スキルだけで"技術者そのもの"を評価することはできない ――「組み込みソフトウェア・スキル標準」原案の策定者に聞く
組込みソフトウェア技術者・管理者育成研究会(SESSAME)のWG(ワーキング・グループ)5は,組み込みソフトウェア技術者のスキルを測る指標として「SESSAMEスキル標準」を策定している.このスキル標準は,経済産業省が現在策定を進めている組み込みソフトウェア・スキル標準の原案として採用されている.WG5のモデレータである渡辺 登氏に,SESSAMEスキル標準を策定した意図と,その活用方法について聞いた(写真1).
[写真1] 組込みソフトウェア技術者・管理者育成研究会(SESSAME) WG5 モデレータの渡辺 登氏
――SESSAMEがスキル標準を作成したねらいは何でしょうか?
渡辺氏 SESSAMEは,技術者や技術管理者のための教育カリキュラムや教材を開発し,提供しています.技術者向けのカリキュラムを「初級向け」,「中級向け」などとして作成するわけですが,どの範囲の技術を教育対象とするのか,どのようなレベルのスキルを持った人を初級/中級とするのかを定義する必要が出てきました.そこで,スキルの一覧を作成し,目安となるスキル・レベルを定義することにしたのです.
――2004年6月22日に開催された「組込みソフトウェア開発力強化推進フォーラム」では,技術者を評価するものさしとして,スキル標準の策定を進めているという発表がありました.そうなると,スキル標準に盛り込まれていない項目や,スキル以外の要素が評価の際に無視されませんか?
渡辺氏 スキル標準は,あくまでも"技術者そのもの"を評価するものさしではなく,"技術スキル"を評価するためのものさしです.知識や経験に基づいた「スキル」は比較的数値として表現しやすいのですが,実際にはその下に,モチベーション,性格,気質などがあり,それら全体がその技術者を形作っています.スキルは,技術者の個性の一面にすぎません.
当然,スキルだけで技術者そのものを評価することはできません.企業などで人材を評価する際にも,能力としての「スキル」,性格やモチベーションなどの「行動特性」,そして実績としての「成果」,この3点を合わせて評価していることと思います.
――経済産業省のソフトウェア・エンジニアリング・センターの活動として,SESSAMEスキル標準をベースに組み込みソフトウェア開発のスキル標準を策定していると発表されました.今後,SESSAMEスキル標準の策定は継続されるのでしょうか?
渡辺氏 それについてはいろいろと考えたのですが,教育向けに絞った指標としてSESSAMEスキル標準の策定を継続していこうと考えています.経済産業省の組み込みスキル標準では経験や実績だけを評価しますが,SESSAMEスキル標準では知識レベルや知識項目,ビジネス・ヒューマン・スキルなども含んでおり,その部分のスキル標準の策定を続けていこうと考えています.
――スキル標準の公開はいつごろを予定していますか?
渡辺氏 WGやSESSAME内で調整する必要がありますが,個人的には2004年度の後半には公開したいと考えています.経済産業省の組み込みスキル標準のバージョン1.0が2004年度末(2005年3月ごろ)の公開を予定しているので,SESSAMEスキル標準も経済産業省の組み込みスキル標準とすり合わせながら,内容を確立していきます.