有害物質のデータベース公開と工場検査のサポートを提案 ――UL Apex統合1周年記念セミナー
2003年4月,日本最大規模の試験・認証機関となる「ユーエル エーペックス」が設立された.同社は,火災予防,電気などの安全規格の策定,および試験・認証を行う米国の民間団体である Underwriters Laboratories(UL)社の日本法人ユー・エル日本とエーペックス・インターナショナルの合弁会社である(表1).
国名
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認証サービス
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対象製品
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同社の位置づけ
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日本
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Sマーク
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●民生機器(テレビ,ビデオ,オーディオなど) |
認証機関
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米国
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各種
ULマーク |
●最終製品(IT機器,AV機器,医療機器など) ●材料,部品など |
認証機関 |
欧州
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GSマーク
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●家電製品 ●IT機器 ●AV機器など |
国内窓口.ULの子会社であるデンマークのDemko社を活用 |
中国
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CCCマーク
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●電気・電子製品,自動車関連製品など19種類132品目 |
国内窓口(ただし,IT機器とオーディオ機器については試験可能).証明書の発行は中国の認証機関のみ行う |
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CBマーク
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●IEC(国際電気標準会議)が定めたAV機器安全規格(IEC 60065)とIT機器安全規格(IEC 60950)に基づく適合性の評価 | 試験機関として認定されている.2004年6月以降は認証機関として証明の発行も行う |
2004年5月27日,同社の設立1周年を記念して,「アジアの製品安全/EMC規制・欧州の環境規制 に関する最新動向」をテーマとしたセミナが開催された.参加者は機器メーカや部品メーカの技術者が多く,140名定員の会場は満席となった(写真1).ここでは,欧州の環境規制とこれに対する同社のサービスの展開,および日本企業の動きなどについてレポートする.
[写真1]セミナのようす
機器メーカの技術者を中心に大勢の受講者が集まった.安全や環境に関する規制に対するメーカの関心の高さがうかがえる.
●実施日は近づくが,グレーな部分も多いRoHS指令
2003年2月に,EU官報において,使用済み電気・電子製品の回収やリサイクルに関する指令「WEEE」と電気・電子製品の有害物質使用を制限するWEEEの関連法案である「RoHS」が公布された.これを受けて,EU加盟国(25ヵ国)は,2004年8月までに国内法を制定しなくてはならない(ただし,新規EU加盟国については例外措置が規定されている).
WEEE指令の対象となるのは,軍事用,宇宙用,車載用を除いたすべての電気・電子機器である(表2).車載用については使用済みの自動車のリサイクルに関する指令「ELV」に従うが,例えば,後付けのカー・ナビゲーション・システムなどの製品は,WEEE指令が適用されるという.
カテゴリ
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製品例
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大型家庭用電気製品 | 大型冷凍機,冷蔵庫・食品保存庫,洗濯機・洗濯乾燥機,食器洗い機,調理器,電気ストーブ,ホットプレート,電子レンジ,そのほかの大型食品調理器,電熱器,電気暖房機,電動ファン,エアコン,空調機など |
小型家庭用電気製品 | 電気掃除機,カーペット・クリーナ,ミシン,アイロン,トースタ,フライヤ,コーヒー・メーカ,電気ナイフ,整髪機器,ドライヤ,電動歯ブラシ,電動ひげそり,時計など |
ITおよび遠隔通信機器 | メインフレーム,プリンタ,デスクトップ・パソコン(マウスなどの周辺機器を含む),ノート・パソコン,複写機,タイプ・ライタ,電卓,ファクシミリ,電話機,電話の子機,携帯電話,そのほかの情報機器など |
民生用機器 | ラジオ,テレビ,ビデオ・カメラ,オーディオ・アンプ,電子楽器,そのほかの録音・映像機器など |
照明装置 | 各種蛍光灯(家庭用照明を除く),高輝度照明(ナトリウム・ランプ,ハロゲン・ランプ),低圧ナトリウム・ランプなど |
電動工具 | 電気ドリル,電動のこぎり,旋盤,フライス盤,研磨盤,溶接機,はんだごて,塗装工具,芝刈り機など |
玩具 | 電車/レーシング・カー・セット,携帯ゲーム機,ゲーム機,スロットマシンなど |
医療用機器 | 放射線療法機器,心電図測定器,透析装置,人工呼吸器,分析器,そのほかの検査・予防・モニタなどの機器など |
監視および制御機器 | 煙探知機,加熱制御機,サーモスタット,家庭用・実験室用計測器,はかり,監視用機器など |
自動販売機 | 飲料自動販売機,固形物自動販売機など |
一方,RoHSでは,鉛,水銀,カドミウム,6価クロム,特定臭素系難燃剤のPBB(ポリ臭化ビフェニール),PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の6物質を原則として使用禁止とした.つまり,本指令が施行される2006年7月からは,上記6物質を含んだ製品はEU加盟国内で販売できなくなる.
RoHSの対象製品はWEEE指令とほとんど同じだが,現在のところ,「医療用機器」と「監視および制御機器」の二つのカテゴリについては適用外だという.2005年2月にはこの二つのカテゴリを含め,適用範囲が見直され,明示される.「RoHSに関する問い合わせは多い.特に,具体的な対象製品(表2)として例が挙げられていない機器の開発に携わっている技術者からよく質問がくる.基本的には,ほとんどの電気・電子機器が対象になっていると思っておいたほうがよい」(講師のユーエル エーペックス ビジネス開発チーム プロジェクトリーダーの青木正光氏).
本セミナでも,計測器を適用外と判断してよいのかという質問が出た.「確かに,現在のところ対象外だが,今年(2004年)または2005年には対象製品に含まれると予想される.また,測定機器メーカもその方向で開発している」(同氏).
RoHSは実施時期が迫っているが,その一方であいまいな点も多い.例えば,有害物質のしきい値(最大許容含有量)である.現在のところ,しきい値はまだ確定していないが,青木氏によると今年6月のEUの技術適用委員会(TAC)において,カドミウムが重量比で100ppm(0.01%),それ以外の物質が同1000ppm(0.1%)に規定されるもようだという.このしきい値は均質材料の重量をもとに算出されることになる.均質材料とは,機械的に単一の材料に分離できないものを定義されている.
また,有害物質に対する試験方法も今後検討されるべき課題である.例えば,高温はんだはRoHS指令の適用外だが,そのほかのはんだとどのように切り分けて試験を行うのか,といったことが問題として考えられる.
●機器メーカの環境対応への負担を軽減するサービスを提案
RoHSなど,各国の有害物質の使用規制に対応するため,国内の機器メーカは,環境負荷を低減する部品などを優先して調達する,いわゆる「グリーン調達」を実施している.一般に,グリーン調達では機器メーカが部品メーカや材料メーカに対して,有害物質をしきい値以上使っていないという証明データを提出させるが,これに加えて機器メーカがみずから分析装置などを購入して検査を行ったり,定期的に工場検査を実施することもある.こうした環境品質保証のため,機器メーカはかなりの時間とコストを割くことになる.
UL社では,インターネット上でUL認証結果を公開している.製品カテゴリや企業会社名などで検索すると,UL認証の結果を閲覧することができる.同社は,今後,有害物質についても同様のデータベース(検索機構)を公開する予定.データベース公開のためのソフトウェアはすでに開発が完了しており,現在は収録データを収集しているという.機器メーカから有害物質についてのデータの公開の承諾を受けた後,部品メーカ,材料メーカ,あるいは分析会社からデータベースに登録するための各データを入手することになる.
また,同社はプリント基板やプラスチック材料などについては年4回の工場検査を行っているが,有害物質についても工場検査を実施し,環境品質が維持されているかどうかの監査を行うことを検討している.「機器メーカにとっては工場検査に要していたコストを削減できるというメリットがある.また,部品メーカや材料メーカにとっては,第3者試験機関の工場検査によって有害物質の不使用を証明されることが,機器メーカへの大きなアピールとなる」(青木氏).
同社は,こうしたデータベースの公開,および工場検査の実施案などについて,JEITA(電子情報技術産業協会)に報告した.JEITAは,2003年8月にグリーン調達に関するガイドラインをとりまとめている.
なお,国内の大手機器メーカは,2005年3月(2004年度末)までに,RoHS指令の対象機器について上述した6物質の使用を全廃することを目標としている.
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