「うちも車載やってます!」,LSIメーカや部品メーカ各社がこぞってアピール ――Convergence 2004

組み込みネット編集部

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レポート 2004年10月22日

 2004年10月18日~20日,米国ミシガン州DetroitのCobo Centerにて,自動車エレクトロニクス技術に関するコンファレンス/展示会「Convergence 2004」が開催された(写真1).最近では自動車の電子化が進み,自動車に搭載されるLSIや電子部品の数が増えている.自動車用のLSIや電子部品には,一般の民生機器用と比べて,温度特性や信頼性の基準が厳しいという特徴がある.LSIメーカや電子部品メーカは,こうした基準をクリアした製品を「車載向け」と銘打って,続々発表している.例えば,プログラマブル・デバイス・ベンダ大手の米国Xilinx社は,車載に特化したFPGA/Complex PLDファミリを発表し,CANコントローラのデモンストレーションなどを行った.

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[写真1] Convergence 2004の会場
米国ミシガン州DetroitのCobo Centerにて,自動車技術に関するコンファレンスおよび展示会「Convergence 2004」が開催された.

●自動車に特化したFPGA/Complex PLDとIPコアをセットで提供

 米国Xilinx社は,Convergence 2004に合わせて,車載用FPGA/Complex PLDファミリ「Xilinx Automotive(XA)」を発表した.XAファミリの特徴は,温度特性を自動車向けに-40~125℃としている点である.また,QS-9000やAEC-Q100などの認定も受けている.

 FPGAとしては1.8V動作の「Spartan-IIE」と1.2V動作の「Spartan-3」を,Complex PLDとしては1.8V動作の「CoolRunner-II」と3.3V動作の「XA9500XL」を提供する.FPGAは搭載システム・ゲート数が5万(ロジック・セル数は1,728)~100万(同17,280)の品種を,CPLDは750~6,000の品種を用意する.また,1M~4Mバイトのコンフィグレーション用フラッシュ・メモリも合わせて提供する.

 Convergence 2004の展示会場では,15万ゲートのSpartan-IIE(XA2510E)を三つ使用して,CCDカメラで取り込んだ画像をLCD(液晶ディスプレイ)に表示した.また,CANバスによってメータ類を制御したり,LINバスによってミラー角度を制御するなどのデモンストレーションも行った(写真2).XAファミリに対応した評価ボードと自動車応用向けIPコア(CANコントローラ,LINコントローラ,ビデオ・コントローラ,ステッピング・モータ・コントローラなど)は,米国Ultimodule社から提供される.

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[写真2] Xilinx社のXAファミリのデモンストレーション
本デモンストレーションでは,15万システム・ゲート(ロジック・セル数3,888)規模のSpartan-IIEを搭載した評価ボードを三つ用いた.CANバスとメータ類の制御に10,022のロジック・セルを要するため,3個のFPGAが必要になったという.今後,100万システム・ゲート(ロジック・セル数は17,280)規模のFPGA(Spartan-3 XA351000)を搭載した評価ボードが提供される予定.これを利用すると,同じシステムを一つのボードで実現できる.

 XAファミリのSpartan-IIEは2005年第1四半期,Spartan-3は同年第2四半期,CoolRunner-IIとXA9500XLは同年第3四半期から量産を開始する予定.

●FPGA内蔵のデータ収集装置をオートバイのECUとして利用

 米国National Instruments社は,FPGAを搭載したモジュール式データ収集装置「CompactRIO」を展示した.400MHz動作のCPUとFPGAがシャーシ(筐体)に組み込んであり,必要なI/Oモジュール(アナログ入出力,ディジタル入出力,パルス発生器,カウンタ,タイマなど)と組み合わせて利用する.I/Oモジュール用スロットを四つ備えるシャーシと,八つ備えるシャーシを用意する.データ収集だけでなく,機械制御装置やデータのモニタ装置としても使用できる.

 FPGAは米国Xilinx社の「Virtex-II」を使っており,ユーザは100万システム・ゲート品か300万システム・ゲート品のどちらか一方を選択できる.同社のテスト・システム開発環境「LabVIEW」に「LabVIEW FPGA」というモジュールを追加すれば,HDLを記述しなくてもGUI操作によってFPGAのコンフィグレーションを行えるという.

 本装置の耐衝撃性は50g,動作温度範囲は-40℃~70℃である.こうした特徴を生かして,テスト用の試作機として利用することもできる.例えば,Convergence 2004では,本装置の実使用例として,自動車関係の制御装置などを手がける米国Drivven社のオートバイのエンジン制御システムを展示した(写真3).エンジン制御用ECU(electronic control unit)をFPGAで実装し,フライホールやイグニッション・コイル,プラグの点火などに必要な三つのモジュールを加えて,エンジン制御システムを構成した.このような構成にすることで,オートバイを走らせながらデータを収集できる.

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(a) CompactRIOを搭載したオートバイ


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(b) ECU部


[写真3] National Instruments社のCompactRIOの応用例
Drivven社のオートバイ用エンジン制御システムのプロトタイプ(試作機)として利用されている.FPGAはECUとして機能している.このFPGAに,スロットル/フライホイール,イグニッション・コイル,プラグ点火などの制御に必要なモジュールを接続して,オートバイのエンジン制御を行っている.

 なお,I/OモジュールはNational Instruments社から提供されるが,同社からモジュール作成に必要な情報を入手してユーザ側でカスタマイズすることも可能.Drivven社の場合,モジュールはすべてカスタム品であるという.

●FlexRay対応デバイス,各社がロードマップを発表

 米国Freescale Semiconductor社のブースでは,FlexRayの通信コントローラLSI「MRF4200」のデモンストレーションが行われた(写真4).FlexRayは,データ転送速度が10Mbpsと高速な車載ネットワーク規格であり,最新のバージョンは2.0である.MRF4200は1世代前のFlexRayの仕様に対応しているが,次期製品のMRF4300ではバージョン2.0に対応するという.また,FlexRayの通信コントローラと制御用マイコンの1チップ化も計画している.

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[写真4] Freescale Semiconductor社のFlexRayのデモンストレーション
MRF4200を用いたFlexRayバスによる通信を行い,その信号をモニタに映している.

 一方,オランダPhilips Semiconductors社は,FlexRayのバス・ドライバに関する製品概要のパネル展示を行った.同社の説明員によると,2005年初めごろに,バス・ドライバLSI「TJA1080」のファースト・シリコン(サンプル・チップ)が出てくる予定.同社は,ARM9ベースのホスト・マイコンに通信コントローラを追加した「SJA25xx」というLSIを開発している.このLSIの制御信号がTJA1080を介してFlexRayバス(差動信号線)へ伝わる.TJA1080はバス・ガーディアン(エラーの封じ込めを行う機能)を内蔵していないが,バス・ドライバとバス・ガーディアンを1チップに集積したLSIの開発も,現在検討しているという.

 また,米国Texas Instruments社はARM7TDMIコアを搭載した車載用32ビット・マイコン「TMS470ファミリ」のデモンストレーションを行った(写真5).本マイコンは,シャーシ系やボディ系の制御を目的に設計されている.動作周波数は最大60MHz.

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[写真5] Texas Instruments社のTMS470のデモンストレーション
米国Micrium社のリアルタイムOS「μC/OS」の上で八つのタスクを実行していた.

 本マイコンは周辺回路として,CANコントローラ,LINコントローラ,10ビットA-Dコンバータ,タイマ,I2Cインターフェースなどを内蔵している.今回のデモンストレーションでは,ステッピング・モータやディスプレイを制御したり,温度センサの値に応じてLEDを点灯させるなど,八つのタスクを実行させていた.これらのタスクは,米国Micrium社のリアルタイムOS「μC/OS」の上で実行されており,このときのCPU負荷は約12%程度だった.

●128個のCPUが並列動作するリアルタイム画像処理向けLSI

 NECエレクトロニクスは,リアルタイム画像処理を専門に行うLSI「IMAP/Car」の開発を進めている.本LSIは,8ビットCPUを128個並列に動作させる.動作周波数は100MHz.処理性能は,理論値で100GOPS(giga operation per second)であり,これはPentiumプロセッサの3~4倍の処理性能に相当するという.また,消費電力は最大2Wと低い.CCDカメラを用いて自動車の前方の物体を検出するなど,おもに安全走行系制御における需要を見込んでいる.

 Convergence 2004の同社のブースでは,本LSIのプロトタイプである「IMAP/CE(写真6)」を用いたデモンストレーションが行われた.IMAP/CEを搭載したPCIカードをパソコンに挿入し,あらかじめ録画しておいたカメラ映像に対して,道路上の白線や前方車両の検出をリアルタイムに行った(写真7).1フレーム当たりの処理時間は40ms~50ms程度である.

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[写真6] NECエレクトロニクスのIMAP/CEチップ
IMAP/CEは研究レベルの試作品であるため製品化の予定はないという.

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[写真7] Convergence 2004におけるNECエレクトロニクスのデモンストレーション
道路上の白線や前方車両を検出して,リアルタイムにマーキングするデモンストレーションを行った.なお,走行中の自動車の映像は録画されたものである.

 IMAP/CarのコアはIMAP/CEとほとんど同じ構成だが,車載向けとして温度特性や信頼性を向上させる予定.また,コア電圧もIMAP/CEの1.5Vから1.2Vへと引き下げる.周辺電圧は3.3Vで変更はない.

 2007年にIMAP/Carの量産出荷を開始する予定.また,これと合わせて1Mバイトの車載用SRAM「SSRAM/Car」も提供する.

●MOSTバスを介したマルチフォーマットのビデオ・ストリーミング

 米国Analog Devices社は,同社のメディア・プロセッサ「Blackfin」を用いて,MOST(Media Oriented System Transport)バスを利用したマルチフォーマットのビデオ・ストリーミングのデモンストレーションを行った(写真8)

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(a) デモンストレーションのようす


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(b) デモンストレーションに利用したボード


[写真8] Analog Devices社のBlackfin RSDチップセットのデモンストレーション
MOSTバスを利用して二つのディスプレイに映像を表示するデモンストレーションを行った.二つのDVDプレーヤのうちの一方はMPEG-2データを,もう一方はDVM(Analog Devices社が開発したビデオ圧縮技術)データを出力している.

 今回のデモンストレーションでは,Blackfin(ADSST-BF533-C45)とオーディオCODEC LSI「AD1885」,ビデオ・エンコーダLSI「AD7179」の3チップで構成される「Blackfin Automotive Rear Seat Display(RSD)」というチップセットを用いた.AD7179は,NTSCやPAL,RGBのフォーマットに対応している.

 ここではMPEG-2とDVM(同社が開発したビデオ圧縮技術)という二つの圧縮データをMOSTバスに転送し,二つのディスプレイに別々の映像(情報)を表示させた.例えば,自動車の後部座席に二つ(運転席側と助手席側)のディスプレイが取り付けられており,ひとりは映画を見て,もうひとりがテレビ・ゲームをするといった応用を想定している.

 なお,本デモンストレーションでは,MOSTトランシーバLSIにドイツOASIS SiliconSystems社の「OS8104」が用いられていた.

●IEEE1394ネットワークでカメラ・システムを構築

 住友電気工業は,自動車のワイヤ・ハーネスの製造を手がけており,ハーネス間のコネクタやECUなども開発している.最近ではカメラ・システムの開発にも着手している.例えば,自動車が車庫や狭い路地から出るとき,左右の状況を確認するために自動車の先頭に取り付けるCCDカメラを開発した.レンズと組み合わせることによって,一つのCCDカメラに自動車の左右の景色を一度に取り込み,カー・ナビゲーション・システムのディスプレイに表示する(写真9).すでに本システムを採用している自動車もあるという.

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[写真9] 一度に左右の景色を確認できる住友電気工業のCCDカメラ
レンズとCCDカメラを組み合わせることにより,左右の情報を一度に得ることができる.

 同社は,IEEE1394ネットワークを利用した自動車のカメラ・システムのデモンストレーションも行った.模型の自動車の運転席側に1個,助手席側に2個,前方と後方にそれぞれ1個づつの合計五つのCCDカメラの情報をディスプレイに映し出した(写真10).CCDカメラで取得し映像データは,IEEE1394ネットワークを介してディスプレイに転送する.CCDカメラは市販品だが,IEEE1394の光ファイバ・ケーブルやリピータ(電気信号と光信号の変換装置),画像処理ソフトウェア(実際のカメラ映像で湾曲して見える箇所の補正)などは同社製である.

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[写真10] 住友電気工業のIEEE1394カメラ・システムのデモンストレーション
データ転送速度が100Mbps以上のIEEE1394ネットワークを用いてカメラ・システムを構築した.

●部品メーカが「車載」の市場に続々参入

 京セラは,自動車向けのパッケージ技術や電子部品などの展示を行った(写真11).同社は以前から自動車向け製品の事業を展開しているが,Convergenceに出展するのは今回が初めてだという.

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[写真11] 京セラのMMICパッケージ
写真中央が77GHzのミリ波レーダ用MMICのパッケージ.これに電波吸収体をかぶせてノイズの低減を図る.24GHzのミリ波レーダ用パッケージも提供している.

 同社は,現在多くの自動車に搭載されつつあるMEMS(micro electro mechanical systems)デバイス用パッケージやミリ波レーダMMIC(monolithic microwave IC)用パッケージを得意としている.また,ECUモジュールやCCDカメラ・モジュールなどの開発も手がけている.いずれも,すでに採用実績があるという.現在,テレマティクス(車載情報システム)用の通信モジュールも開発している.

 一方,三洋電機は自動車向けのステッピング・モータやハイブリッド車用バッテリを展示した.同社は,これまでおもに民生機器向けの製品を開発してきたが,今後は車載応用をターゲットとした製品も拡充していくという.

 ステッピング・モータ「Model 2512」は,パワー・ステアリングの油圧制御に使用されるもので,実際に欧州の自動車メーカに採用されている(写真12).民生機器用とは異なり,厳しい環境特性や振動,温度特性などを考慮して設計しているという.また,ハイブリッド車用バッテリも欧州のメーカに採用されている.写真13の1.2Vのバッテリを230個組み合わせて使用しているという.

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[写真12] 三洋電機のステッピング・モータ
パワー・ステアリングの油圧制御専用.自動車ごとにカスタマイズが必要となるため,仕様は一般公開されていない.

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[写真13] 三洋電機のハイブリッド車用バッテリ
1.2Vのバッテリを230個組み合わせて,ハイブリッド車に搭載しているという.

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