シリコンバレー駐在日記(5) ――リターン・ポリシ

田中 良平

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コラム 2003年8月14日

 シリコンバレーには,多くの大型店があります.食料品店,生活雑貨店,アウトドア専門店,電化製品店,ホーム資材専門店,会員制ディスカウント・ショップなど,どこも巨大な駐車場と巨大な売り場面積を持っています.品数も豊富で,シリコンバレーに来て間もないころはこうした店に入ると,目が回ってしまって気分が悪くなるほどでした.

 多くの店は1階建ての平面的な構造になっているので,ショッピング・カートを押して買い物ができます.商品の展示方法が凝っているのでついつい買いすぎてしまうのか,こうした店に行くと,大きなショッピング・カートにたくさんの品物を入れた人をよく目にします.

●日本よりも進んだサービス

 こうした店は,顧客をつなぎ留めるために,日本よりもサービスが進んでいるようです.特にリターン・ポリシ(返品制度)については日本の店とはずいぶんと異なります.店舗によってもいろいろなルールがあるようですが,日本に比べて容易に購入した品物を返却できます.消費者もこうしたルールをうまく利用して買い物をしています.

 たくさんの商品を購入する分,返品も多いのか,店に入るとまず,返品カウンタに並ぶ人の行列が目に入ります.初めて生活用品や電化製品などを買いに行ったときは,この行列がなぜ発生してしまうのかほんとうに不思議でした.簡単に返品できることは消費者にとって非常に良いことです.しかし,返品するくらいならば,もう少し考えて購入しないのかとか,そんなに返品するような商品を売っていたのでは店の評判が悪くなるのではないのかと疑問に思うのですが,それでもこうした店では多くの人が買い物をしています.

●何でもありのリターン・ポリシ

 現地の米国人や駐在員の方にこうした返品制度について聞いたところ,いろいろなことがわかりました.

 米国におけるリターン・ポリシの原点は数百年前にさかのぼるそうです.トウモロコシなどの農作物を売る際,顧客を定着させるために,お得意さま向けにおいしくなかったり,不良品があった場合は返品もしくは交換するといったサービスを始めたのだそうです.現在でも,シリコンバレーでは同じ種類の店の競争が激しく,お客さんが逃げないようにいろいろなサービスを提供しています.商品の返品に関するサービスも,その一環としてやっているところが多いのです.

 返品の理由としては,単純に買った商品が壊れていたからというものばかりではありません.例えば,布団カバーを購入する際,どの色が適当か判断できないときに,色の違う同じ商品を複数購入し,気に入ったもの以外を返品するといったこともできます.使ってみて気に入らない場合の返品は,すごく多いようです.それだけ消費者の目も日本に比べると厳しいといったところでしょう.

 ほかにもおもしろいサービスがあります.例えばバーゲン時期などで,購入してから1週間以内にさらに値引きされたとき,申告すればその差額をもらうことができる店もたくさんあります.

 こうした返品に対する対策としてなのか,パソコンのように高額な商品についてはリベート制度がとられています.購入後返品せず,ほんとうに使用する場合,いくらかのお金を返金するといったしくみです.売る側と買う側のかけひきを感じることができます.

●購入するための要領を身につける

 シリコンバレーで買い物をするときは,日本のお店に行く感覚で商品を購入すると失敗することがあります.一度開封された,すなわち返品された商品が再び売られていることがすごく多いのです.じょうずにパッケージングされている場合などは,なかなか気がつきません.家に帰って開封してみたら箱と中身が違っていたり,取扱説明書に落書きされていたりと,日本では考えられないことが多々あります.

 こうしたことを米国人は気にしないのかと思ったのですが,やはり現地の人もこうした商品はできる限り購入しないようにしているそうです.駐在した初めのころはいろいろなものを購入して回ったのですが,3回ほど,明らかに返品されたとわかる商品に出会いました.ただし,返品に行ったら,うわさのとおり何も聞かずに返金してくれました.このような商品を購入したときは店の印象が悪くなったのですが,返品についてもあまりにもあっさりしているので,悪い印象が相殺されてしまったように思いました.いずれにしても,シリコンバレーでは購入するための要領を身につける必要があるようです.

 昨年のクリスマスが終わった次の日,商品を返品する人の行列を紹介するニュースが流れました.プレゼントとしてもらった商品を返品に来ているのです.店によっては,プレゼント用の価格のないレシートを配るところもあるそうです.ここまでやっているとなると,ただただ感心するばかりです.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2002年6月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
たなか・りょうへい.同志社大学工学部卒,今年で31歳になる好奇心旺盛のエンジニア.シリコンバレーの目新しいところに,足を運んでは新鮮な驚きを体感する日々を送っている.現在は,シリコンバレーにあるDAIHEN Advanced Component社に勤務.FPGAとIP(Intellectual Property)を応用したシステムの開発を行っている.休日は,家族で巨大なショッピング・モールめぐりをし,お昼は数多くあるファースト・フード店で一休み..

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