もっと細かい細かい具体的なことが知りたいぞ ――『組み込み型Linux導入・開発ガイド』
もっと細かい細かい具体的なことが知りたいぞ
藤広哲也編著
すばる舎 刊
ISBN:4-88399-181-4
A5判
264ページ
2,800円(税別)
2002年1月
組み込み型Linuxとは,装置に組み込まれるコンピュータ上で動作するLinux OSのことである.装置に組み込まれるコンピュータでは,普通のパソコンとは違ってハード・ディスク装置(HDD)が使用できなかったり,リアルタイム処理が要求されたり,CPUがIntel 86でもPowerPCでもAlphaでもなかったり,MMU(memory management unit)がなかったり,メモリが極端に少なかったりする.今日ではそういったコンピュータ上でも動作するLinuxが多く存在し,Linuxを活用することで開発を効率よく行うことができる.
本書では,そのような組み込み型Linuxの配布パッケージ(ディストリビューション)について書かれており,それぞれの販売元が解説している.掲載されているディストリビューションは,Embedix,Hard Hat Linux,A&A Linux,TimeSys Linux,μClinuxの五つである.それに加えて編著者によるネットワーク端末の開発例の記事もある.
仕事で,組み込み型Linuxの導入を検討する必要がある場合などには便利な本なのだろう.しかし,組み込み型Linuxが組み込まれるコンピュータは,状況によって千差万別である.各販売元による解説も,「多くのCPU/コンピュータに対応できます」という宣伝のように感じられる.
組み込み型Linuxのユーザだけでなく,技術者や設計者も,「うまくいきます.うまくいきました」 という話には,正直言ってあまり興味がないのではないか.NHKのプロジェクトXだって,すんなり成功したのでは,見ている側はおもしろくもなんともないだろう. うまくいかなくて,苦労して,それでもうまくいかなくて,「あきらめそうになったらなんとかできてしまった」といったストーリなら共感が持てるのかもしれない.
技術書で失敗した話は書きにくいのかもしれない.書く側からすると,「こんな失敗をしました.こんなことがわからずに何日もはまってしまいました」と書くのは恥ずかしいだろう.しかし,たまに書いてあったりすると,興味が持てるし,印象にも残る.読んでいるほうはうれしいのである.
これはいじわるで言っているのではなく,技術者として設計・開発上のトラブルなどから学ぶことが多くあるからである.失敗した話でなくとも,失敗しやすい点というのを多く挙げてくれると親切かもしれない.
個人的には,「μClinuxを自作マイコン・ボードに移植して動かしました.その経過と苦労話の数々を...」などという本を読んでみたいなぁ.
成松 宏
(有)ハンブルソフト
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