ディスコンとその救済 ―― 物作りあれこれ(1)
「ディスコン」はDiscontinueの意味だと思っている.デバイス・メーカがある日突然,「今後作るのはやめます」と宣言することである.もちろん,保守用予備品で困らないように,ある程度の在庫の余裕は持つようにしている.だが,装置の生産というものにはお客様があって,そのお客様が必要とする期間がまちまちであることはいうまでもない.
それではどの程度の予備品を買い入れておけば十分で,余さず残さず部品の在庫リスクも抱えずに売り切れるかというと,これは神ならぬ身では分かるわけがないのである.つまり,在庫リスクは装置メーカが背負わなければならないことになる.
デバイス・メーカがこうした背景を理解しながらも「ディスコン」を宣言しなければならない理由は,そのLSIの需要の動向による.「品種が陳腐化してきた」,「生産数が減少した」,「不景気で需要が減少した」などの理由で生産の継続が難しくなった,ということだろう.半導体製造設備は高価であり,絶えず設備を更新,あるいはメンテしなければならないことは理解できるが,こうなると装置メーカは世界の景気動向やその装置の需要の継続性,LSIの需要動向まで勘案して製品計画を立てなければならないことになる.
「この装置はまだ作り続けなければならないのだ.何とかしろ!」というデバイス・ユーザの声が聞こえるような気がする.生産が中止されたら,装置メーカは闇市を駆けずり回ってでも,必要な部品を入手しなければならないのである.
「ディスコン」になったLSIの同等品を再度作るとなると,最低でも数億,あるいは数十億円の出費は覚悟しなければならない.しかし,これからそれほどの需要が生まれるわけがない.ではどうするか.LSIのコア部をFPGAで実現する,というのも一つの方法だが,FPGAは元のLSIそのものではない.ときどきこれを勘違いして,「FPGAでそのまま既存のLSIを代替する,代替できる」と思い込んで頼ってくるお客様がいる.現実にはそれほど簡単な話ではない.
今までの装置で使っていたLSIが「ディスコン」になり,FPGAやディスクリート部品で元の機能を再現しようとすると,当然ながら基板上の実装スペースが増える.実装スペースを増やそうとすると,元の装置全体の実装方式の再検討が必要になる.「それは困る,嫌だ」と言いたいところだが,この問題を回避する選択肢はないと思う.
少し話が飛躍するかもしれないが,世界の景気はまさにどうなるか分からない状況になってきている.デバイス・メーカの設備投資が極端に圧縮されて「ディスコン」になるLSIが増えていくと,こうしたLSIの機能やそれを実装する基板の再生技術のニーズが高まるのかも知れない.
むらやま・たけし
(株)テクノクリエート
●筆者プロフィール
村山 建(むらやま・たけし).日本電気(株) 伝送通信事業部 開発部門で一貫してデータ・モデムの開発などに従事.その後,技師長として十数年間,主として北米に駐在.帰国後に(株)テクノクリエートを創設.同社社長として現在に至る.