小型・低消費電力を競う携帯電話向け地上ディジタル・テレビ放送受信モジュール ――CEATEC JAPAN 2004
2004年10月5日~9日,幕張メッセ(千葉県千葉市)にて,映像・情報・通信に関する展示会「CEATEC JAPAN 2004」が開催された(写真1).2006年から開始されると言われている携帯機器や移動体通信端末向けの地上ディジタル放送に向けて,多くの半導体・部品メーカが専用受信モジュールなどを展示した.例えば,村田製作所は外形寸法が12mm×10.5mm×1.6mm,消費電力が128mW(2.8V動作時)の受信モジュールを展示していた.このほか,車載ネットワーク規格「FlexRay」に対応したコントローラの試作機や,UWB(Ultra Wideband),ワイヤレスLANなどの無線通信関連のデモンストレーションが多数行われた.
●RF ICと復調ICのマルチチップ・モジュールを製品化
地上ディジタル・テレビ放送は,6MHzの周波数帯域を13のセグメントに分けて利用する.このうち,中央の1セグメントが携帯機器や移動体通信端末向けとして割り当てられている(このため,「1セグメント放送」と呼ばれる).1セグメント放送サービスは携帯機器などを対象としているため,受信モジュールには小型化・低消費電力化が求められる.
村田製作所は,2005年夏ごろの量産開始を予定している1セグメント放送受信モジュールを展示した(写真2).RF ICとOFDM(orthogonal frequency division multiplexing;直交周波数分割多重)復調ICを一つのパッケージに封止した.外形寸法は,12mm×10.5mm×1.6mm.2.8Vの単一電源で動作し,消費電力は128mW.TS出力に対応している.
一方,ミツミ電機は1セグメント放送受信モジュール「DVT-J01D」のデモンストレーションを行った(写真3).本受信モジュールの外形寸法は20mm×15mm×1.8mm.RF ICとOFDM復調IC,0603(0.6mm×0.3mmサイズ)のチップ・コンデンサや抵抗をガラスエポキシ基板に実装している.消費電力は最大180mW.量産出荷は2005年末からだが,それまでにさらに小型化や消費電力の削減を図っていくという.
東芝のブースでは,1セグメント放送向けのRF IC「TB1300FTG」と復調IC「TC90501FLG」が展示された.外形寸法は,TB1300FTGが5.3mm×5.3mm×0.6mm,TC90501FLGが7mm×7mm×0.5mm.この二つのICをモジュール化したもの(写真4)を2005年半ばごろに出荷する予定.
また,ルネサス テクノロジは,1セグメント放送用のミドルウェアのデモンストレーションを行った(写真5).本ミドルウェアは,同社のアプリケーション・プロセッサ「SH-Mobile 3」に実装される.データ情報処理や音声デコーダなどのミドルウェアのほか,H.264(ベースライン・プロファイル)に準拠したビデオ・デコーダ回路が専用ハードウェア(IPコア)としてSH-Mobile 3に実装されている.本ミドルウェアは2004年末から出荷を開始する予定.
●FlexRay対応評価ボードの展示も続々と
NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジのブースでは,バス帯域が最大10Mbpsと高速な車載LAN規格「FlexRay」に対応した評価ボードの展示が行われた.本展示会では,2社ともFlexRayの通信コントローラ部分をFPGAで実現していた.なお,両社はFlexRayのプロトコル・エンジンについて,ドイツのRobert Bosch社からライセンスを受けている.
NECエレクトロニクスの評価ボードには,FlexRay通信コントローラを実装したFPGAとそのコンフィグレーション用ROM,制御用マイコン「V850E/IA1」などが搭載されている(写真6).V850E/IA1はCAN(controller area network)コントローラを内蔵している.また,本評価ボードはCANドライバICとCANコネクタを備えているので,CANバスとの通信も可能.2005年第3四半期には,FlexRay通信コントローラLSIとしてサンプル出荷を開始する予定.その後,制御用マイコンと1チップ化していくという.
ルネサス テクノロジの評価ボードは,通信コントローラ(FPGA)や制御用マイコン「M32C85」を搭載したメイン・ボードと,バス・ドライバなどを搭載した物理層ボードからなる(写真7).バス・ドライバ・チップは同社が開発したもの.2006年には通信コントローラを集積したM32C/9xベースのマイコンとバス・ドライバLSIを発売する予定.その後,バス・ドライバにバス・ガーディアン(バスのエラー防止機能)を組み込んだLSIを出荷する.最終的には,FlexRay通信コントローラ内蔵マイコンとバス・ドライバLSIのマルチチップ・モジュールとして発売するという.
●次世代ワイヤレス通信で各社がデモンストレーション
太陽誘電のブースでは,MIMO(multiple input multiple output)に対応したワイヤレス通信のデモンストレーションが行われた(写真8).MIMOは,一つのチャネルに対して複数のアンテナを使って送受信を行う.伝送速度が向上するほか,通信可能距離も350m(伝送速度が10Mbpsの場合)まで伸びる.
今回のデモンストレーションに使用したMIMO対応のアクセス・ポイントは,1チャネル当たり3本のアンテナを備えており,送信に2本,受信に3本のアンテナを利用していた.この場合のデータ転送速度は理論値で最大108Mbps,スループットは最大45Mbps.デモンストレーションでは,高精細テレビの映像データ(MPEG-2)の送受信を行った.スループットは25Mbps.
また,同社はMIMO対応のPCIカードやPCカードを展示した.これらのカードには,米国Airgo Networks社のベースバンドLSIとRF ICが組み込まれている.現在,試作段階で,製品化の時期は未定.
TDKのブースでは,UWB(ultra wideband)評価システムの展示が行われた.同社は,2004年10月から米国テキサス州で,UWBに対応した無線機やモジュールの評価サービスを開始した.FCC(米国連邦通信委員会)が定めたUWB向けの帯域幅や電界強度などに関する規定に適合するかどうかを試験する.
本展示会では,米国General Atomics社と米国Staccato Communications社のUWB評価キットが展示された(写真9).General Atmics社の評価キットについては,第1世代の製品はすでにTDKの評価サービスによる試験が終わっており,現在,FCCに試験結果を提出して承認を待っている状況である.第2世代目の製品はこれから試験を行うという.また,Staccato Communications社の製品は,現在,試験を行っている段階である.
TDKは,試験に用いられるアンテナや電波吸収体も展示した(写真10).試験では,垂直偏波と水平偏波を測定する必要がある.本アンテナを利用すると,アンテナの向きを変えることなく測定が行える形状になっている.帯域幅は,3.1GHz~10.6GHzに対応している.
●2D映像をリアルタイムに3D映像に変換
マクニカは,NTSCの映像データを3D(3次元)立体視向けの映像データにリアルタイムに変換する業務用セットトップ・ボックスの試作機を展示した(写真11).30フレーム/sの速度で画像を変換できる.3D映像変換アルゴリズムを開発しているマーキュリーシステムと共同開発した.
本セットトップ・ボックスを利用すると,原画像に手を加えることなく,3D立体視向けの映像データ(右目用,左目用)をリアルタイムに生成できる.独自のディジタル信号処理アルゴリズムを利用してオブジェクトの奥行きを判断し,3D映像データに反映させているという.このアルゴリズムはFPGAに実装されている.回路規模は10万ゲート以下,動作速度は27MHz.本回路をIP化したり,ASIC化して提供することも検討している.
2005年3月に出荷を予定している量産機では,アナグリフ(赤青眼鏡),シャッタ眼鏡,偏光眼鏡,3D裸眼モニタなどの各種視差に対応した機能を付加する.入力端子はVIDEO/S-VIDEO,出力端子はVIDEO/S-VIDEO/DVI.OSD(on-screen display)インターフェースを備えている.外形寸法は50mm×220mm×180mm.電源電圧はAC100V~240V.量産機の価格は20万~30万円を予定しているという.
●採用が始まったアナログFPGAの評価ボードを展示
オムロンは手元で機能をプログラムできるアナログIC(FPAA:field programmable analog array)の評価ボード「AN221K04」を展示した(写真12).FPAAとして,米国Anadigm社の「AN221E04」を搭載している.FPAAは,現在,防犯システムやRFID(radio frequency identification),検査装置などに採用されているという.
AN221E04はCAB(Configurable Analog Block)と呼ばれるアナログ回路ブロックを4個搭載している.一つのブロックは,2個のOPアンプと1個の比較器,1個のSAR(逐次近似レジスタ)から成る.このほか,プログラム可能なI/Oフィルタ,可変利得チョッパ・アンプ/バッファ,固定基準電圧,LUT(参照テーブル),プログラム可能なクロック分周器,クロックや比較器のモニタ信号出力などをチップ上に集積している.同時最大I/O点数は6点(差動).ダイナミック・レンジは±3.0V(差動),SN比は80dB(音声帯域では100dB).最大アナログ・クロックは4MHz,実用帯域は400kHz.電源電圧は5.0V±5%.
開発ツール(AnadigmDesigner2)には,比較,増幅,加減算,フィルタ,整流,微積分,乗除算,平方根,非線形変換,I-V変換,正弦波発振,矩形/のこぎり歯状発振,任意波形生成,ピーク・ホールド,サンプル・ホールド,リミッタ,電圧源などを実現する機能モジュールが用意されている.これらを選択・接続し,パラメータを設定するだけで所望の機能を実現できる.
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