II. 空白の3週間

 プロジェクトの最初の課題は,「だれが,何を,どこまで担当するか?」の作業分担だった.ロケットの打ち上げが具体的にどのようなものかは,二上氏以外はだれも知らない.打ち上げ経験者に参加してもらえないだろうか,と,まずは人づてにメンバの追加募集を始めた.しかし,具体的に何を担当するメンバを募集しているのか,既存のメンバはそれぞれ何を担当するのかなどは,明らかになっていなかった.

 この時期は,「打ち上げ場所をどこにするか」について議論が始まっていた.もともと浜松は風が強い地域でもあり,安全に打ち上げと回収が可能な場所を探さねばならない.浜松の7月の平均風速は2.5m/s.パラシュートで落下するロケットの速度が2m/sだとすると,ロケットを見失う可能性が非常に高い.また,人家に落下するのも問題となる.打ち上げ場所はどこにするか? などを議論しているうちに,2月も終わりに近づいた.


[図2] 打ち上げ場所の候補(森 孝夫氏が調査を担当)
中央の十字が,ロケット打ち上げの観衆(候補)が宿泊しているホテルの位置である.歩いていける場所は,(1),(2),(4)である.当初は(4)を予定していたが,2.5m/sの西北西の風を考えると(1)は難しいかもしれないということで,メンバの森氏が再度下見に行った.(1)はほぼ無風なので打ち上げに最適だが,後で見学者は打ち上げ地点から20m以上の安全距離をとらねばならない(日本モデルロケット協会の自主消費基準による)ことが判明し,候補外となる.また,2回目の下見で,(4)も時間帯を選べば無風に近くなる(凪がある)ことが判明した.これらを総合し,6月下旬に打ち上げ場所を(4)と決定した.

 プロジェクト(二上氏)のもとにGPSモジュールが届いたのは2月25日である.そこから3月16日までの3週間,期末ならではの忙しさからか,メーリング・リストは沈黙を守った.――

 しびれを切らしたのは岸田昌巳氏だった.「現時点では企画書の初版があるだけで,全体への説明もまだです.早急に詰める必要があります」と詰め寄る岸田氏.それに対し,二上氏はこう答える.

計画に関しては、
1.打ち上げ場所と運営に関する計画
2.DGPS(differential GPS)によるデータ記録の方式と設計、実装計画
3.ロケット製作に関する計画
4.各要素技術の統合と予備実験計画
この4本立てでそれぞれ骨子をまとめる必要があります。
3と4は、未経験の方には無理ですから二上担当でしょう。
1と2についてどなたが立候補願えれば助かります。
 とくに立候補は出なかったが,3月28日,「ハマナ1開発計画書 r02」がプロジェクト・メンバに配布された.これには参考として,各メンバの業務担当や,週単位の開発スケジュール,使用機材の詳細などが記されていた(新たに判明した使用機材は下記の通り).ここで初めて,プロジェクトの全体像をメンバ間で共有できた.

  • ロケット搭載CPU:M16Cを使用する.
  • 管制発射装置:SH-3搭載ボードとWindowsパソコンを使用する.
  • 時刻同期:ロケット搭載CPUと管制発射装置の間で,±0.1msの精度で時刻同期をとる.
  • 発射基地設備:点火リレー,風速センサなどを使用する.


[図3] 機器構成図
開発計画書をもとに,穴田啓樹氏が書き起こした(2004年4月1日時点のもの).

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