ベンチャ・キャピタリストの視点(3) ――起業家像が変わった

佐藤 亘

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コラム 2004年12月28日

 起業に関する統計に,「開業率」というものがあります.新しく生まれた企業の数を,既存企業の数で割ったものですが,日本ではなんと1969年(!?)から下がり続けていました.それだけ既存企業がうまくいっていたあかしでもあるのですが,近年,ようやくこの数値が上昇する傾向を見せています.その背景には,これまでならば起業など考えもしなかった人々が起業するようになったことがあります.今回は,近年,急速に変化した「起業家像」について紹介します.

●以前は,経験者が同じしごとで手堅く起業

 これまでの起業スタイルをよく表していることばに「脱サラ」というものがあります.サラリーマンを辞めて独立・起業し,「会社に仕える身」から,「一国一城のあるじ」に変わることを指すものです.独立するキッカケはさまざまでしょうが,「一国一城のあるじ」になるという強い思いが動機の多くを占めていたと思います.サラリーマン時代に培った経験をもとに,同じしごとの内容で起業することが多いようです.したがって,起業時には,食べていけるだけの収入のめどが立っているケースが多いのではないでしょうか.逆に言えば,「食べていけるめどが立つまでは起業しない」,ということも言えると思います.

 また,個人で準備できる程度の資金(数千万円以下)による起業が多い,という点も特徴でしょう.筆者がベンチャ・キャピタルに転職した当時(約4年前)は,このような起業家に会うことがほとんどでした.

●最近は,今までだれもやったことのない事業で起業

 筆者が会う人々の雰囲気が変わってきたのが,2000年初頭のネット・バブルのときです.20代の若年層の起業家が目立っていました.「ネット上で何かをする」という会社が多く,起業家の経験と事業内容の関連は薄いケースが多かったと思います.一種の「お祭り」状態で,いてもたってもいられずに起業した人も多かったのではないでしょうか.功も罪もあるバブルですが,一般の人々に「起業は,それほど特別なものではない」と感じてもらえるようになった効果は大きかったと思います.ネット・バブルがはじけたあとも,これまでなら起業など考えもしなかった人々に,実際に起業を検討させるきっかけを作ったのだと思います.

 ネット・バブル後には,大企業のリストラを契機とする中高年層の起業が多くなってきました.事業撤退を契機に独立する,あるいは早期退職制度を利用して起業するなど,大企業に背中を押されて起業するケースが増えたように思います.従来の脱サラ型の起業とは異なり,起業に大規模な資金を必要とする例も出てきました.まだ実験室レベルのハードウェア技術を製造・販売する会社を立ち上げようと思うと,製品化までにどうしても数億円規模の資金が必要となります.今まではこの資金調達がネックとなり,起業を断念する人がほとんどだったのですが,リストラで研究内容の事業化を断念させられた研究者が,ベンチャ・キャピタルや公的支援制度を活用し,10億円規模の資金を集めて起業する例が出始めています.

 以前にはほとんどなかった大学教官の起業も増えてきました.2001年5月に「大学発ベンチャを3年間で1,000社誕生させる」という経済産業省のプランが実行に移され,すでに500社を超える大学発ベンチャが生まれています.大学発ベンチャについては,事業経験がまったくない人々が,周囲の協力を得て起業しているという特徴があります.

 いずれにしても,以前は事業経験をそれなりに積んだ人が,ほぼ同じ事業内容で手堅く起業することが多かったのに対して,今は事業経験がまったくない人や,今までだれもやったことのない事業での起業が増えてきました.

●ベンチャ・キャピタル業界も変化した

 起業家像の変化に合わせて,ベンチャ・キャピタルの活動も変化してきています.かつては,事業経験の豊かな人が同じ事業で起業することが多かったため,ベンチャ・キャピタルが貢献できる場面は,資金提供や株式公開に向けての経営管理体制の構築以外に,あまりありませんでした.極論すれば,優秀な起業家を見つけさえすればよかったのです.

 ところが,最近のように,事業経験のない人が数多く起業するようになると,資金を出して株主になるベンチャ・キャピタルが,経営面をサポートしていかなければなりません.ベンチャ・キャピタルに必要とされる能力が,本格的に「事業性・技術の目利き」と「経営ノウハウの提供」に移ってきています.この変化に適応するため,既存のベンチャ・キャピタルは大幅な組織変更と評価制度の改革を行っていますし,投資分野を絞った新興のベンチャ・キャピタルも誕生しています.

 今後は,どのような成功例を出していけるかによって,ベンチャ・キャピタルの評価が決まってくるでしょう.ようやく日本のベンチャ・キャピタルにも競争の時代がやってきたと考えています.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2004年1月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
佐藤亘(さとうわたる).大学(工学部金属加工学科)卒業後,大手半導体メーカを経て,1999年に日本ベンチャーキャピタル入社.御意見,ご感想はwsato@nvcc.co.jpまでお願いします.

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