原著の半分の価格でSystemCのノウハウを学べる ――『SystemCによるシステム設計』

鮫島正裕

tag: 半導体

書評 2003年4月25日

原著の半分の価格でSystemCのノウハウを学べる

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Thorsten Grotker,Stan Liao,Grant Martin,Stuart Swan 著
柿本 勝,河原林 政道,長谷川 隆 監訳
丸善株式会社 刊ISBN:4-621-07144-0
A5版
256ページ
4,800円(税別)
2003年1月(初版第1版)




 SystemCを利用するといろいろ便利である.筆者は以下の点で重宝している.

  • 組み込みソフトウェアの設計者としては,クロスの環境やISS(instruction set simulator)に持って行く前に,Cソースのレベルで処理に必要なサイクル数を疑似的に追加して動作させてみることができる.割り込み応答などもISSを使う前に確認できる.
  • 信号処理の設計者としては,固定小数点演算のビット幅をどこまで削れるかについて検討できる.演算の丸めや飽和処理の切り替えが楽に試せるようになる.
  • ハードウェア設計者としては,「HDLシミュレータのライセンスが必要」という制限から解放され,ビット・レベルの検証をCベースで行うことができる.

 しかし,ハードウェア関連でSystemCを導入するときに問題となることもある.例えば,既存の設計の抽象度をそのままSystemCの環境へ適用する場合を考える.このようなときは,歴史の長いVHDLやVerilog HDLのほうが表現能力や最適化コンパイラなどの性能が高い.一方,SystemCはデバッグしづらいし,シミュレータ(Open SystemC Initiativeのリファレンス・シミュレータ)の速度が遅いので,「使えない」というような評価になってしまう.

 この問題の原因の一つは,現状のSystemCの適用ポイントを見誤っている点にある.本書では,RTL(register transfer level)の表現を,あえて「古典的ハードウェア・モデリング」と呼び,より抽象度の高いトランザクション・レベルの表現方法の重要性を説いている.また,クロッキングを介さない非同期出力の扱いかたや,既存の設計の抽象度を維持しつつ,ポートの接続工数を削減したり,高速化する方法のヒントも本書から得ることができる.

 そのほかのハードウェア関連の問題は,ゲート・レベル全盛の時代にHDLが導入されたときとは少々状況が異なることである.現在,SystemCのシミュレーション用の処理系が無料で提供されている.そのため, EDAベンダがシミュレータ販売という方法でSystemCにかかわるのが難しい.一部のEDAベンダでは,顧客の要望にこたえるため,セミナなどでノウハウを提供しているが,余裕がなければこのようなことはなかなかできないように思える.そのため,SystemCのノウハウを得るには本書のような書籍が重要になる.特に後半の設計の詳細化,テストベンチ,トレース,デバッグについての記述は,SystemCの応用を検討する際に参考となる.

 また,本書は原著(110ドル)に比べて手ごろな値段で購入できるし,訳者は日本におけるCベース設計の先駆けの主なメンバなので,安心して読むことができる.


鮫島正裕
設計コンサルタント

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