ソフトウェア・プロダクト・ライン開発手法の実践的導入事例(2) ―― 狙いを定めて投資を回収,ガイドライン策定は必須

大塚 潤

tag: 組み込み

技術解説 2011年11月11日

●品質,コスト,納期すべての面で効果が上がった

 今回,ソフトウェア・プロダクト・ラインを適用したことにより,品質(Quality),開発コスト(Cost),納期(Delivery)のすべての面で効果を得ることができました.

 品質については,コア資産開発で発生した不具合の数を,装置Aに対して装置Bは1/10程度まで減らすことができました.これまでの類似開発ではおおよそ1/3程度であったことから,コア資産としたことで品質向上を図れたといえます.

 開発コストについては,装置Aを単独製品として開発した場合に比べて,今回のプロダクト・ライン開発を適用した場合,装置Aでは余分に開発コストが必要となりました.しかし,製品Bの開発ではコア資産をそのまま再利用できたため,装置Aで余分に開発コストを投資した以上に,製品Bの開発コストを削減することができました.つまり,今回の開発では2製品目で開発コストを削減できたのです.

 納期については,装置Bの開発において,コア資産をうまく再利用できたことに加えて,さまざまな開発条件が製品Aと大きく変わらなかったこと(技術面では製品Aと類似であり,開発メンバの入れ代わりが無かったことなど)から,製品Aに比べて半分以下の期間で開発することができました.このさまざまな開発条件とプロダクト・ライン開発による貢献分を分離して評価することは難しいものの,感覚的には削減できた期間のうち,1~2割はプロダクト・ライン開発によるものだろうと考えています.

 

●コア資産を増やす方向へ挑戦

 今後はソフトウェア・プロダクト・ライン開発をさらに拡大させる予定です.具体的には,次の装置開発においてドメイン・エンジニアの数を増やし,効果が得られるコア資産化率を高めます.また,ソース・コード以外の設計資産であるテスト項目やテスト環境,テスト・データなどのコア資産化にも挑戦したいと考えています.

 

●ソフトウェア・プロダクト・ライン開発を成功させるための三つのポイント

 今回の開発経験を踏まえて,筆者は,ソフトウェア・プロダクト・ライン開発を成功させるポイントは以下にあると考えています.

・無理をせずスコープを絞る

 製品開発の成功が必須であるため,最初の取り組みでは無理をしない範囲で取り組んだ方がよいと考えます.今回の開発では規模が小さく,かつ効果が高いフィーチャに絞り込みました.これまで行ってきた一般的な流用開発と比べて高い効果が見込めないフィーチャは,たとえコア資産化が可能であっても流用開発で十分と割り切ることも必要です.

・ガイドラインは事前に準備する

 開発経験の豊富なベテランから開発初心者まで,多様なメンバからなる開発では,開発現場任せでは収拾がつかなくなります.そのため,あらかじめプロダクト・ライン開発に精通した識者や大学の先生方を交え,指南や意見などをまとめたうえで,自分たちの開発に沿ったガイドラインを作成しておくことで,開発現場の過度な負担や,無用な混乱を無くすことができました.

・チーム・リーダは信念を持ってやりぬく

 開発メンバはどうしても,目の前にある開発(ここでは装置Aの開発)に注力しがちです.今までも流用開発はいろいろ行ってきていますが,新しい取り組みであるプロダクト・ライン開発は失敗するのではないか,と悲観的にとらえる開発メンバもいました.しかし,ネットワーク・システム開発のビジネスでは,厳しい品質,開発コスト,納期要求に応えなければならない状況です.そのような中,会社経営層と開発メンバへ信念をもって粘り強く説得をし,成功に導くためにはリーダのタフさが必要でした.

*     *     *

 今回は,開発リーダの視点でプロダクト・ライン開発適用の紹介を行いました.リーダに求められるものは,置かれた立場のビジネス状況(今回はネットワークシステム開発)を踏まえつつ,経営層や開発メンバを説得しながら新たな開発手法を導入し,成功に向けて粘り強く導く,バランス感覚だと思います.

 次回も引き続き,弊社で取り組んださまざまなプロジェクトを例に,具体的な適用事例や効果について紹介する予定です.

 

参考・引用文献

(1)K. C. Kang, Jaejoon Lee, and Patrick Dono-hoe; "Feature-Oriented Product Line Engineer-ing," IEEE Software, Vol.9, No.4, pp.58-65, July/August 2002.

 


おおつか・じゅん
富士通九州ネットワークテクノロジーズ(株)

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日