基板の実装状態を示していた(写真6).
リジッド配線基板では,日立化成工業が厚さ50μmの基板材料「Cute」シリーズを展示していた(写真7).両面銅張り積層板,プリプレグ,樹脂フィルム,樹脂付き銅はくがある.いずれも厚さが50μmしかない.この材料で4層リジッド・プリント配線基板を製造すれば,厚さが従来の半分で済むという(写真8).なお展示パネルでは曲げられることやリジッド・フレックス配線基板の置き換えを強調していたが,主要な用途として狙うのはあくまでも薄いリジッド基板のようだ.
●自動車と車載基板の将来を示す
このほか,リジッド配線基板材料メーカである新神戸電機の「自動車の将来展望と新神戸電機製品ロードマップ」と題したパネル展示が目を引いた.2004年~2010年までの自動車エレクトロニクスの将来展望に同社の製品ロードマップを重ね合わせた展示で,分かりやすかった(写真9).新神戸電機は自動車エレクトロニクス分野の動向を1)電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)の小型化と標準化,2)電源の42V化,3)環境対応の三つに分けて示していた.1)には高密度,高信頼性の基板材料を開発し,2)には高耐熱,高放熱の基板材料を開発し,3)には高放熱,高信頼性の基板を開発するというシナリオである.
ふくだ・あきら
テクニカルライター/アナリスト
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