VIII. 後日談

 しかし,このプロジェクトは,「打ち上げ成功,めでたしめでたし」で終わることは許されない.プロジェクトの過程と成果物を,組み込みシステム開発の教材として利用することになっているからである.これから,さまざまな失敗の原因と対策について振り返らなければならない.「終わったから,もういいでしょう」と言いたいところをぐっとこらえて,失敗からも,成功からも,学び得たことをまとめる作業を行わなければならないのだ.

 打ち上げを終えたある日のことである.打ち上げ当日に参加できなかったメンバから,GPSの軌道データと撮影ビデオ映像を照合すると,どうもログが途中で切れているのではないか? という疑問が出た.

 その通りだった.ログは,打ち上げ後わずか7秒のところで切れていた.打ち上げ1分前でログ記録を開始し,いったん打ち上げを中断し,再びカウントダウンして打ち上げ,最高高度に到達したと思われるあたりで,フラッシュ・メモリの8分半という容量は使い切られてしまったのだ.

 ハングアップした管制制御局のWindowsパソコンを拠出した森氏は目の前が真っ暗になった.自分のせいだと思った.しかし,「ログ取得を緊急停止するシステムを組み込んでいながら,緊急停止をどのような条件で発動するべきかというシステム上の詰めができていなかったこと,また,載せ替え用の予備のモジュールを持参しながら,予備の信頼性に不安があったため載せ替えの決心がつかなかったことなどにも問題があった」(清水氏),「わたしの用意したカメラも予想外の挙動をしたため,撮影できていなかった.映像が撮れていれば,せめて正確な時間は得られたのに…」(岸田氏),「シーケンスを定義するとき“打ち上げ”ばかりを意識してしまい,本来の目的である“計測”についての意識が甘かった」(穴田氏)などと,あちこちから各自の不手際の告白が相次いだ.

 また,GPSデータで正確な高度を得ることはなかなか難しいことがわかった.GPSの出力するデータは地球の地域的な凹凸を無視しており,また地球の重力に関係する補正(海抜値をもとに補正する.ジオイドと呼ばれる)もかける必要がある.また,同一地点にあるはずの状態で,計測高度が20m程度の間で揺れることもわかった.

 このようにして,彼らは問題点を解明し,今後の組み込みシステム開発のために,有益な教材を残してくれるに違いない.終わったことを振り返り,自分の失敗をさらけだすのは楽な作業ではない.しかし,彼らはそれをやり遂げるだろう.そして,次には,サーベイヤ計画の第2弾,第3弾が待ち構えている.まだ終わらないのだ.開発プロジェクトも.そして,彼らの夢も.

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