VI. 前夜〜当日朝

 がっかりしている暇はない.残す10日間,メンバは各自の担当部分の開発に専念する.データ・ロガーが利用しているDC-DCコンバータが突然異常な電圧を出力しはじめたり,データ・ロガーの制御ソフトウェアのデバッグに苦戦したりと,数々のトラブルと戦いながら,いよいよ打ち上げの日が迫ってきた.

 打ち上げの前々日から,プロジェクト・メンバは打ち上げ地点の近くのホテル(SWEST6の会場でもある)に集まり始めた.ここで,最後の追い上げをするのである.軌道表示ソフトウェアは前日の朝に,機体制作は前日の午前中に完成した.データ・ロガーも2セット用意され,別々のルートから搬入された.


 

[写真6] Hamana-1 2号機(左) [図6] Hamana-1 2号機模式図(右)
2号機は2段式とした.下段をできるだけ軽くして,上空で推進器が逆噴射したときにロケットの下段が分離することをねらった.ちなみに,写真6の右側に写っているのは,Estes Industries and COX社の模型ロケット「Hercules」である.

 しかし,組み込みシステム開発である以上,何のハプニングもなくこのまま打ち上げには至るまい――と,メンバ達は心の中で感じていた.その期待(?)に応えるように,トラブルは起こった.前日の深夜に,データ・ロガーへの書き込み/読み出し装置の役割を果たすパソコンが壊れたのである.データ・ロガーのフラッシュ・メモリはこの装置で初期化する必要があるため,パソコンを復旧させないとロケット打ち上げによるGPS計測ができないのだ.


[写真7] 前夜のようす(徹夜覚悟の開発部屋)
各種機材に囲まれながら,パソコンと奮闘する清水研究室のメンバたち.

 とりあえず,ハード・ディスクを取り出して別のパソコンに接続し復旧を試みるが,うまくいかない.岸田氏が持参していたUSBやIEEE1394接続のハード・ディスク・ケースを試すが,認識できない.しかたなくハード・ディスクの復旧は諦め,制御ソフトウェアの再入手を試みる.悪いことは重なるもので,開発メンバの拠点である清水研究室のサーバは,2台のうち1台が前々日にクラッシュ・ダウンしていた.残る1台に,果たして制御ソフトウェアの最新版はあるだろうか…?

 まずは,清水研究室にAir H"(カード型PHS電話機)で接続を試みるが,同ホテルに宿泊しているSWESTやDAシンポジウムの参加者が複数接続しているためか,接続できない.ホテルには無線LANはない.せっぱつまって岸田氏がフロントに掛け合いに行き,ホテル側のLANを貸してもらえるように頼み込む.了解を得てスパ予約用パソコンをLANから外し,このパソコン用の設定を流用してインターネットにアクセスした.

 つながった! …しかし,ホテルのLAN設定は,SSH(secure shell)のポートが開いていなかった.さすがに,ホテルのファイア・ウォールの設定まで変えてもらうことはできない.そのほか,ftp,telnetなど,考えられる手をあれこれと試してみたが,清水研究室サーバのセキュリティ対策のために,外部からのアクセスが制限されていた.

 しかたなく部屋へ戻り,もう一度Air H"を試す.夜も更けており,ほかの接続が減ったためか,今度はすんなりつながった.運良く,制御ソフトウェアも置いてあった.ソフトウェアを入手し,環境の再構築が終わったのが午前3時.3時半には,開発環境上で制御ソフトウェアのテストが始まっていた.

 軌道表示ソフトウェアにも一部不備があり,開発担当の村井氏(SWESTには不参加)と森氏が深夜に連絡を取り合う.ソフトウェアの修正版は午前1時に送付されてきた.また,データ・ロガーをロケット搭載用のケースに格納するときに衛星を見失ってしまう(衛星が人の陰に入ってしまう),という問題も,入れかたをくふうすることにより,衛星を捕捉しながら格納できることがわかり,その練習も繰り返した.報告終了は午前5時半.いったんメンバは解散した.ロケット打ち上げ予定時刻まで,あと2時間である.

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