SOC対応のソフト開発環境にはマルチ・コア・デバッグとカスタマイズの機能が必要

組み込みネット編集部

tag: 組み込み 半導体

インタビュー 2001年9月10日

 最近の大規模LSI(いわゆるSOC:system on a chip)のなかには,CPUコアとDSPコア,あるいは複数のCPUコアを内蔵しているものがある.たとえば,ARMコアとDSPコアを内蔵している携帯電話向けプロセッサや,複数のCPUコアを内蔵している家庭用ゲーム機向けプロセッサが利用されている.このように複数のプロセッサ・コア(マルチ・コア)を含むLSIをターゲットとして組み込みソフトウェアを開発する場合,従来とは異なる配慮が必要になる.

 ここでは,マルチ・コアに対応したソフトウェア・デバッガを発売している米国Mentor Graphics社 Embedded Software DivisonのEM Business Development ManagerbであるMark W. Jensen氏と同DivisionのBusiness Development ManagerであるPaul Jennings氏に,同社の製品の概要と,同社が考えるSOCとソフトウェア開発ツールの関係について聞いた.

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[写真1] Mentor Graphics社 Embedded Software DivisionのMark W. Jensen氏(左)とPaul Jennings氏(右)

――組み込みソフトウェア開発ツールの業界におけるMentor社の強みは?

Jennings氏 今後,システムのなかのデバイスの数は減り,SOCの割合が増えていくことは明らかだ.半導体業界ではIPコア企業である英国ARM社や米国MIPS社に勢いがある.当社のXRAYデバッガは,SOCへの対応を強く意識して機能を強化している.たとえば,他社のソフトウェア開発ツールだけでなく,EDAツールやロジック・アナライザ,論理エミュレータなどとつないで利用できる.当社はとてもユニークなポジションにいる.EDAツール(ハードウェア設計を支援するツール)の企業でありながら,組み込みソフトウェア開発ツールも提供しているからだ.LSI設計の問題と組み込みソフトウェア開発の問題をトータルに解決する製品を提供できると自負している.

――SOCのソフトウェア・デバッグでは,どのような機能が必要になるのか.

Jennings氏 ほとんどの機能は標準的なデバッガのそれと同じだが,新たに複数の同種のプロセッサ,あるいは複数の異なるプロセッサに対応するための機能,つまりマルチ・コアをサポートする機能が必要になる.GUIを共通にしたり,複数のターゲット・プロセッサの停止・実行を制御できるようにした.また,デバッグ・ポートを一つにまとめるIPコアの提供を始めた.たとえば,ARMコアとDSPコアを内蔵している携帯電話用プロセッサの場合,従来はARM用デバッガとDSP用デバッガの二つが必要になった.しかし,これでは使い勝手が悪い.当社はARMコアとDSPコアの両方からデバッグに必要な信号を引き出し,同期やトレースを制御する回路を顧客に提供している.すでに,ARM,MIPS,米国DSP Group社のTeakDSPCoreとOakDSPCore,オランダPhilips Semiconductor社のR.E.A.L. DSP Core,英国Siyoyan社のOPUSアーキテクチャ・プロセッサについて,マルチ・コア・サポートの実績がある.

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[図1] マルチ・コアをサポートするXRAYの画面例

――ソフトウェア開発ツールがSOC対応になると,製品の販売形態は変わるのか.

Jensen氏 当社をはじめとして,組み込みソフトウェア開発ツールのベンダはこれまで,製品を,組み込みソフトウェアを開発するエンド・ユーザに販売してきた.しかし,SOCがターゲットとなると,これではうまくいかない.当社は,昨年から半導体メーカやIPコア・ベンダに対して,XRAYデバッガのOEM供給を行うようになった.半導体メーカやIPコア・ベンダがカスタマイズされたXRAYデバッガを顧客に配布する.今はデバッガ製品だけだが,将来はコンパイラ製品やリアルタイムOS製品のライセンスも考えている.

――デバッガはそんなに簡単にカスタマイズできるものなのか.

Jensen氏 XRAYの内部はモジュール化されており,カスタマイズしやすいようにレイヤの概念を導入している.たとえば,「ターゲット・プロセッサに依存するレイヤ」,「通信時のプロトコル処理を規定しているレイヤ」,「ターゲット・プロセッサとの間の物理的な通信方法を規定しているレイヤ」などに分かれている.これらの部分のソース・コードを顧客の要求に合わせて修正し,XRAYのカーネル部分とリンクさせる.

――Mentor社はEDAツールとソフトウェア開発ツールの両方を提供しているが,ハードウェア設計とソフトウェア開発の間のギャップはまだ大きいように見える.ハードウェア・ソフトウェア協調設計の将来について,どのような展望を持っているか.

Jennings氏 これは,個人的な意見として聞いてほしい.現在の組み込みシステムの開発フローは,まずハードウェア開発があって,その後にソフトウェア開発がある.今後は,ハードウェア開発とソフトウェア開発がパラレルに進行する方向に向かう.当社のSeamless製品(ハードウェア・ソフトウェア協調検証ツール)はハードウェア・エンジニアとソフトウェア・エンジニアの協調作業を支援する.将来は,ハードウェア開発とソフトウェア開発を一人のエンジニアがこなすようになり,開発環境も一つに統合されるのではないかと見ている.

Jensen氏 最近まで,組み込みシステムのソフトウェアはそれほど洗練されていなかった.というか,洗練されている必要がなかった.しかし,市場の要求は変わってきている.現在の組み込みシステムの開発では,洗練されたパワフルなプログラム・コードを作成しなければならなくなっている.こうした動向は,5~6年前のデスクトップ・パソコン用ソフトウェアの状況と似ている.われわれはこうした変化を捉えながら,ソフトウェア開発ツールを提供していく.


・メンター・グラフィックス・ジャパンのホームページ
http://www.mentorg.co.jp/
・Mentor Graphics社のホームページ
http://www.mentor.com/

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