Mr.M.P.Iのプロセッサ・レビュー ――リコンフィギャラブルな期待
登場以来,ダイナミック・リコンフィギャラブル・デバイスの話題が盛り上がっているが,その割りには商用になって大量に売れたという話を聞かない.研究開発面では事例を聞くが,半導体は「数出てなんぼ」の世界である.大手を振ってヒットしたと言うには,最低でも月に数千枚のウェハが流れる必要があるだろう.
●汎用にこだわると,先行する成熟技術に勝てない
筆者は,別に「ダイナミック・リコンフィギャラブルがだめだ」と言いたいわけではない.それどころか,業界の方々と同様,プロセッサ市場の現状を根底から覆す潜在能力をダイナミック・リコンフィギャラブル技術の中に見いだしている.ただ,ものごとにはしゅんというものがある.初ガツオは高く売れるが,それを逃せば値段が下がる.早急にやっつけてしまわないと,売れても二束三文になってしまうせとぎわの危うさを,筆者は感じている.
ダイナミック・リコンフィギャラブル技術の売り込みが難しいのは,何にでも使えそうな点であろう.その本質からして,当然すぎるほどに汎用品なのだ.汎用であれば,どうしても広い範囲のアプリケーションをねらい,多くの人々が同時多発的に開発することを想定して,それぞれ個別のアプリケーションは各プロジェクトにまかせ,共通基盤となる開発ツールなどの整備に力を注ぐ,ということになる.それが王道である.王道を歩んでいれば,いつかは市場を制することができるかもしれない.しかし,必要な資金が問題だ.はたして,それまでベンダの体力がもつのか?
現時点で見ると,どうも個別のアプリケーションへの適用が一発でうまくいくかというと,いろいろと問題が多そうである.なにせ,ダイナミック・リコンフィギャラブル技術はまだそれほど技術的な蓄積がないので,試行錯誤が必要な段階にある(と思う.違っていたら,申しわけない).筋の悪い技術ではないので,時間をかけて開発していれば,アプリケーションを実現できるところまではいけると思う.しかし,昨今の競争は激しい.とくに,市場が拡大しそうな応用分野では....機先を制するために先回りをして特定の市場を確保するか,体力勝負では不可能なくらい圧倒的な価格対性能比を実現しないかぎり,勝負にならない.
ダイナミック・リコンフィギャラブル技術を駆使すれば,非常に小さな回路で高い性能を確保できる可能性があるので,「圧倒的な価格対性能比の実現」というのは,あながち不可能な話ではない.ただし,そのためには相当洗練された使いこなしの技術が要求されるだろう.横目で見ているだけのおうちゃく者の筆者には,そのあたりがどこまででき上がっているのか,よくわからない.
もし,まだ使いこなしの技術がそれほど洗練されておらず,人手をつぎ込まないとだめ,という状態にあるのであれば,これは筆者が前から言っていることだが,とりあえず「汎用」を捨て,特定市場を選んで勝負に出るのも一つの選択だろう.映像系,ネットワーク系,無線通信系など,いろいろな可能性のある技術だが,あえてほかを捨て,1点キラー・アプリを作ることに賭け,使いこなしの技術を確立するのも選択肢の一つである.
●権利関係が錯そうして手続きが煩雑にならないか
あと,汎用であるがための潜在的な問題が一つ.業界標準の各種のアルゴリズムに広く動的に適合できるというのがこの技術の魅力の一つなのだが,このことは,最近増えている,「業界標準」に対して権利を主張する権利者によい稼ぎ場所を提供することにほかならない.アルゴリズムを切り替えるたびに,だれかに「動的に」ロイヤリティを支払わなければならないのでは,しゃれにならない.もちろん,ガチガチのハードウェアで作られた専用回路でも知的財産権の問題は存在するのだが,これは先例に従って粛々と処理すればいい話だ.動的にいくつも切り替えられ,そのコンフィグレーションが,あるものはユーザによって,あるものはデバイス・ベンダによって開発され,さらにそれらが混ざったものもある,ということになってしまったら目も当てられないと考えるのは筆者だけだろうか.
「そういうことは最終製品を作るシステム側ですべて処理してくれ.こちらはIP製品を売るだけだ」と開き直ってしまうのも一案ではある.しかし,そうなると確実に市場が狭くなる.一つや二つならよいが,いくつもあるものをいちいちすべてユーザが処理するとなると,時間がかかりすぎる.であれば,デバイス・ベンダ側で先に話をつけて,ユーザは簡単な手続きだけで各種の業界標準アルゴリズムを使えるようにするほうが好ましい.事実,大手IPコア・ベンダはこの方向に向かっている.このあたりはどうなっているのだろう.せっかくのりっぱな「汎用」ハードウェアが,錯そうした権利関係のために使えない,ということにならないことを祈りたい.
ダイナミック・リコンフィギャラブルなデバイスへの期待にも移り変わりがあるようだ.はたしてダイナミック・リコンフィギャラブル・デバイスが「動的に」その期待にこたえられるものなのかどうか.筆者はあいかわらず横目で見ている所存なのである.
(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2004年8月号に掲載されました)
◆筆者プロフィール◆
M.P.I(ペンネーム).若いころ,米国系の半導体会社で8ビット,16ビットのプロセッサ設計に従事.ベンチャ企業に移って,コードはコンパチ,ハードは独自の32ビット互換プロセッサのアーキテクトに.米国,台湾の手先にもなったが,このごろは日本の半導体会社でRISCプロセッサ担当の中間管理職のオヤジ.