V. 機体喪失

 GPSモジュールのログ取得実験や微弱電波を出すビーコンの開発などが着々と進み,7月11日,富士山麓で試射を行った.データ・ロガーの軽量化が難しく,到達高度が伸びないことを懸念材料として迎えた試射だったが,ここで,まったく予想していなかった大きな問題が起こった.


[写真4] 富士山麓でのロケット発射実験
天候と風のぐあいは上々.広々とした場所ですがすがしく実験を始めたのだが….

 打ち上げた模型ロケットを回収できなかったのである.50gの負荷(データ・ロガー相当の重さ)を搭載した総重量131.2gのロケットは,30〜40m程度の高さまで打ち上がり,そのまま下を向いて落下した.パラシュートは開傘しなかった.「落ちる〜」という悲鳴のような叫びとともに,模型ロケット「Hamana-1」初号機は,富士山麓の溶岩石群の中に消えた.

 その日から,二上氏は急性胃炎に悩まされることになる.

 ないものはしかたない.残された約2週間で,機体を再設計すると同時に,そのほかの課題にも対処するしかないのだ.この時点で,以下の課題が残っていた.

  • 機体およびデータ・ロガーの軽量化
  • パラシュートを確実に開傘させるしくみ
  • データ・ロガーの浮力の確保
  • データ・ロガーの制御ソフトウェアの誤動作
  • 電波ビーコンの開発
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 それにしても,なぜパラシュートは開かなかったのだろうか.Hamana-1の初号機は図5のような形状を持つ1段ロケットだった.


 

[写真5] Hamana-1 初号機(左) [図5] Hamana-1 初号機模式図(右)
Estes Industries and COX社の模型ロケット「Big Bertha」をベースに,胴体をバルサ材とし,軽量化を図った1段式ロケットだった.

 本来は,推進器の上端にある逆噴射燃料が上空でノーズコーンを吹き飛ばし,パラシュートが開くはずだった.搭載された負荷が重すぎたため,ノーズコーンを吹き飛ばせずに機体が逆さになり,そのまま落下したのだろうか?

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