渡辺茂男 作,山本忠敬 絵
『しょうぼうじどうしゃ じぷた』
										
											ぼくだってやればできるのに…
											
										
										
										
										
												
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													渡辺茂男 作,山本忠敬 絵 
															福音館書店 刊 
															ISBN:4-8340-0060-5 
															20×27cm 
															28ページ 
															743円(税別) 
															1966年6月 
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										 とある町の消防署.大きくてりっぱな消防車(はしご車)の「のっぽくん」と高圧放水車の「ぱんぷくん」,救急車の「いちもくさん」は,実力も自負もあるつわものぞろい.いつもは自慢ばかりしているが,大きな火事になると,はりきってみんな大活躍する.一方,同じ消防署に置いてある,古いジープを改良した小さな消防車「じぷた」に回ってくるしごとは,ボヤなどの小さなものだけ.町の子供たちも,大活躍を繰り返す大きな3台のことは大騒ぎするのに,じぷたには見向きもしない.
										 じぷたは,3台にバカにされるたびに思うのだ.「ぼくだって,おおきな ビルの かじが けせるんだぞ!」 でも,そういう大きな火事のとき,じぷたには出動命令がかからないのだ.この気持ち,あなたも感じたことがないだろうか? 「わたしだって,もっと難しい箇所の設計(またはプログラミング)ができるのに…」
										 のっぽくんやぱんぷくん,いちもくさんの横に並びながら,じぷたは思うのだ.「(のっぽくんのように)そらに とどくような,あんな はしごが ほしいなあ」,「(ぱんぷくんのように)ちからの つよい ポンプが ほしいなあ」,「(いちもくさんを見て)かっこうが いいなあ」.周りの人間と自分を比較して,自分をひどくつまらない,不要な存在のように感じてしまうじぷたに妙に共感してしまい,ふと涙がにじむ.
										 しかし,じぷたにも活躍の日がやってきた.山小屋が火事になり,ほっておくと山火事になる.しかも,道が細く,じぷたでないと出動できないという.じぷたはみごとに期待にこたえ,町の子供たちの人気も勝ち得て,めでたし,めでたし,でこの話は終わる.この話の良いところは,じぷたがじぷたらしいしごとを務めながらそれが認められた,というところにある."大きな火事での大活躍"だけが,しごとではない.日々の地道なしごとも,また重要なのだ.デバッグ担当が見逃したバグは,何億円もの損害になって戻ってくるかもしれない.どのようなしごとにも価値と責任がある.派手なことを担当できたことではなく,地味なしごとが評価されたというハッピー・エンドは,筆者も日々のうっぷんが晴れる思いである.
										 しかも,最後のじぷたの笑顔がいい.ちっとも自慢げではなく,ただ子供たちに囲まれて幸せそうにしている.そういう謙虚な人間に,筆者もなりたいものである.
										 ちなみに,絵を描いた山本忠敬は,子供相手に容赦のない絵本『はたらくじどうしゃ』を著した人物である.この絵本でも,親近感とリアルさをうまく共存させており,さすがのひと言につきる.
												
												
												
											
										名も無きエンジニア