ソフトウェア技術者の「やる気」の引き出しかた,教えます ――第5回S-openホットセッション

組み込みネット編集部

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レポート 2003年7月14日

 6月27日,ソフトウェア開発者のコミュニティの一つである「ソフトウェア技術者ネットワーク(Software Professional Engineers' Network;通称S-open)」は,ソフトウェア開発におけるモチベーション(動機づけ)向上法についてのセミナ「やる気を上げて楽しい開発現場にしよう!~モチベーション向上の秘訣~」を開催した.しごとのモチベーションについての専門家やソフトウェア開発のプロジェクト・リーダなどが,ソフトウェア技術者のやる気を引き出すための具体的な方法や事例について講演した(写真1)

 講師による講演のほか,モチベーションを高めるための話しかたや聞きかたを受講者どうしが実践する試みなどが行われた.また,最後に行われたパネル・ディスカッションでは,開発現場の上司や部下,自分自身などのモチベーションの持ちかたについて,聴講者が問題を提起した.聴講者が実際に直面している問題だけに,講師も時には考え込みながら回答していた.モチベーションを高めるためには「なぜ」と考えること,コミュニケーションを円滑にすること,自分が変わることが重要であるという結論で締めくくられた.

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[写真1] パネル・ディスカッションのようす
3人の講師による個別講演の後,パネル・ディスカッションが行われた(司会は電気通信大学の西 康晴氏).

●社員のモチベーションは組織の資産

 コンピュータ関連のコンサルティング会社であるザ・ネット 代表取締役社長の清水康雄氏は「モチベーション・コントロール」という演題で講演を行った(写真2).多くのソフトウェア開発プロジェクトが納期どおりに終わらないが,その対策として,自分から行動する人材を抱えることが組織にとって重要であり,またそのためにはそういう個人を適正な方法で評価する組織であることがたいせつであると述べた.

 同氏によると,個人が自分の現状(スキルや個性,モチベーション,体調など)を客観的に把握するためには,経済産業省が体系化した実務能力の指標「ITスキル標準」が有用であるという.また,体調やモチベーションのチェックは常日頃から行うべきであり,まず自分自身や家族をたいせつにすることが重要であると述べた.

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[写真2] ザ・ネット 代表取締役社長の清水康雄氏
清水氏が所属していたかつての会社では,ソフトウェアを開発するために残業や徹夜を繰り返し,休日もろくにとれなかったという.次に所属した会社では開発だけでなく営業活動も兼任したため,ソフトウェア開発に割ける時間は限られていた.しかし,その限られた時間内でも,分量さえ適正であればソフトウェアは開発できるし,休日も確保できることに気がついた.

●モチベーション制御を実践

 モチベーションに関するコンサルティング会社であるジェイティービーモチベーションズの菊入みゆき氏は,「やる気を科学する」と題して講演を行った(写真3).モチベーションとは「変わるもの」で,持ちかたには「個人差」があり,「意識するだけで高まるもの」であると説明した.モチベーションを高めるためには,自分のモチベーションが高いか低いかを日ごろから意識しておくことが必要であり,チームの場合はモチベーションのことを頻繁に話題にする環境を作ることが重要だという.

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[写真3] ジェイティービーモチベーションズの菊入みゆき氏
菊入氏は,同じ品ぞろえの店舗でも売り上げが違うことの理由の一つとして,モチベーションを挙げた.例えば,売り上げが高い店舗は,入ったときに「明るい」印象がある.何が違うかというと,店員がみな顔を上げているのである.たったそれだけのことでも,店舗の売り上げに影響しているのだという.

 モチベーションを高めるための一つの方策として,自分のモチベーションの歴史(入社時はどうだったか,それからどのように推移して現在に至ったか,1年後,3年後はどう変化していくと予想するのか)をグラフ化してみることを提案した.また,相手のモチベーションを高めるために,話を聞くときには「相手の言うことを判断せずにそのまま受け入れる」,「あいづちをうつ」,話すときには「自分の内面を相手に公開するつもりで一歩踏み込んで話す」といったことを推奨した.そして実際に,聴講者全員にそれぞれグラフを書かせ,お互いにその話しかた・聞きかたを実践しながら話し合う機会を講演の中に設けた.

●実際の開発経験に基づいてコミュニケーションの重要さを語る

 富士通 システムインテグレーション本部 第3システムインテグレーション事業部 第二官庁システム部 部長の吉田宏明氏は「システム構築プロジェクトを通じてのメンバーのやる気について」という演題で講演を行った(写真4).自身のマレーシアにおける開発プロジェクトの経験を踏まえて,システム構築を成功させるためにもっともたいせつなのは「人」,つまりメンバのやる気とプロジェクト・チームの協調関係であり,そのためにたいせつなのは「コミュニケーション(チーム内の信頼関係,プロジェクトの方向性の確認)」であると語った.

 また,個人のやる気を醸成するためには,企業は存在意義や社会への価値をアピールするべきだし,個人には「自分の行動が他人の役に立ち,喜んでもらえること」,「存在感があり,必要とされていること」を実感させることが重要であると説いた.

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[写真4] コミュニケーションの重要性を語る富士通 システムインテグレーション本部 第3システムインテグレーション事業部 第二官庁システム部 部長の吉田宏明氏

●モチベーションは日々の課題

 最後に,講師3名とパネル・リーダーである西 康晴氏(電気通信大学)によるパネル・ディスカッションが行われた.ソフトウェア開発のプロジェクトの工程で「ここだけはモチベーションが高くなければならない」,「ここは低くてもいい」などはあるか? という質問に対して,吉田氏は「要件定義などの上流工程は,とにかくモチベーションを高くしてほしい.あとは,顧客がだいじだと思うところでモチベーションを高く保つ必要がある.ITは顧客商売なので,あくまでも顧客本位で考えるべきだ」と回答した.

 また,品質管理をまかされてプロジェクトに投入されたが,従来のプロジェクト・メンバやその上司からはあまり活躍を望まれていないことを知った人からの「周りに合わせて手を抜いたほうがいいか,周りを押し切ってでも迷惑がられてでも当初の任務を遂行するべきか?」という質問に対して,「やらないと後で後悔するのでは?」(清水氏),「自分のしごとが家族に誇れるかどうかを考えてほしい.事情によっては目をつぶらざるを得ないこともあるだろうが,自分の中で何かが崩れていかないように気をつけることがたいせつ」(菊入氏),「とにかく何回でも提言していくしかない.もしくは,今回はしかたがないとして,今後はそのような状況に陥らないようにもっていくことがたいせつ」(吉田氏)などと述べた.

 結論として,自分や周囲の人のモチベーションを高めるためには「いろいろなものに興味を持ち,なぜあの人はこうなのか? などとつねに考えること」(清水氏),「コミュニケーションをとること」(吉田氏),「まず自分が変わること」(菊入氏)がたいせつだ,ということばでパネル・ディスカッションは締めくくられた.

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