「うちも車載やってます!」,LSIメーカや部品メーカ各社がこぞってアピール ――Convergence 2004
2004年10月18日~20日,米国ミシガン州DetroitのCobo Centerにて,自動車エレクトロニクス技術に関するコンファレンス/展示会「Convergence 2004」が開催された(写真1).最近では自動車の電子化が進み,自動車に搭載されるLSIや電子部品の数が増えている.自動車用のLSIや電子部品には,一般の民生機器用と比べて,温度特性や信頼性の基準が厳しいという特徴がある.LSIメーカや電子部品メーカは,こうした基準をクリアした製品を「車載向け」と銘打って,続々発表している.例えば,プログラマブル・デバイス・ベンダ大手の米国Xilinx社は,車載に特化したFPGA/Complex PLDファミリを発表し,CANコントローラのデモンストレーションなどを行った.
●自動車に特化したFPGA/Complex PLDとIPコアをセットで提供
米国Xilinx社は,Convergence 2004に合わせて,車載用FPGA/Complex PLDファミリ「Xilinx Automotive(XA)」を発表した.XAファミリの特徴は,温度特性を自動車向けに-40~125℃としている点である.また,QS-9000やAEC-Q100などの認定も受けている.
FPGAとしては1.8V動作の「Spartan-IIE」と1.2V動作の「Spartan-3」を,Complex PLDとしては1.8V動作の「CoolRunner-II」と3.3V動作の「XA9500XL」を提供する.FPGAは搭載システム・ゲート数が5万(ロジック・セル数は1,728)~100万(同17,280)の品種を,CPLDは750~6,000の品種を用意する.また,1M~4Mバイトのコンフィグレーション用フラッシュ・メモリも合わせて提供する.
Convergence 2004の展示会場では,15万ゲートのSpartan-IIE(XA2510E)を三つ使用して,CCDカメラで取り込んだ画像をLCD(液晶ディスプレイ)に表示した.また,CANバスによってメータ類を制御したり,LINバスによってミラー角度を制御するなどのデモンストレーションも行った(写真2).XAファミリに対応した評価ボードと自動車応用向けIPコア(CANコントローラ,LINコントローラ,ビデオ・コントローラ,ステッピング・モータ・コントローラなど)は,米国Ultimodule社から提供される.
XAファミリのSpartan-IIEは2005年第1四半期,Spartan-3は同年第2四半期,CoolRunner-IIとXA9500XLは同年第3四半期から量産を開始する予定.
●FPGA内蔵のデータ収集装置をオートバイのECUとして利用
米国National Instruments社は,FPGAを搭載したモジュール式データ収集装置「CompactRIO」を展示した.400MHz動作のCPUとFPGAがシャーシ(筐体)に組み込んであり,必要なI/Oモジュール(アナログ入出力,ディジタル入出力,パルス発生器,カウンタ,タイマなど)と組み合わせて利用する.I/Oモジュール用スロットを四つ備えるシャーシと,八つ備えるシャーシを用意する.データ収集だけでなく,機械制御装置やデータのモニタ装置としても使用できる.
FPGAは米国Xilinx社の「Virtex-II」を使っており,ユーザは100万システム・ゲート品か300万システム・ゲート品のどちらか一方を選択できる.同社のテスト・システム開発環境「LabVIEW」に「LabVIEW FPGA」というモジュールを追加すれば,HDLを記述しなくてもGUI操作によってFPGAのコンフィグレーションを行えるという.
本装置の耐衝撃性は50g,動作温度範囲は-40℃~70℃である.こうした特徴を生かして,テスト用の試作機として利用することもできる.例えば,Convergence 2004では,本装置の実使用例として,自動車関係の制御装置などを手がける米国Drivven社のオートバイのエンジン制御システムを展示した(写真3).エンジン制御用ECU(electronic control unit)をFPGAで実装し,フライホールやイグニッション・コイル,プラグの点火などに必要な三つのモジュールを加えて,エンジン制御システムを構成した.このような構成にすることで,オートバイを走らせながらデータを収集できる.
なお,I/OモジュールはNational Instruments社から提供されるが,同社からモジュール作成に必要な情報を入手してユーザ側でカスタマイズすることも可能.Drivven社の場合,モジュールはすべてカスタム品であるという.
●FlexRay対応デバイス,各社がロードマップを発表
米国Freescale Semiconductor社のブースでは,FlexRayの通信コントローラLSI「MRF4200」のデモンストレーションが行われた(写真4).FlexRayは,データ転送速度が10Mbpsと高速な車載ネットワーク規格であり,最新のバージョンは2.0である.MRF4200は1世代前のFlexRayの仕様に対応しているが,次期製品のMRF4300ではバージョン2.0に対応するという.また,FlexRayの通信コントローラと制御用マイコンの1チップ化も計画している.
一方,オランダPhilips Semiconductors社は,FlexRayのバス・ドライバに関する製品概要のパネル展示を行った.同社の説明員によると,2005年初めごろに,バス・ドライバLSI「TJA1080」のファースト・シリコン(サンプル・チップ)が出てくる予定.同社は,ARM9ベースのホスト・マイコンに通信コントローラを追加した「SJA25xx」というLSIを開発している.このLSIの制御信号がTJA1080を介してFlexRayバス(差動信号線)へ伝わる.TJA1080はバス・ガーディアン(エラーの封じ込めを行う機能)を内蔵していないが,バス・ドライバとバス・ガーディアンを1チップに集積したLSIの開発も,現在検討しているという.
また,米国Texas Instruments社はARM7TDMIコアを搭載した車載用32ビット・マイコン「TMS470ファミリ」のデモンストレーションを行った(写真5).本マイコンは,シャーシ系やボディ系の制御を目的に設計されている.動作周波数は最大60MHz.
本マイコンは周辺回路として,CANコントローラ,LINコントローラ,10ビットA-Dコンバータ,タイマ,I2Cインターフェースなどを内蔵している.今回のデモンストレーションでは,ステッピング・モータやディスプレイを制御したり,温度センサの値に応じてLEDを点灯させるなど,八つのタスクを実行させていた.これらのタスクは,米国Micrium社のリアルタイムOS「μC/OS」の上で実行されており,このときのCPU負荷は約12%程度だった.
●128個のCPUが並列動作するリアルタイム画像処理向けLSI
NECエレクトロニクスは,リアルタイム画像処理を専門に行うLSI「IMAP/Car」の開発を進めている.本LSIは,8ビットCPUを128個並列に動作させる.動作周波数は100MHz.処理性能は,理論値で100GOPS(giga operation per second)であり,これはPentiumプロセッサの3~4倍の処理性能に相当するという.また,消費電力は最大2Wと低い.CCDカメラを用いて自動車の前方の物体を検出するなど,おもに安全走行系制御における需要を見込んでいる.
Convergence 2004の同社のブースでは,本LSIのプロトタイプである「IMAP/CE(写真6)」を用いたデモンストレーションが行われた.IMAP/CEを搭載したPCIカードをパソコンに挿入し,あらかじめ録画しておいたカメラ映像に対して,道路上の白線や前方車両の検出をリアルタイムに行った(写真7).1フレーム当たりの処理時間は40ms~50ms程度である.
IMAP/CarのコアはIMAP/CEとほとんど同じ構成だが,車載向けとして温度特性や信頼性を向上させる予定.また,コア電圧もIMAP/CEの1.5Vから1.2Vへと引き下げる.周辺電圧は3.3Vで変更はない.
2007年にIMAP/Carの量産出荷を開始する予定.また,これと合わせて1Mバイトの車載用SRAM「SSRAM/Car」も提供する.
●MOSTバスを介したマルチフォーマットのビデオ・ストリーミング
米国Analog Devices社は,同社のメディア・プロセッサ「Blackfin」を用いて,MOST(Media Oriented System Transport)バスを利用したマルチフォーマットのビデオ・ストリーミングのデモンストレーションを行った(写真8).
今回のデモンストレーションでは,Blackfin(ADSST-BF533-C45)とオーディオCODEC LSI「AD1885」,ビデオ・エンコーダLSI「AD7179」の3チップで構成される「Blackfin Automotive Rear Seat Display(RSD)」というチップセットを用いた.AD7179は,NTSCやPAL,RGBのフォーマットに対応している.
ここではMPEG-2とDVM(同社が開発したビデオ圧縮技術)という二つの圧縮データをMOSTバスに転送し,二つのディスプレイに別々の映像(情報)を表示させた.例えば,自動車の後部座席に二つ(運転席側と助手席側)のディスプレイが取り付けられており,ひとりは映画を見て,もうひとりがテレビ・ゲームをするといった応用を想定している.
なお,本デモンストレーションでは,MOSTトランシーバLSIにドイツOASIS SiliconSystems社の「OS8104」が用いられていた.
●IEEE1394ネットワークでカメラ・システムを構築
住友電気工業は,自動車のワイヤ・ハーネスの製造を手がけており,ハーネス間のコネクタやECUなども開発している.最近ではカメラ・システムの開発にも着手している.例えば,自動車が車庫や狭い路地から出るとき,左右の状況を確認するために自動車の先頭に取り付けるCCDカメラを開発した.レンズと組み合わせることによって,一つのCCDカメラに自動車の左右の景色を一度に取り込み,カー・ナビゲーション・システムのディスプレイに表示する(写真9).すでに本システムを採用している自動車もあるという.
同社は,IEEE1394ネットワークを利用した自動車のカメラ・システムのデモンストレーションも行った.模型の自動車の運転席側に1個,助手席側に2個,前方と後方にそれぞれ1個づつの合計五つのCCDカメラの情報をディスプレイに映し出した(写真10).CCDカメラで取得し映像データは,IEEE1394ネットワークを介してディスプレイに転送する.CCDカメラは市販品だが,IEEE1394の光ファイバ・ケーブルやリピータ(電気信号と光信号の変換装置),画像処理ソフトウェア(実際のカメラ映像で湾曲して見える箇所の補正)などは同社製である.
●部品メーカが「車載」の市場に続々参入
京セラは,自動車向けのパッケージ技術や電子部品などの展示を行った(写真11).同社は以前から自動車向け製品の事業を展開しているが,Convergenceに出展するのは今回が初めてだという.
同社は,現在多くの自動車に搭載されつつあるMEMS(micro electro mechanical systems)デバイス用パッケージやミリ波レーダMMIC(monolithic microwave IC)用パッケージを得意としている.また,ECUモジュールやCCDカメラ・モジュールなどの開発も手がけている.いずれも,すでに採用実績があるという.現在,テレマティクス(車載情報システム)用の通信モジュールも開発している.
一方,三洋電機は自動車向けのステッピング・モータやハイブリッド車用バッテリを展示した.同社は,これまでおもに民生機器向けの製品を開発してきたが,今後は車載応用をターゲットとした製品も拡充していくという.
ステッピング・モータ「Model 2512」は,パワー・ステアリングの油圧制御に使用されるもので,実際に欧州の自動車メーカに採用されている(写真12).民生機器用とは異なり,厳しい環境特性や振動,温度特性などを考慮して設計しているという.また,ハイブリッド車用バッテリも欧州のメーカに採用されている.写真13の1.2Vのバッテリを230個組み合わせて使用しているという.