本格的な「SystemC」の解説書がようやく登場 ――『System Design with SystemC』
本格的な「SystemC」の解説書がようやく登場
Thorsten Grotker,Stan Liao,Grant Martin,Stuart Swan 著
Kluwer Academic Publishers 刊ISBN:1-4020-7072-1
24×16cm
217ページ
13,199円(税別,amazon.co.jpの7月18日現在の価格)
2002年6月
C言語ベース設計がもてはやされている昨今,ようやく本格的なSystemCの解説書が登場しました.SystemCはソフトウェア開発言語であるC++をベースとして,ソフトウェア/ハードウェアを含むシステム全体をモデル化,検証するために開発された言語です.本書の著者は,「Open SystemC Initiative(OSCI)」でSystemC言語とリファレンス・シミュレータを開発したメンバと,その開発に深くかかわってきた人たちです.
本書では,まず,SystemCそのものの歴史や現状,基本構成要素(文法的に最低限知っておくべきこと)について述べられています.そのあと,ハードウェアのRTL(レジスタ・トランスファ・レベル)や抽象度の高いビヘイビア・レベルの計算モデル,さらに通信の詳細化やテスト環境について,例題を用いながらうまくまとめられています.また,必要に応じてVHDLなどのハードウェア記述言語と対比されています.
しかし,ここで学ばなければならないのは「SystemC」という言語自体ではなく,抽象度の高いシステムのモデリング手法です.本書を通して,データ・フロー・モデリングやトランザクション・レベル・モデリング,およびそのモデリングの基礎となるインターフェースやチャネルの概念を理解することができます.
この書籍に掲載されている例題はOSCIのホームページからダウンロードできます.2002年7月17日現在,2002年6月27日付けでUNIX用(tar.gz)とWindows用(.zip)のアーカイブ・ファイルが準備されています.ビルドのスクリプトと文書類も含まれており,例題はWindows Visual C++ 6.0 SP 5やSun Solaris CC 6.1,GNU G++ 2.95.2,HP aCCでテストしてあるようです. もちろん,SystemCのリファレンス・シミュレータについては,別途OSCIのホームページからユーザ登録して,ダウンロードする必要があります.
読者としては,例題をすぐに試すことができ,また応用していけるので重宝するでしょう.この書籍を読み通し,例題をパソコンやワークステーションで実行してみることにより,SystemCの本質を知ることができます.
本書は,初心者向きとは言えませんが,システム・レベルのモデリングを学ぶうえでたいへん有用です.ただし,200ページあまりとページ数が少ないので,文法的な詳細やモデリングのノウハウについては,あまり記述されていません.基礎については,別の書籍の登場を待つ必要があります.
さらに難を言えば,価格が高いことと,解説が英語であることでしょうか....日本語版の早期出版が望まれます.
河原林 政道
米国NEC Electronics社