Mr.M.P.Iのプロセッサ・レビュー ――マイコン技術者のすすめ

M.P.I

tag: 組み込み

コラム 2005年6月17日

 (真実かどうかはともかく)マスコミ報道などによると,IT(information technology)産業が既成の産業をのみ込まんとする今日このごろ.そのITを支えているはずのハードウェア産業は成熟化が進み,曲がり角にさしかかっている雰囲気がある.そのような中,この記事に目を通されている読者諸氏は,日々,ハードウェアの設計業務などにまい進されており,すでに進むべき道は見えているのだと思う.けれども,あえてここで一度,「マイコン技術者」をやってみることをお勧めしたい.とくに先のある,まだどの方面に進むかを迷っている人に本稿を読んでいただきたい.

●半導体業界で生き残るには「マイコン」がおすすめ

 「マイコン」という言いかたは古めかしい響きがあるが,あえて「マイコン」である.「マイクロプロセッサ」ではなく「マイコン」.正しく言えば,「シングルチップ・マイクロコントローラ」.

 かつて成長期にあった半導体業界が世の中に大きなインパクトを与えたときの原動力が「マイコン」であった.そのころは洗濯機から掃除機まで,何から何まで「マイコン入り」になり,「マイコン」が時代のキーワードになっていた.今だに,そして今でも,マイコンは半導体メーカのまあまあ主力製品の一つではあるのだが,技術のリーディング・エッジから離れてしまって久しい.感覚的には,すでにネジ・クギに近いコモディティ部品とも言える.

 業界の焦点がうつろうのは必然だ.20年前,日本の半導体業界の中心はDRAMだったが,その影はすでになく,ASIC全盛も今は昔である.ディジタル家電向けに「SOC(system on a chip)」などと呼び名を変えてはいるが,それも永久に続くわけではない.

 焦点が外れたその瞬間に消えてしまった分野もあるわけだが,マイコンはしぶとく生き残っている.マイコンは,製品技術としても,設計技術としても,ある意味つぶしがきくからかもしれない.実際,一度マイコンをやっておくと,いろいろな技術がよくわかるようになる.小さなシリコンの上にCPU コア,周辺回路に加えて,メモリ回路や各種のアナログ要素,I/O,バス,インターフェース,通信チャネル,最近では無線系のインターフェースまで集積している.1個のチップの中に,LSIのほとんどの要素技術が組み込まれていると言ってもよいだろう.そのうえ,アセンブラやコンパイラといった開発ツール,通信,音声,画像,計測などのミドルウェア,ICE(in-circuit emulator)や評価ボードまでが含まれるのである.

 まあ,マイコンのメモリやアナログなどはちんけなもので,「鳥なき里のコウモリ」のようなものとも言える.実際,各要素のどれもが規模が小さい.これがリーディング・エッジから遠くなってしまう主な理由であるが,逆に言えば習熟しやすいとも言える.

 なにせ最近のリーディング・エッジの開発プロジェクトなどは,数十人から数百人の体制である.ひとりひとりの分担領域など,ごくごく狭い.全体をふかんできるのはごくわずかな人でしかない.そのわずかな人にしても,すべての要素の細部まで把握できるわけもなく,多くはブラックボックスだ.これで日々忙しく立ち働いていると,特定の要素の専門家にはなれても,全体を見るチャンスはなかなか巡ってこない.一方,規模の小さい「マイコン」では,何から何までひとりでこなさなければならないことが珍しくない.めんどうも多いが,これで全体が見えないはずがない.マイコン技術者はすべからく多能となり,回路要素やソフトウェアなど,すべてを理解していることが求められる.そのうえ価格の厳しい成熟商品なので,微妙なコスト感覚も身に付く.

●ソフトウェアの感覚を身に付けられるマイコン技術者

 ソフトウェアの感覚を身に付けることは,今後のLSI技術者にとって必須である.なにせLSIメーカがアプリケーション領域まで踏み込んで,「ソリューション」を提供しなければチップが売れない時代である.システム・レベルの設計を理解するためには,ソフトウェアがキーとなる.ところが,マイコン系以外のLSI技術者の中には,ソフトウェアのことがわからない人がとても多い.それが理由なのか,いまだにチップは作れても,システム・レベルで構想できず,「ご用聞きで得た仕様どおりの部品を作るだけ」という悪弊をふっしょくできない例が珍しくない.

 マイコン技術者になれば,ソフトウェアがわからないということはありえない(それでは,しごとにならない).まあ,人によっては「高級言語もOSもきらい」で,アセンブラどころか「機械語でしゃべる」ような特殊化を果たしてしまうケースもあるけれど....

 そこから新しい展開も生まれてくる.例えば,アナログ技術者はアナログ回路のみというぐあいに,ついつい自分の守備範囲だけで問題を解決しようとするが,マイコン技術者の場合はアナログ回路をディジタル回路やソフトウェアでアシストするといったくふうは日常茶飯事である.このあたり,最近では無線系とからんで,古いマイコンから新しいトレンドが生まれそうな雰囲気がある.今後に期待も持てる.

 さて,そこのきみ.マイコン技術者をやってみる気はないか.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2005年5月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
M.P.I(ペンネーム).若いころ,米国系の半導体会社で8ビット,16ビットのプロセッサ設計に従事.ベンチャ企業に移って,コードはコンパチ,ハードは独自の32ビット互換プロセッサのアーキテクトに.米国,台湾の手先にもなったが,このごろは日本の半導体会社でRISCプロセッサ担当の中間管理職のオヤジ.

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日