専用OSによって省電力を実現するアドホック型無線センサ・ネットワーク ――米国Crossbow Technology社のセンサ付きアクティブ型RFIDタグ「MOTE-2」

組み込みネット編集部

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レポート 2004年11月25日

 2004年10月28日~29日,米国Crossbow Technology社は,同社の無線センサ・ネットワーク・システム開発キット「MOTE」に関する技術セミナを開催した(写真1).大学やメーカの研究部門の技術者を対象に,開発者自身がMOTEの概念や無線センサ・ネットワーク用に開発されたOS「TinyOS」の解説,プログラミング実習などを行った.

 MOTEは,基地局用ボードやRFIDタグ(ノード),センサ基板,ゲートウェイなどで構成される(写真2).これらは無線端末のみで構成されるネットワーク(アドホック・ネットワーク)を構築する.アクセス・ポイントは必要としない.本RFIDタグは,各種センサから取得したデータを無線で伝送する.国によって法規制が異なるため,例えば米国では433MHz/916MHzの,欧州では868MHzの,日本では315MHzの周波数帯に対応したRFIDタグを出荷している.また,2.4GHzの周波数帯を利用する無線通信「ZigBee(物理層はIEEE 802.15.4)」に対応した製品も用意している.

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[写真1] セミナのようす
受講者は,パソコンとMOTEを持参して,プログラミング実習に取り組んだ.実習を伴った技術セミナが日本で開催されるのは今回が初めて.

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[写真2] MOTE開発キット
左上の大きな基板がパソコンに接続する基地局ボード.その右および下にある小さい四角い基板は「MICA型」のRFIDタグ.右下の丸い基板は「DOT型」のRFIDタグ.DOT型は直径25mmと小さい.

 同社は3年ほど前からMOTEの発売を開始した.すでに10万個のRFIDタグを出荷している.実証実験も始まっており,例えば米国ではぶどう畑に温度センサを搭載したRFIDタグを多数設置して収穫時期を判断したり,ウミツバメの巣に設置して生態の研究などに利用しているという.

 ここでは,本セミナに合わせて来日したCrossbow Technology社のPresident&CEOであるMike Horton氏に,MOTE開発の経緯や要素技術,今後の展望などについて聞いた(写真3)

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[写真3] Crossbow Technology社のPresident&CEOであるMike Horton氏

――ワイヤレス・センサ・ネットワークに携わるようになったきっかけは?

Mike Horton氏:当社はもともと,MEMSセンサを用いたシステムを開発するところからスタートしました.MEMSセンサは半導体チップの製造プロセスを用いて作ります.そのため,センサ自体のコストは安くなっています.ところが,MEMSセンサどうしをつないでシステムを構築する際,有線を用いると設計が難しく,かつコストが高くなります.

 この問題を解決するため,無線を用いてセンサ・ネットワークを構築することを考えました.私は米国University of California, Barkeley(UC Barkeley)出身で,当社の共同創設者が同大学工学部の学部長だったこともあり,両者が協力してワイヤレス・センサ・ネットワーク「SmartDust」の開発に取りかかりました.当社はハードウェア「MOTE」の構築を行い,UC BarkeleyはSmartDust向けのOS「TinyOS」を開発することになりました.

――「MOTE」の特徴の一つは低消費電力です,どうやって実現したのでしょうか.

Mike Horton氏:低消費電力を実現できた大きな要因はOSにあります.もちろん,ハードウェアの設計についても低消費電力化に配慮しています.しかし,実際により多くの低消費電力を実現しているのはソフトウェアです.

 ハードウェアでいくら低消費電力化を図ったとしても,適切な処理を行わなければ,低消費電力を効果的に実現できません(※注).無線センサ・ネットワークでは,各ハードウェア(モジュール)間で同期をとったり,同時刻にスリープとウェークアップを発生させたり,高速な無線通信のON/OFF,センサへの電力供給の制御などが要求されます.これらすべてを実現するためには,ソフトウェアでハードウェアをサポートする必要があります.

 また,マルチホップ方式のセンサ・ネットワークのような複雑なシステムを構築するには,こうしたOSがないと実用的ではないでしょう.

 ;TinyOSは,省電力を最重要視して設計されたOSである.要求されるタスクに必要なコンポーネントのみをノードに搭載するしくみを持つ.また,パワー・マネージメントや時間同期の機能を備えている.本OSは,物理層からアプリケーション・ソフトウェアまでを制御する.

――マルチホップ方式(複数の無線接続でネットワークを構成)はCrossbow社独自の技術ですか?

Mike Horton氏:マルチホップ方式というのは一般的な技術であり,当社特有の技術ではありません.また,当社はハードウェアの情報も公開していますし,TinyOSもオープン・ソースです.

 ただし,TinyOS上で動作するアプリケーション・ソフトウェアの中には当社が開発したものがあり,それについては著作権を主張することができます.今のところ,こうしたソフトウェアについては,MOTEを使用する場合であれば,無償で提供しています.また,別のハードウェアといっしょに使う場合でも,それが研究目的であればライセンス料は取とりません.別のハードウェアで,かつ商用目的の場合は,ライセンス料の交渉を行っていくことを検討しています.

――Intel社の出資を受けていますが,技術面での協力は受けていますか?

Mike Horton氏:UC BarkeleyはTinyOSを開発した.そして当社はTinyOS用のハードウェア「MOTE」を開発しました.約2年ほど前,Intel社はセンサ・ネットワークの分野に参入する方針を打ち立てました.同社はUC Barkeley内に研究室を設けて,TinyOSの開発に加わりました.また,当社のハードウェアである「MOTE」の開発にも関心を持ち,当社のエンジニア数人がIntel社の研究室に行って協力しました.新しいアプリケーション,モデリング,慣性センサの保守,Intel社のXScaleプロセッサを搭載したゲートウェイの開発など,多くの事がらについて協力し合っています.

 現在,当社は「MOTE-2」を,Intel社は「iMOTE」というハードウェアを開発しました.この二つは,少し異なる特徴を持っています.例えば,iMOTEはARMプロセッサを搭載しており,無線通信方式としてBluetoothを採用しています.

 一方,MOTE-2は微弱無線と小規模なプロセッサを採用しています.また,iMOTEは現段階では実験用途ですが,MOTE-2は商用のアプリケーションに用いられます.現在,私たちは次世代のハードウェアの開発を検討しています.その中には,MOTEアプリケーション向けのカスタム・チップの開発も含まれています.

――数年後にはセンサとCPU,RF回路は1チップ化されるのでしょうか?

Mike Horton氏:それはもちろん行うつもりです.ただし,1チップ化を目指しているというよりも,高密度実装のマルチチップ・モジュールを開発するといったほうがよいかもしれません.例えば,温度センサは同じモジュール基板に実装されますが,使い勝手を考えるとそれ以外のセンサは外付けになるでしょう.次の製品を開発する段階で,いくつかのセンサ・オプションを作るつもりです.

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