ET2010の見どころを星副実行委員長にお聞きする
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2010年10月18日

ET2010の見どころを星副実行委員長にお聞きする
組込み総合技術展「Embedded Technology 2010(ET2010)」が12月1 ~ 3日の3日間,パシフィコ横浜において開催されます.100の無料セッションを含む110のセッションが予定されており,組込み技術を軸にスマート・エネルギやクラウド,Android関連の講演も予定されています.併催される「ETロボコン2010」も含め,その見どころをEmbedded Technology 実行委員会の副委員長 星光行氏にお話しを伺いました.
ET2010実行委員会 副委員長 / ETロボコン実行委員長
星 光行 ( (株)システムファクト )
◆ 組込み分野に特化した出展社,来場者,カンファレンス
──今年のET2010の特徴を教えてください.
星:最大の特徴は,対象を組込み分野のみに絞ったイベントであることです.組込み分野以外の他の分野を併設展示する展示会も見られますが,ETは純粋に組込み技術者向けの展示会です.そのため,出展社様にとってもビジネスに直結しやすい来場者が見込めます.
もう一つは,カンファレンスが充実していることです(写真1).カンファレンスは110のセッションが予定されており,このうち100セッションは無料で受講(要事前登録)できます.有料のものは90分のテクニカルセッションが毎日2本,180分のアドバンスト・テクニカルセッションが毎日1本開催されます.これは,過去に90分のセッションでは物足りないという声を多くいただいたので,一つのテーマをじっくり追求できる180分のセッションも用意しました.
また併設セミナとして,OESFと日本Androidの会によるスペシャルセッション「All about Android セミナー」を開催します.約400名収容できる特別会場を用意しました.
写真1.昨年のカンファレンスの様子
◆ 要素技術だけではなくその応用例を講演
──今年の講演に関して注目ポイントは
星:セコム(株)による介護ロボットに関する基調講演や,インテル社によるクラウド技術に関する招待講演,JR東日本によるSuicaをベースとした組込み技術の特別講演などがあります.
個別要素技術だけではなく,その応用実例を全体的に捉えることが講演を企画した背景にあります.Suicaを例にとれば,Felicaという非接触型ICカードの通信技術のみではなく,ネットワークとセキュリティなども含まれます.各要素技術がシステムのなかで相互に絡みあう全体像も重要なのです.
また会場内の特別ゾーンでは,講演内容とリンクした関連製品などの展示も行います.
◆ 業界の活性化や発展が狙える「スマート・エネルギ」もテーマに
──新設の特別企画ゾーンでは何をしますか.
星:今回テーマを絞っているのがスマート・エネルギです.これまでETでは,チップや半導体,開発環境などの要素技術が中心となってきましたが,スマート・エネルギに関わる要素技術も組込みの分野なのです.スマート・エネルギに関しては,まだ世界標準がないことなどから,これをテーマに業界の活性化や発展を狙います.米国では電線敷設を含めたスマート・グリッド(網)が話題ですが,日本ではすでにインフラ(網)が整っているため,さらに上の段階のことができますし,日本の標準をグローバルにアピールするべきです.
組込み技術のデパートは,カー ・エレクトロニクスが中心でしたが,社会インフラもこれからの中心になります.展示ホール内に新設した特別ゾーンでは,スマート・エネルギの周辺技術を集めスマート・ハウスをイメージさせる展示を予定しています.
また関連して会議センターでは,京都大学 大学院情報学研究課 教授 松山 隆司氏によるスマート・エネルギ特別セミナもあります.
◆ プログラムの大規模化と複雑化,CPUの性能向上,メモリの増大で上位設計に注目
──昨年のカンファレンスでは,設計/検証ツール・トラックに人気が集中したと聞きましたが.
星:最新の上位設計ツールや検証ツールの活用法,適用事例などを紹介しています.昨年は2日間14セッションでしたが,今年は3日間21セッションに拡大しました.これもETならではの特徴といえます.
──設計・検証ツール・トラック人気の理由はなんですか.
星:たとえば携帯電話用のプログラムでは,100Mバイトを超えるサイズになっています.以前のようにメモリが高価だった時代は,プログラム・サイズが直接コストに影響したため効率化が重視され,個人の小ワザなども有効でした.
しかし現在の状況は,プログラムが大規模化,複雑化しており,さらにCPUパフォーマンスの向上と,メモリの低価格化といった背景があります.
この状況では,信頼性の優先とバグ減らしに重点が置かれるため,設計・検証ツールに人気が集まりました.
言い換えれば,作業の最適化が重視されています.それが設計をきちんと行うことや,設計段階でのシミュレーションなどといったV字モデルの上位設計に当たる部分なのです.またプロダクトラインをベースに共通部分と応用部分を切り分けて開発する手法は,大人数で並行して開発するときにも効率的です.この上位設計用ツールは海外ベンダが多くを占めている状況ですので,日本が頑張らなければならない分野でもあるのです.
──パネル・セッションの方はどうですか
星: 「アナログで攻める!ディジタルで攻める!」があります.アナログはデジタルと比較してまねしづらいことや,自然界にディジタルは存在しないことなどを踏まえた上で,アナログとディジタルの協調システム開発を紹介するという興味深い内容となっています.この他に,「10年後に日本の組込みソフトウェア産業が生き残るには?」,「スマート・エネルギーで脱ガラパゴス宣言」を用意しています.
◆ レギュレーションを一新した「ETロボコン2010」
──ETロボコン2010では,レギュレーションが大幅に変更されたそうですが.
星:具体的なポイントとしては,4輪(RCX)から2輪倒立(NXT)になり,よりパワフルになりました.また,マイコンもH8からARM7になり,DCモータ,エンコーダ,超音波センサ,ジャイロ・センサなどを搭載しています.レギュレーション変更の理由ですが,エンコーダを内蔵したことでみんなが優秀になり,競技にならなくなってしまったからです.どのロボットも自分の位置情報を正確に認識できてしまいます.
その結果,ライン・トレースでなく,あらかじめマップを作成して走行をするチームが現れました.そこで,エンコーダの値を狂わすということで,シーソーや階段という3Dの難所を設けました.
もう一つの試みとして,スタート時にくじを引き,それによってコース上に1~3本のペットボトルが置かれます.その配置を超音波センサで読み取り,配置パターンに応じてその後の走行をダイナミックに変更しなければなりません.
実際の組込みにおいても予想外の事象が発生しますから,柔軟な適応力が重要になります.今年はそこに注目して観ていただきたいと思います.
◆ 競技だけではないETロボコンのワークショップにも注目
──ワークショップの方はどうですか
星:ETロボコンは競技そのものに目が行きがちですが,ロボットを制御するソフトウェアの設計モデルを審査することが特徴です.2日目にはそのモデル内容のワークショップ があり,ぜひ注目していただきたいといころです(写真2) .
ワークショップは三つのセッションに分かれており,まずは競技の結果を受けてパネル・ディスカッションが行われます.ここでは参加者の設計モデル内容を審査した審査員たちが,地区大会からの全体を通して,本年のモデルの傾向や気になったモデル,おもしろい技術などを評価,紹介していきます.
二つ目のセッションは,3~4名の審査員がモデルを解説しながら回っていく「モデル解説ツアー」と,モデルについてテーマを決めて解説していく「ミニ・ワークショップ」の2種類が用意され,自由に選んで参加できるようになっています.
三つ目のセッションは,「よろず相談室」です.審査員の面々が相談室を開き,モデル図の書き方や表現などを教えます.地区大会では十分な時間を取れませんでしたが,当日はモデル図を持ち込んで質問するなど,たっぷりと相談することができます.
ロボコンを通じて感じることは,教育成果が目に見えて分かるということです.ワークショップの内容も毎年進化しています.
写真2.昨年のETロボコンのモデル解説ツアーの様子
ETカンファレンスの事前登録は下記より
http://www.jasa.or.jp/et/