コミュニティの限界を超えて:無償の「組み込みソフトウェア開発よろず相談所」がオープン ―― 代表幹事 林 好一氏らに聞く

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2011年2月23日

 2011年2月14日,ソフトウェア・エンジニアを中核とした有志6名が,組込みソフトウェアに関するさまざまな問題を解決するための相談窓口となる組織「組込みソフトウェアギルド」を立ち上げた.この組織は,組み込みソフトウェア開発に関するさまざまな相談を受け付け,無償でアドバイスや情報提供を行う.また,必要に応じて,有償で実務作業を提供したり,信頼できるほかの有償サービスを紹介したりするという.

 どのような思いで組織の立ち上げに至ったのかを,組込みソフトウェアギルド 代表幹事 林 好一氏と,メンバである今関 剛氏,酒井 郁子氏に聞いた(写真1).

 林氏は,ソフトウェア・プロセスの分野での支援を主な業務とするエンジニアである.今関氏は,製造業における設計開発業務や品質改善に関する技術コンサルティングなどに従事するエンジニアである.酒井氏は,技術者教育の講師やコード改善支援などに従事するエンジニアである.

写真1 林 好一氏,今関 剛氏,酒井 郁子氏(左から)

 

―― 組込みソフトウェアギルドとは,何なのでしょうか?

林氏:私たちは,「日本のものづくり産業の人たちを元気にしたい」と思い,組み込みソフトウェアに関する問題を解決することや解決するための情報を提供すること,解決できる人を紹介することを使命と考える,有志の集まりです.そして,問題を解決することでギルド・メンバの技術レベルを高めたり,問題解決のノウハウを共有・発信していきたいと考えています.

―― 組込みソフトウェアギルドは,どのような方のための相談窓口なのでしょうか?

林氏:現場で苦労しているエンジニアを支援したいです.やる気があるのに生かせない事情がある方,例えば,今のやりかたでは問題があると分かっていても,製品リリースのスケジュールが立て込んでいて改善方法を模索する時間がとれないといった方などです.

 現在,エンジニアの方が問題を解決したいと思っても,問題を解決するためだけに飛び込めるコミュニティはありません.コミュニティに貢献したり,自分を分かってもらったりしながら,答えを見つけるまでには時間がかかります.さらに,コミュニティ活動に参加することを会社に認めてもらうのにも時間がかかったりします.また,お金を払ってコンサルティングを頼みたいと思っても,だれに頼めばちゃんとやってもらえるのか分かりません.私たちは,そういう方の相談を受けて,Webサイトや書籍,コミュニティや詳しい人,有用なサービスなどを紹介し,問題解決につなげていただければと思っています.

―― 基本的に無償のサービスと思ってよいのでしょうか?

林氏:はい.メールでの情報提供やアドバイスといったやりとりは,すべて無償です.ただし,必要があれば実務を伴う有償のサービスを提供したり,有償のサービスを紹介できるのが,我々の強みでもあります.

 既存の技術コミュニティの多くは,企業から中立であろうとするものが多く,参加者が抱えている課題を解決するために特定の企業のサービスを紹介することを嫌う傾向にあります.私たちは,プロ(企業)と問題,現場を結びつけることにより,問題を解決していきたいと考えています.

酒井氏:コミュニティは目的をもって存在するものなので,自分の問題を相談するための場所ではありませんよね.私たちは,問題を相談してもらうことがそのまま私たちの価値になります.困っている技術者の方のお手伝いができるということでモチベーションも高まりますし,相談を受けて仲間と議論することにより,技術力も向上できます.

―― どこからが有償になるのでしょうか?

林氏:ギルドはあくまでも相談窓口であり,ギルドとしてお金をいただくことはありません.紹介料などもいただきません.問題解決のために何らかの実務作業が必要だと判断した場合に,問題解決をサービスとして提供している企業を紹介したり,あるいはそのような企業に所属しているギルドのメンバが実作業にあたることを提案しますが,知らないうちに有償メニューになっている,などということは絶対にありませんので,安心してください(笑).

―― 無償の問い合わせに忙殺されて困ることはないでしょうか?

林氏:無償でサービスした内容は,基本的に,相談者の方に了解していただいたうえで事例としてWebサイトで公開しようと考えています.その事例を蓄積していけば,似たような問い合わせが続くことはなく,うまく回していけるのではないかと考えています.

 また,無償のサービスを提供するために,ギルドの運営にはできるだけお金をかけずにやっていこうと考えています.WebサイトはGoogleサイトで作っていますし,議論の場もFacebookなどを利用していく予定です.

―― ギルドとして提供できるソリューション・メニューを見ると,ソフトウェア・プロダクト・ラインやプロセス改善に詳しい方が多いようですが,これらを推奨されるのでしょうか?

林氏:そういうわけではありません.あくまで,相談の内容に応じて,その人に最適と思われる解を提供していきたいと思っています.例えば,構成管理もうまくいっていないような現場にプロダクト・ラインを導入するのは無理です.でも,せめてSubversion(バージョン管理システム)を使っていたら,その便利な使い方を教えてあげることで,その人の開発現場は少し良くなるでしょう.そのように,相談に来られた方には,何かを持って帰ってもらえるようにしたいです.

―― ギルドを立ち上げた有志6名は,どのようにして集まったのでしょう?

今関氏:コミュニティを通じて知り合いました.いつも議論し合っているメンバであり,仕事も近いところがあります.

林氏:思いは6人で共通していますし,お互いにどういう考えを持っているかよく分かり合っています.それぞれが持っているネットワークをフル活用して,問題解決にあたっていきます.

―― このギルドそのものも,コミュニティとして発展させていこうと考えていますか?

林氏:まだ統一見解は出していませんが,しばらくはこの6人でやっていこうと考えています.実績も信頼もまだない状態で,すぐに思い通りのことをできるとは思っていません.これから少しずつ実績を積み重ねて,エンジニアの皆さんの役に立ちながら,6人の思いが形になるよう活動していきたいです.

林 好一氏のプロフィール
 ソフトウェア・プロセスの分野での支援を主な業務としており,2003年からソフトウェア・プロダクト・ライン開発を対象に加えて,関連する調査研究, 定義・モデリング,教育,メンタリングや課題識別・解消等の支援活動を行う.またこれらの分野のコミュニティ活動にも積極的に参加し,ワークショップ,セ ミナ,カンファレンス,勉強会などの企画,運営,そして成果の広報に携わる.日本SPIコンソーシアム(JASPIC)研究員・運営委員,派生開発推進協議会(AFFORDD)会員・運営委員,ソフトウェア技術者協会(SEA)会員,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)会員.

今関 剛氏のプロフィール
 1991年より,大手電機メーカ向けのCAEシステムの構築,導入,組み込みソフトウェア開発に従事.製造業における設計/開発業務および製品品質の改 善に貢献する.2000年より,製造業ドメインにて培った知識とソフトウェア開発技術をベースに,技術コンサルティングおよび組織内プロセス改善に取り組 む.現在は,再利用型開発による効率化を目指して技術と管理の両面から改善に取り組んでいる.プロダクト・ラインには2000年より着手し,セミナおよび 記事執筆,翻訳書など,普及活動を行ってきた.目標や視点の設定の仕方で,スキルや仕事の質が大きく変えられることを実践中.IEEE,SEA,EEBOF(Embedded Engineer's Birds Of a Feather),SESSAME各会員.

酒井 郁子氏のプロフィール
 短大卒業後,電子計測器メーカや電子機器の研究開発企業などで,約20年間,組み込みソフトウェア開発に従事.中小規模ソフトウェアのシステム設計から テスト,メンテナンスまで,開発工程の一通りに携わる.主に現場叩き上げで技術を身に付ける中,ソフトウェア工学を実践に取り入れることを考えた.その 後,組み込み系ソフトウェア・コンサルティング会社にて,技術者教育の講師や,現場のレガシ・コード改善支援などに従事.現在はOffice-MUEとし てフリーランスで活動中.SESSAME会員,AFFORDD会員,運営委員.
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