プロジェクト成功のかぎは「さすが!」のチーム作り ――OpenSESSAME Workshop 2005
NPO法人 組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)は,2005年1月17日,『「さすが!」の創造~組込み開発者よ,エンジニアたれ~』と題したワークショップ(OpenSESSAME Workshop 2005)を開催した.手の不自由な人向けの食事支援機器の開発プロジェクトにかかわった技術者による基調講演や,『「さすが!」のエンジニアを生み出すのは?』と題したパネル・ディスカッションなどが行われた.
●利用者を含めたチーム作りがプロジェクトを成功させた
基調講演では,食事支援機器「マイスプーン」の開発に携わったセコム 開発センター メディカル1チームの石井純夫氏が製品開発の経緯や過程を披露した.マイスプーンは,手の不自由な人が,あごや足でジョイスティックを操作することにより,目の前の食器から1口分の食べ物をつかみとって,口の前に運ぶための機器である(写真2).市場が小さいためなかなか事業化に踏み切ることができなかったが,8年間地道に研究を続けた後,2年ほどの開発期間を経て商品化にこぎ着けた.技術者はさまざまな機能を盛り込もうとしがちだったが,そのつど利用者の意見を聞いて,操作しやすい機器として完成させたという.
この機器を使用することにより,従来は介護者に食べさせてもらっていた人が独力で食事をとれるようになった.これにより,利用者から「介護者といっしょに食事をとれるようになった」,「今までは遠慮があって頼みにくかった食べ物なども,気軽に食べられるようになった」などの好評を得ているという.
口に運ぶ食べ物を指定するときに,当初はレーザ・ポインタを取り付けたメガネを使用する計画だった.しかし,利用者から「操作が複雑」,「めがねがじゃま」などの意見が出てきたため,この方式の採用を断念した.一方,ジョイスティックは福祉分野でもっとも普及しているユーザ・インターフェース装置であり,利用者が使い慣れている場合が多いことから,最終的にジョイスティックをユーザ・インターフェースとして採用したという.
本開発プロジェクトには,利用者のほか,医師や作業療法士などの医療専門家,福祉用具デザイナなどにも参加してもらい,議論を繰り返しながら開発を進めた.立場がそれぞれ異なるため,開発当初はなかなか意見がまとまらず,人間関係がぎくしゃくすることもあったが,わかりやすく説明したり,意識的に相手の意見を聞くように努力した結果,チームとしてのまとまりが出てきたという.また,プロジェクトの途中の「テストが成功した」,「利用者から良い評価を得た」などの成功体験を共有し,積み重ねていくことによって,達成感を共有しながら開発できたという.
●仲間をたいせつに,楽しく開発する
ワークショップの最後に,『「さすが!」のエンジニアを生み出すのは?』と題したパネル・ディスカッションが行われた(写真3).
東陽テクニカの二上 貴夫氏は「楽しくしごとをすることが重要.楽しくするためには,仲間といっしょに作業を行うに限る」と述べた.具体例として,自宅で基礎実験を行い,6歳の子どもに計測器の数値を読んでもらったり,試作段階で新入社員に試作を手伝ってもらったりした経験を紹介した.また,「さすが!」と言われるためには,周囲から「やめたほうがいい」と言われてもあきらめないで問題を解決しようとする姿勢や,周囲に評価してもらえるようにアピール(説明)することがたいせつだと語った.
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の渡辺 登氏は,「さすが!」と言われる技術者とは,価格ではなく品質や納期,価値で勝負できる人材であると述べ,人材育成の重要性を強調した.渡辺氏によると,製品開発において利益率が高いと考えられているのは製品企画や運用・サービスで,製造は利益率が低いとみなされているという.そのため,製造工程(組み込みソフトウェアの開発やテスト)は外注されることが多いが,外注が増えると価格で勝負せざるをえなくなる.「人材育成によって製造の価値を上げ,利益率を上げるべき」というのが渡辺氏の主張だ.
職場における人間関係に話題が及んだとき,「能力は高いが使いにくい人材を生かすにはどのようにすればよいか」という質問が会場から相次いだ.二上氏は「ただ『使おう』と思うとたいてい失敗する.バグが出たらいっしょに苦しみ,成功したらいっしょに喜ぶといった,『いっしょに開発する』という意識がたいせつだ」と述べた.