「ベストセラー」のベストセラーたるゆえん ――『プログラムはなぜ動くのか』

伊藤昌夫

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書評 2001年12月 5日

「ベストセラー」のベストセラーたるゆえん

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矢沢久雄著
日経BP出版センター 刊
ISBN:4822281019
21×15cm
304ページ
2,400円(税別)
2001年9月



 なかなか魅力的なタイトルである.それがベストセラーの秘訣なのだろう.内容的には,少しもの足りないところがあったとしても,やはりベストセラーである.プログラマならば,立ち読みでも目を通すべきだ.

 とは言うものの,「何かもの足りない」という感想が正直なところである.最初は,私が想定する読者に入っていないのではと不安になり(というのも,今週は1行もプログラムを書かなかった),ためしに周りの同僚にも読んでもらった.一人は新人である.情報処理試験の準備にどうだろうと思った.彼女の感想は,「普通の参考書のほうが的を射て読みやすい」.どうも,試験対策書には向かないようである.もう一人は,ベテラン・プログラマ.彼は,「節のはじめの問題で難しすぎるものがあった.確かに知っていたほうがよいことも多いとは思うが...」.

 何度も言うが,この本はベストセラーである.その一方で,私を含めて同僚たちは,「つまらない」,「自分で買ったりはしない」と言う.このギャップはどこからくるのだろう.単に,彼ら・彼女ら(そして私も?)が,ベストセラーのなんたるかをわかっていないだけなのかもしれない.

 簡単にこの本を紹介すると,コンピュータの基本的な構成と,各コンポーネントに対してプログラムがどのように関与しているかが説明されている.例えば,「データを2進数でイメージしよう」,「ソースファイルから実行可能ファイルができるまで」,あるいは「ハードウェアを制御する方法」といった章がある.

 さて,本書にはちょうど「OSとアプリケーションの関係」という良い章があり,「WindowsというOSの特徴」という記述がある.ここにある箇条書きをもじって,ベストセラーたる本書のすばらしさを説明してみよう.

1)大きなフォント(32ポイントまでいくと大きすぎだが)

2)最初に章立てを図示し,使いやすいアクセス(・プログラマ・インターフェース)

3)図を多用した,やさしいユーザ・インターフェース

4)黒と緑の二色刷りによる,見てすぐわかる出力結果

5)特に章に順番はなく,並行して複数の章を読むことが可能

6)雑誌好評連載がまとまったもの(本書だけでもデータベース)

7)ウォーミング・アップの質問&回答で,自動的に読者を本文へ導入

 これだけの条件を備えて,ベストセラーとならないはずがあろうか.

 ただ,まちがってはいけない.本書はWindowsプログラムがどうやって動くかを,あるミクロの領域で説明はしているが,読んでわかったからといって,プログラマになれるわけではない.

 もしあなたが,良きプログラマになろうと発願して本書を手に取ろうと思うならば(読後でも良いが),もっと抽象化能力を鍛えてくれるグリースの「プログラムの科学」のような本も読んでおくべきであろう.

 もちろん,こちらはベストセラーではない.


伊藤昌夫
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