携帯電話機の進化をフレキシブル基板が支える ――JPCA Show 2005

福田 昭

tag: 組み込み

レポート 2005年6月20日

 プリント配線基板技術に関する展示会「JPCA Show 2005 第35回国際電子回路産業展」(主催:社団法人 日本プリント回路工業会)が,2005年6月1日~3日に東京ビッグサイトで開催された.主催者発表による来場実登録者数は総計で3万2045名で,昨年の3万118名を上回った(写真1).携帯電話機やディジタル・カメラ(デジカメ),AV(audio visual)機器などでの採用をねらった基板技術の展示が目立っていた.

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[写真1] JPCA Show 2005の登録受け付け ※写真をクリックすると拡大します
2005年6月1日~3日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された.会期3日間の来場実登録者数は3万2045名.

●フレキ基板の屈曲回数を高める

 今回のJPCA Show 2005でもっとも興味深かったのは,携帯電話機で液晶ディスプレイを搭載した部分(液晶部)とキーボードを搭載した部分(キーボード部)を電気的につなぐフレキシブル・プリント配線基板(以下,フレキシブル配線基板)である.

 携帯電話機は,従来,本体を折り畳む方式が主流であった.クラムシェルとも呼ばれる.クラムシェルは液晶部とキーボード部の接続にヒンジを使う.フレキシブル配線基板はヒンジで1回巻くようにして実装される.このほか,最近では回り継ぎ手(さるかん)を使った機種やスライド式の機種もある.フレキシブル配線基板材料メーカである新日鐵化学は,液晶部とキーボード部の接続方式が異なるこれら3種類の携帯電話機とフレキシブル配線基板の実装状態を展示し,来場者の関心を集めていた(写真2)

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(a)3種類の実装方式


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(b)ヒンジによる接続


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(c)回り継ぎ手による接続


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(d)スライドによる接続


[写真2] 携帯電話機に搭載されたフレキシブル・プリント配線基板の例
液晶ディスプレイ部とキーボード部の接続に使われる.(a)の左側の二つは折り畳み(クラムシェル)式のヒンジ,その右が回り継ぎ手(シーベル),右端はスライド.新日鐵化学の展示.

 携帯電話機が使用されるたびに,液晶部とキーボード部をつなぐフレキシブル配線基板は屈曲する.屈曲を繰り返しても折れや断線,短絡などの不良が発生してはならない.松下電工は,屈曲可能な回数を従来よりも高めたフレキシブル配線基板材料「FELIOS(R-F755)」を出品した.銅はく厚み/フィルム厚み/銅はく厚みが18μm/25μm/18μmの材料を100とすると,12μm/20μm/12μmと薄型の材料では相対値で128になるという屈曲回数の実測結果をパネル展示していた(写真3).なお同社のカタログによると,銅はく厚み/フィルム厚み/銅はく厚みが18μm/25μm/18μmのR-F755は,10万回の屈曲に耐える.これらはいずれも,クラムシェルの携帯電話機を想定した試験による値である.試験条件は屈曲角度が0度と170度,屈曲径が8mm,1回巻き,曲げ周期60回/分.

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[写真3] 屈曲可能な回数を従来よりも高めたフレキシブル配線基板材料の例(1)
銅はく厚み/フィルム厚み/銅はく厚みが18μm/25μm/18μmの材料を100とすると,12μm/20μm/12μmと薄型の材料では相対値で128になる.松下電工のフレキシブル配線基板材料「FELIOS」の展示.

 三井化学は,フレキシブル配線基板材料「NFX」の耐屈曲性をテストし,携帯電話機に適していることを示した(写真4).液晶部とキーボード部の接続にヒンジを使うことを想定した場合で従来品の約1.3倍,スライドを使うことを想定した場合で従来品の約1.6倍の屈曲回数があるとしている.「今後はスライド式の携帯電話機が増える傾向にあるので,試験結果を展示した」(三井化学の説明員).

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[写真4] 屈曲可能な回数を従来よりも高めたフレキシブル配線基板材料の例(2)
銅はく厚み/フィルム厚み/銅はく厚みが12μm/25μm/12μmの基板材料.ヒンジへの適用を想定したときに従来品の約1.3倍,スライドでの使用を想定したときに従来品の約1.6倍の屈曲回数がある.三井化学のフレキシブル配線基板材料「NFX」の展示.

●配線基板をさらに薄く

 配線基板をさらに薄くする動きは,相変わらず活発である.「極薄」と銘打った基板材料の展示が目立つ.

 フレキシブル配線基板では京セラケミカルが,カバーレイ(配線の保護層)を含めた厚さが29μmしかないフレキシブル基板材料「スーパー極薄フレキ」を出品し,来場者の注目を集めていた(写真5).従来品の厚みが62μmなので,「スーパー極薄フレキ」の厚みは約半分しかない.狭いすき間に折り曲げて実装しやすくなる.厚さ1.0mmに折り曲げるのに必要な力は,従来品が77g重だったのに対して,「スーパー極薄フレキ」では19g重で済むとしている.具体的な応用としてDVD装置のピックアップを例に,フレキシブル配線基板の実装状態を示していた(写真6)

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[写真5] カバーレイを含めた厚さが29μmしかないフレキシブル配線基板材料
京セラケミカルの「スーパー極薄フレキ」.ベース・フィルムの厚さは4μm,接着剤の厚さは8μm,銅コアの厚さは5μmである.今回開発した「スーパー極薄フレキ」のサンプルと,従来品のサンプルを貼り付けた実物見本を展示ブースで配布していた.筆者も見本を1部受け取り,両方を指で触ることで柔らかさの違いを実感できた.

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[写真6] 厚さが29μmしかないフレキシブル配線基板材料の応用例
DVD装置のピックアップにフレキシブル配線基板として実装したところ.京セラケミカルの「スーパー極薄フレキ」の例.

 リジッド配線基板では,日立化成工業が厚さ50μmの基板材料「Cute」シリーズを展示していた(写真7).両面銅張り積層板,プリプレグ,樹脂フィルム,樹脂付き銅はくがある.いずれも厚さが50μmしかない.この材料で4層リジッド・プリント配線基板を製造すれば,厚さが従来の半分で済むという(写真8).なお展示パネルでは曲げられることやリジッド・フレックス配線基板の置き換えを強調していたが,主要な用途として狙うのはあくまでも薄いリジッド基板のようだ.

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[写真7] 厚さが50μmしかないリジッド配線基板材料
銅張り積層板の例.日立化成工業の基板材料「Cute」シリーズ.

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[写真8] 厚さが50μmしかないリジッド配線基板材料の応用例.
日立化成工業の基板材料「Cute」シリーズ.この材料で4層リジッド・プリント配線基板を製造すれば,厚さが従来の半分で済むという.柔らかいので,曲げて実装することもできる.

●自動車と車載基板の将来を示す

 このほか,リジッド配線基板材料メーカである新神戸電機の「自動車の将来展望と新神戸電機製品ロードマップ」と題したパネル展示が目を引いた.2004年~2010年までの自動車エレクトロニクスの将来展望に同社の製品ロードマップを重ね合わせた展示で,分かりやすかった(写真9).新神戸電機は自動車エレクトロニクス分野の動向を1)電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)の小型化と標準化,2)電源の42V化,3)環境対応の三つに分けて示していた.1)には高密度,高信頼性の基板材料を開発し,2)には高耐熱,高放熱の基板材料を開発し,3)には高放熱,高信頼性の基板を開発するというシナリオである.

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(a)2004年~2007年の部分


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(b)2006年~2010年の部分


[写真9] 自動車エレクトロニクスの将来動向と基板材料のロードマップ
新神戸電機の展示パネル.


ふくだ・あきら
テクニカルライター/アナリスト
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