最新GPUテクノロジは次世代コンピューティングの本命となるか―― GTC2010

西川 善司

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レポート 2010年12月 7日

 NVIDIA社は,2010年9月20日より,グラフィックス・プロセッサ(GPU)をテーマにした技術カンファレンス「GPU TECHNOLOGY CONFERENCE 2010(GTC2010)」を米国San Jose市にて開催した(写真1).GTCは昨年に引き続き2回目の開催となるが,一昨年のNVISIONから数えると3度目のNVIDIA主催の大規模カンファレンスになる.

 GPUは,3Dグラフィックスを描画するプロセッサの総称である.しかし,2000年から始まったグラフィックス表現を専用のソフトウェアで表現する技術「プログラマブル・シェーダ」アーキテクチャ・ベースで進化発展するようになってからは,メニー・コア型の強力なベクトル・コンピューティング・プロセッサ的な内部設計となった.これを受けて,近年ではGPUを3Dグラフィックス描画以外の汎用演算目的,すなわちGPGPU(General Purpose GPU)として活用する動きが活発化している.

 競合GPUメーカのAMD(旧ATI)社と違い,独自CPU製品を持たないNVIDIA社は,このGPGPUをスーパーコンピュータ(スパコン)をはじめとしたHPC(High Performance Computing)市場に強く訴求している.この不況下にあっても,NVIDIA社がGTCのような大カンファレンスを自社開催したい背景には「NVIDIAのGPGPU市場における確固たる地位の確立」という戦略意図があるものと推察される.

 

写真1 GTC2010の入り口の様子

 

NVIDIAのGPUが世界のスパコンへ

 NVIDIAの社長兼CEOのJen-Hsun Huang氏は,基調講演にて「GPGPUはCPUに置き換わるものではない.CPUに加わるものである.」と強調した(写真2).CPUがスカラ計算やロジック制御などのシリアル・コンピューティングを担当し,GPUがベクトル・データ処理主体のパラレル・コンピューティングを担当する形が,今世代のコンピューティング・ハードウェアの理想形であることを主張した.

 

写真2 NVIDIAの社長兼CEOのジェンスン・フアン(Jen-Hsun Huang)氏

 

 同社は独自GPUベースのGPGPUプラットフォームとして「CUDA」(Compute Unified Device Architecture)を展開しており,CUDAベースのソフトウェアの動作には同社製GPUが必要となってきたが,サード・パーティであるPGI社がIntel社やAMD社などのx86ベースのCPUでCUDAソフトウェアが動作させられる「CUDA-x86」をリリースしたことを報告した.これにより,事実上,非NVIDIA環境下でもCUDAソフトウェアが動作できるようになり,CUDAプラットフォームの広がりもアピールした.

 また,世界のスパコンの性能をランキングする機関「TOP500」の2010年後期のランキングで,1位がTianhe-1A(中国),2位がJaguar(米国),3位がNebulae(中国),4位がTsubame 2.0(日本)となっているが,この1位と3位の中国のものと,4位の日本のものがGPUベースのものになる.

 同氏は「現代科学はコンピューティングによって支えられるが,NVIDIAはそのコンピューティング基盤をCUDAベースのGPUテクノロジーで支えていく」と述べ,基調講演を締めくくった.なお,同氏は筆者とのインタビューの中で,NVIDIAとしては「CUDAプラットフォームを組み込み向けにも展開していく」と述べており,同社の組み込み向けSOC「TEGRA」のCUDA対応までもが予告された(写真3).

 

写真3 同社としては初めて,発表前の次世代GPUとその性能のロードマップを示した

 

GTC2010で公開された先端技術の数々~GPUが命を救う!?

 GPGPUはスパコン用途を初めとしたHPC分野への広がりが盛んだが,これ以外に,この技術に熱い視線を注いできている業界がある.それは医学分野だ.

 医療現場では,MRIや超音波人体スキャニング・システムなど,膨大なデジタル・データを取り扱う機会が増えており,より高性能なデータ並列コンピューティングが可能なハードウェアが必要とされるが,診療室に巨大なスパコンを持ってくるわけにもいかない.そこでデータ並列コンピューティングに限れば単体でもCPUの100倍以上の性能を発揮できるGPUが脚光を浴びている.GTC2010では,先端医療現場や,未来の医療分野の研究を行っている研究者達による,GPUの応用事例が紹介された.

 米国Californiaパシフィック・メディカル・センターのMichael D.Black博士率いる研究グループは,画期的な心臓手術技術をGPGPU技術を用いて実用化したことを報告した(写真4図1).

 

写真4 米国Californiaパシフィック・メディカル・センターのMichael D.Black博士

1 手術の様子.外科手術用ロボット・アームは米Intuirive Sugical社の「Da Vinci」を使用.

 

 人間の心臓は鼓動を打つたびに伸縮するため,そのままでは手術ができない.そこで,これまでの心臓手術では血流を人工心臓にバイパスさせて生命維持をさせ,かたや生身の心臓を停止させて胸を切開して行っていた.

 研究グループが開発した,新方式では,胸も切開せず,生身の心臓も動かしたまま手術を行う.具体的には,胸に刺し入れた内視鏡で捉えた心臓のリアルタイム映像を解析して,心臓の伸縮リズムを把握し,同じく胸に刺し入れたロボット・アームで,心臓の脈動パターンに追従させて施術する.つまり,心臓が膨らめば,その動きにシンクロして自動的にロボット・アームは後退し,心臓が縮めば,ロボット・アームは心臓に接近する.この心臓の動きのモーション解析とロボット・アームの逆モーション生成に用いられるのがNVIDIAのGPUになる.なお,手術担当医は,同じくGPUで画像処理された「仮想的に静止した心臓の映像」を見ながらロボット・アームのコントローラを操作しながら手術が行える.担当医のロボット・アーム操作は自動的に心臓の伸縮追従モーションに合成されるため,動く心臓に対して正確な施術が可能になるというわけだ.

 

●次世代マン・マシン・インターフェース~BCI(Brain-Computer Interface)技術

 こうした医療分野とも関係が深く,次世代マン・マシン・インターフェースとして研究が活発化してきているBCI(Brain-Computer Interface)技術についての発表も多く行われた.

 一口に「人間は身体の部位の制御を脳波で行っている」とは言っても,実は,脳の一箇所から特定の脳波が出ているのではなく,ただ指を動かすだけでも脳の各所から同時多発的に脳波が発信されている.人間が今,何をしようとしているのか,その意志を汲み取るには脳の各所から取り出した膨大な多チャンネルの脳波を認識し,その組み合わせキーにして,膨大な行動データベースに検索を掛けなければならず,これをリアルタイムにやるには超高速なデータ並列コンピューティング性能が求められる.

 このことから,米国Cincinnati大学でBCI技術を研究するAdam Wilson博士は「BCI技術の発展にGPUの存在が欠かせない」との見解を示した(写真5).

 このBCI技術は身体に障害を持った人たちの生活支援や社会復帰のための技術にも有用だとされる.近い将来,我々はGPUによって命を救われることがあるかも知れない.

 

写真5 米国Cincinnati大学のAdam Wilson博士

 

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