日本サイプレス株式会社(以下:サイプレス)のPSoCはプログラマブル・ディジタル,プログラマブル・アナログ,マイコンの三つの要素を1チップに統合したユニークなデバイスだ.最近ではCortex-M0/M0+コア搭載のPSoC 4,Cortex-M3コア搭載のPSoC 5LPなど,ARMアーキテクチャの32ビット製品が主流となっている.三つの要素のどれに力点を置くかによって,ディジタル・リッチなデバイス,アナログ・リッチなデバイス,マイコン・リッチなデバイスを作り分けている. 今年の6月に発表したPSoC Analog Coprocessorは,センサ信号の処理・収集に特化したアナログ・リッチな新製品で,システムのメイン・マイコンと組み合わせるサブ・マイコンにも最適だ.今回は,このPSoC Analog Coprocessorについて同社の米田 理之氏にお聞きした..
執筆:宮﨑 仁
PSoCは,FPGA/PLDに似た「プログラマブル・ディジタル・ブロック」,チップ上で接続や機能の選択が可能なOPアンプやアナログ・マルチプレクサなどをもつ「プログラマブル・アナログ・ブロック」,CPUコア/フラッシュメモリ/SRAM/ペリフェラルからなる「マイコン」の三つの要素から構成される.サイプレスでは,用途に応じてこの三つの要素のバランスを工夫して,さまざまな製品を作り出している.
IoTの進展とともに,マイコン製品の需要はさらに急増すると考えられる.このような用途では,温度/光/位置/速度/加速度などさまざまなセンサからの情報を効率良く収集する機能が特に重視される.それに対応して,センサ信号の処理・収集に特化した新しいPSoCとして2016年に発売したのがPSoC Analog Coprocessorだ.
PSoC 4と同じCortex-Mコアを採用し,さらにセンサ信号の処理・収集に必要なアナログ機能に力点を置いたきわめてアナログ・リッチなデバイスだ. ディジタル機能やマイコン機能は最小限に抑え,パッケージも3.7mm×2mmのWLCSPをはじめとしてコンパクトにまとめている(写真1).
ホスト・プロセッサと組み合わせるコプロセッサ,メイン・マイコンと組み合わせるサブ・マイコンとして利用したときに大きな力を発揮する(図1).
PSoC Analog Coprocessorは,センサからのアナログ信号を扱うための「プログラマブル・アナログ・ブロック」,データの取り込みとディジタル処理を行うための「信号処理エンジン」,ディジタル信号の入出力を行う「I/Oサブシステム」の3つのブロックで構成される(図2).
プログラマブル・アナログ・ブロックには,最大38チャネルのセンサ信号から一つを選択するためのアナログ・マルチプレクサ(AMUX),センサ信号に増幅やフィルタリングなどのアナログ処理を加えるOPアンプや汎用アナログ・ブロック(UAB),アナログ電圧をディジタル値に変換する12ビット逐次比較型(SAR)ADC,その他のアナログ機能としてコンパレータ(CMP)や10ビット積分型ADC,CapSense用の電流出力DAC(IDAC)などの機能が含まれている.
マイコンに取り込む前のセンサ信号などを適切に処理するためのアナログ機能は,総称してアナログ・フロントエンド(AFE)と呼ばれる.一般的なマイコンはこのようなアナログ機能を備えていないので,外付けのアナログ回路が必要になる(図1あ).
図1のように,このアナログ・フロントエンドの部分をPSoC Analog Coprocessorに任せれば,個別のアナログ回路を作る必要はなく,基板占有面積や部品コストも節約できる.さらに,PSoC Analog Coproce ssorの内蔵アナログ機能はプログラマブルなので,センサなどの変更があっても基板パターンの変更やホスト・プロセッサのソフトウェア変更は不要だ.
PSoC Analog Coprocessorの代表的なアプリケーション例には,ガス・メータなどインフラ機器,冷蔵庫の霜取りセンサなど家電機器,心拍モニタなどウェアラブル機器がある.今後はIoTの進展とともに,アプリケーションはさらに拡大していくと考えられる.
PSoC Analog Coprocessorの開発には,PSoC 3/PSoC 4/PSoC 5LP用の統合開発環境として定評のあるPSoC Creatorを使用できる.
PSoC Creatorは,PSoCのプログラマブル・ディジタル・ブロック,プログラマブル・アナログ・ブロックなどのハードウェア設計と,ソフトウェア設計を連動して実行できるツールだ.サイプレスのWebサイトから無償でダウンロードでき,アップデート・マネージャによって常に最新の状態を保つことができる.
デバイスで使用可能なハードウェア機能は,使いやすい機能ブロックの形で用意されている.その中から使いたいブロックを選び,ブロック間を接続するだけで,白い紙に回路図やブロック図を描くように簡単にハードウェアを構成できる(図3).
各ブロックの詳細な機能やパラメータは,グラフィカルなツールを用いて簡単に設定できる.増幅のゲインやフィルタの特性を指定すれば,それに必要なパラメータを自動的に設定してくれるので,アナログ設計技術がなくてもハードウェア回路を適切に設定できる.さらに,ハードウェア設定プログラムやドライバのサンプル・プログラムも用意されているので,PSoC Analog Coprocessorに必要なソフトウェアをほとんど自動的に生成することができる.
さらに,サイプレスではPSoCを実際に使用して評価するための手軽な開発キットとして,低価格のパイオニアキットを用意している.PSoC Analog Coprocessor用のパイオニアキットは,環境光センサ,温度センサ,湿度センサ,焦電赤外線センサ,電磁式近接センサなどのセンサを搭載しており,複数のセンサを用いたセンシング・システムを簡単に評価できる(写真2).
さまざまなセンサを簡単にマイコンに接続して,センシングやIoTなどのアプリケーションを実現できるPSoC Analog Coprocessorは,これからの時代に活用される注目のデバイスと言えるだろう.
5種のセンサを搭載した記事中のパイオニアキット(写真2)を,アンケート回答者の中から5名様にプレゼントします.下記のサイトにアクセスねがいます.
https://cc.cqpub.co.jp/system/enquete_entry/532/
■富士通エレクトロニクス株式会社 TEL:045-415-5828
■株式会社アルティマ TEL:045-476-2195
■東京エレクトロンデバイス株式会社 TEL:045-443-4035
■伯東株式会社 TEL:03-3355-7607
-- 以上
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インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社(以下 インフィニオン)は欧州を代表する半導体メーカであり,特に車載や産業など高信頼性が要求されるマイコン分野で定評がある.RISC/MCU/DSPを統合した32ビットTriCoreなど高性能のオリジナル・コアで知られているが,2012年にCortex-M4FベースのXMC4000,2013年にCortex-M0ベースのXMC1000を発表して,ARMマイコン市場に参入した.
XMCファミリは,これまで同社が培ってきた高信頼性を特徴として,産業分野からハイエンドの民生分野までカバーするユニークなARMマイコンだ.このうち次世代産業用バスの本命と言われるEtherCAT対応製品を中心に紹介しよう.お話しは,インフィニオンのパワーマネジメント&マルチマーケット事業本部 滝澤 靖明 氏と川上 彰 氏に伺った.
執筆:宮﨑 仁
インフィニオンはマイコン・メーカとして30年以上の経験をもち,車載,産業分野向けの高信頼製品を得意とする.この分野はライフ・サイクルが長く,長期間の安定供給を求められる.これまではオリジナル・コアを中心に製品化してきたが,最近では業界標準のアーキテクチャを求めるユーザの声も多いのだろう.それに応えるのが,Cortex-M4Fコア搭載のXMC 4000とCortex-M0コア搭載のXMC1000だ.
Cortex-Mベースのマイコンは数多く存在するが,XMCファミリは最低15年間の長期供給保証,TA=−40〜125℃の広い動作温度範囲(XMC4xxx-K),TJ=110℃で20年間連続稼動可能な高信頼性,VDDP=1.8〜5.5Vの広い電源電圧範囲(XMC1xxx)など産業分野に最適化しているのが大きな特長だ.さらに,コア仕様や組み合わせるペリフェラルなどによって品種ごとの差別化をはかり,幅広い産業機器,業務用機器,家電/照明機器などの市場に対応している.
インフィニオンでは,XMCファミリの主な市場として,ホーム&プロフェッショナル(家電,照明,電動工具など),ビルディング・オートメーション,パワー&エネルギ(UPS,ソーラ・インバータ,SMPSなど),トランスポーテイション(電動バイク,建機,農機など),ファクトリ・オートメーションの5本柱を想定している.また,マイコンが処理するアプリケーションとしてはモータ制御,照明,電力変換,通信などを想定しているという.
■ XMC1000はモータが使いやすい
Cortex-M0コア搭載のXMC1000は,ローエンドのXMC1100からハイエンドのXMC1400まで4品種をラインナップしている(図1).8〜16ビット・マイコンの置き換えにも適した品種で,コア・クロック(MCLK)の最大動作周波数は32MHz(XMC1100/1200/1300)または48MHz(XMC1400)に抑えられているが,ペリフェラル・クロック(PCLK)はその2倍の周波数で動作,高性能のアプリケーションに対応できる.
特に,XMC1300は除算やsin/cos演算を高速化する専用のMath co-processorを備えており,Cortex-M3クラスのモータ制御演算能力をもつ.モータ1個の制御を小型かつ低コストで実現できるのは大きな特長だ.また,XMC1400はMath co-processorに加えて2チャネルのCAN通信を備えており,産業用途で幅広い応用が可能だろう.
■ XMC4000は2個のモータを同時制御
Cortex-M4Fコア搭載のXMC 4000は,現在のところローエンドのXMC4100からハイエンドのXMC4800まで7品種をラインナップしている(図1).コア・クロック(MCLK)の最大動作周波数は80MHz(XMC4100/4200),120MHz(XMC4400/4500)または144MHz(XMC4300/4700/ 4800)で,モータ2個の同時制御が可能だという.最大6チャネルのCANや,Ethernet,EtherCAT(XMC 4300/4800)など通信機能も充実している.
工場などには数多くの機器があり,それらをネットワーク化して制御/管理するための産業用バス(フィールドバス)が使われている.一言で工場といっても,化学プロセス機器,水処理機器,工作機械,搬送機器,計測機器,制御機器,検査機器などさまざまな機械があり,業種や規模によっても要求はさまざまに異なるため,フィールドバスもさまざまな規格が並立している.その中で,最近ではEthernetをベースにした高速性とリアルタイム性を両立したオープンなフィールドバス規格としてEtherCATの普及が始まっている.たとえば,今年5月にはトヨタ手自動車の工場でEtherCATを全面的に採用が決まった.
XMC4000のハイエンド品種として昨年4月に発表されたXMC4800は,フラッシュ・メモリやアナログ,PHY用クロックをすべて内蔵しているのが大きな特長であり,省スペース設計,BOMコスト(部品構成の原価)削減に大きく貢献する.さらに,今年2月にはより小型,低コストでEtherCATを実現できるXMC 4300が発表された(図2).これによって,EtherCATの普及がさらに進むと考えられる.
■ Cortex-Mコア・マイコンでは世界初! EtherCATコントローラ内蔵
これまでEtherCATは,ドイツの制御機器メーカであるBeckhoff社が供給するASICを利用するか,FPGAと汎用マイコンを組み合わせるのが一般的だった.そのため,スレーブ側機器を十分に小型,低コスト化できないという難点があった.XMC4300,XMC 4800には市場実績のあるEtherCATハードIPが搭載されたことで,開発コストも大きく軽減できる.
インフィニオンのマイコンは開発環境にも大きな特長があり,本格的なコード・ジェネレータであるDAVEを中核として,EclipseベースのIDE(統合開発環境)やGUIコンパイラ/デバッガ/フラッシュ・ローダを組み合わせている.DAVEは以前からインフィニオンの8/16/32ビット・マイコンで使われており,XMCファミリの登場に合わせてARMマイコンへの対応を果たした.昨年の2月にリリースされたバージョン4が最新版となるが,ローレベル・ドライバのXMCLIBやGUIベースで選択や改良ができるDAVE APPsなどのツールをもち,アプリの開発や再利用を効率よく実現できる.DAVEは,無償で提供されている.
DAVEが生成するソース・コードはGNU,ARM/Keil,IAR,Atollicなどのコンパイラ/IDEにインポートでき,ARMの豊富なエコシステムとの親和性も高く,MATLAB/Simulinkとの連携もできる.
XMC1000のブートキット・シリーズには,超小型で手軽に利用できるXMC 2Go(写真1)も用意されている.XMC 4000では,特長ある機能をもつRelax Kitが多数用意されている.たとえば,EtherCAT対応のXMC 4300はオンボードでEtherCATを使用できるXMC4300 Relax Kit(写真2)が,XMC4800はメイン・ボードとEtherCATモジュールを組み合わせて使用できるXMC4800 Relax Kitが利用できる.
アンケートにご協力いただいた方に抽選で当たります.
・XMC4300 Relax EtherCAT Kit(写真2)を3名様
・XMC2GO Kit(写真1)を5名様
下記のサイトよりご応募ください.
https://cc.cqpub.co.jp/system/enquete_entry/523/
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NXPセミコンダクターズ(以下NXP社)のi.MXはARMコアを中心にキャッシュや各種の周辺機能を集積したアプリケーション・プロセッサだ.現在中心となっているi.MX 6シリーズは,Cortex-A9のシングル/デュアル/クワッドコア製品をラインナップし,電子書籍など2Dグラフィックス向けの低消費電力アプリケーションから,マルチメディア機器など2D/3Dグラフィックス向けの高性能アプリケーションまで幅広い用途をカバーしている.
さらに2015年には,i.MX 6UltraLiteファミリとi.MX 7シリーズを発表している.i.MX 6UltraLiteはCortex-A9よりもコンパクトで新しいCortex-A7コアを採用し,これまでにない小サイズと超低消費電力を実現した.また,i.MX 7シリーズはシングル/デュアルコアのCortex-A7とCortex-M4を組み合わせたヘテロジニアス・マルチコアを採用し,超低消費電力と高性能を両立している.今回は,このうちi.MX 6UltraLiteを中心に同社の大林氏にお話しを伺った.
執筆:宮﨑 仁
アプリケーション・プロセッサというと,携帯電話,スマートフォンやタブレットで使用されている印象が強いが,それだけがアプリケーション・プロセッサの用途ではない.マルチメディア,ウェアラブル,ホーム・ネットワークなどの民生向け,カーナビ,ドライブ・レコーダ,メータ・クラスタなどの車載向け,IoTゲートウェイ,監視カメラ,エネルギ管理システム,デジタル・サイネージ,自動販売機,指紋認証,工場などのヒューマン・マシン・インターフェース,テレビ会議システム,介護ロボット,ベッドサイド・モニタなどの産業向けまで,幅広い用途で活用されている.
NXP社のi.MXシリーズは,特に車載や産業の市場で高い支持を受けてきたアプリケーション・プロセッサ製品だ.その大きな理由として,i.MXシリーズがもつスケーラビリティ,高信頼性,容易な開発という三つの特長がある(図1).
スマートフォンのようにライフサイクルが短く少品種を多量に生産する分野と違って,車載や産業の市場では長期間にわたっての供給と,多品種生産への対応が要求される.i.MXシリーズは,その要求に応える高い水準を保っている.
スケーラビリティについては,シングル/デュアル/クワッドコア製品を展開し(図2),同じアーキテクチャで幅広い処理性能に応えられる.さらに,同じコア数で高性能指向のPlusと省電力指向のLiteを用意するなど,よりきめ細かい品種選択ができる.
主な品種はピン・コンパチブルでハードウェア・レベルで直接の置き換えが可能だ.また,ソフトウェア・レベルでは,同じシリーズ内のすべての品種について互換性を持たせている. 信頼性については,産業機器向け製品は10年,車載向けは15年の長期供給保証プログラムを提供.また,車載市場で培った技術を生かした高品質を実現している.
容易な開発については,ARM向けの充実したエコシステムの組み合わせによって,初めてのユーザでも簡単にシステムの開発を始められる.特にi.MXシリーズの開発に必要な情報はNXPのWebサイトで公開しており,誰でも容易にアクセスできる.個人ベースでの開発にも手軽に活用できるのは大きな特長と言えるだろう.
・i.MX 6UltraLiteのドキュメントページ
・i.MX 6UltraLiteのツールページ
i.MX 6シリーズ(図2)は,2012年にシングルコアのi.MX 6Solo,デュアルコアのi.MX 6Dualとi.MX 6DualLite,クアッドコアのi.MX 6Quadが量産を開始し,2015年にはCortex-A9コアとCortex-M4を組み合わせたヘテロジニアス・アーキテクチャに対応したi.MX 6SoloX,グラフィックス処理性能をi.MX 6Dual/6Quadに対して50%アップしたi.MX 6DualPlusとi.MX 6QuadPlusを発表し,ラインナップをさらに充実させた.
最新製品i.MX 6UltraLiteは,Cortex-A7をベースとし,シリーズ最小のサイズと低消費電力を実現した.従来のi.MX 6シリーズとはソフトウェア互換でLinux OSや各種のミドルウェアも活用できる.さらにマイコンと同様,サードパーティ製のRTOSも活用可能となっている.
車載分野では,ビデオやグラフィックスのエンジンを搭載したアプリケーション・プロセッサが主流になっているが,シンプルで安価なプロセッサを求める顧客にはミス・マッチとなっている.i.MX 6UltraLiteは,このような顧客の要求に最適で使い易い製品になっており,DCM(Data Communication Module), 高精度ロケーター,V2X(路車間,車々間通信),ゲートウェイ,スマートアンテナ(アンテナの指向性を変えられる)などのプロセッサとして採用されはじめている.
また,従来のi.MX 6シリーズが1〜1.2GHzの最大動作周波数なのに対して,このi.MX 6UltraLiteでは最大動作周波数を528MHzに抑えている.これは,従来ARM9,ARM11など旧世代のアプリケーション・プロセッサを使ってきたユーザや,フラッシュ内蔵マイコンを使ってきたユーザにとって,最も容易にステップアップできることを考慮した仕様だという.数百MHzクラスのボード設計・実装技術にくらべて,GHzクラスになると難易度が大きく上昇してしまうためだ.
このi.MX 6UltraLiteは,そのようなユーザがスムースに移行を進めるのに最適な性能と機能をもたせたもので(図3),アプリケーション・プロセッサを初めて採用するユーザにぜひ使ってほしい製品だ.
i.MX 6UltraLiteについては,ベース・ボードとCPUモジュールで構成されるコンパクトな開発プラットフォーム(MCIMX6UL-EVKB)を販売している(図4).ソフトウェアについても,i.MXシリーズは長年にわたるLinuxの実績をもち,使いやすいBSPを提供している.
ARM Cortex-A7コアのi.MX 6UltraLiteプロセッサ搭載のスタータボード「GOHSSC-6UL」(郷商事提供)を抽選でプレゼント.
磁気,加速度,ジャイロセンサが付いて拡張ジャンパの活用で,CANやカメラのインターフェース,データ収集ボード,決済端末など用途が拡がります.
下記のアンケートにご回答いただいた中から,2名様に差上げます.
https://cc.cqpub.co.jp/system/enquete_entry/513/
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NXPセミコンダクターズジャパン株式会社 http://www.nxp.com/ja/
〒150-6024 東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー24階 TEL: 0120-950-032
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キーサイト・テクノロジー合同会社の主力スペクトラム・アナライザ・ファミリであるXシリーズに「Bモデル」が追加されました.先行して販売開始されたN9040B UXAのマルチ・タッチ・スクリーンを採用するとともに,従来のAモデル注1に比べ画面を大型化(図1)することにより,大幅な操作性の向上と,測定の組み合わせや表示のカスタマイズが可能になりました.大画面タッチ・スクリーンの採用で生産性の向上が見込めそうです.
またスペック的には,位相雑音特性の向上や解析帯域幅も拡大しました(表1).Aモデルを日常的に使用する筆者ですが,新製品に触れる機会がありましたので,操作性の観点からN9030B(以下:PXA Bモデル)を実際に使用しながら(写真1),向上した点をレポートします.
N9000B CXA 9kHz〜26.5GHz 低価格・量産に最適 | N9010B EXA 10Hz〜44GHz 手軽にミリ波・マイクロ波 | N9020B MXA 10Hz〜26.5GHz R&Dに最適 | N9030B PXA 3Hz〜50GHz 研究向け | N9040B UXA 3Hz〜50GHz 超最高性能 | |
最大周波数(GHz) | 26.5 | 44 | 26.5 | 50 | 26.5→50 |
解析帯帯域(MHz) | 25 | 40 | 160 | 160→510 | 510→1GHz |
リアルタイム・スペアナ(MHz) | N/A | N/A | 160 | 160→510 | 510 |
長時間ストリーミング(MHz) | N/A | 40 | 40 | 40→255 | 40→255 |
位相雑音特性 | 向上 | 向上 | - | 4〜10dBアップ※ | - |
CPU | COREi7 | COREi7 | COREi7 | COREi7 | COREi7 |
ユーザ・インターフェース | マルチ・タッチ | マルチ・タッチ | マルチ・タッチ | マルチ・タッチ | マルチ・タッチ |
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PXA Bモデル注1を実際に見ると,大型スクリーンのせいか筐体がAモデルに比べ一回り小さくなった印象を受けますが,筐体そのものは同じとのこと.実際にAモデルをお持ちのユーザにはBモデルのフロントパネルへの変更が可能なオプションも用意されています.また,大型スクリーンに追いやられるようにハードキー・エリアが縮小されていますが,使用頻度の高い,数値入力用のノブ,10キーパッド,上下左右キー,および基本的なハードキーは残されています(写真2).
実際に使ってみると分かりますが,タッチ・スクリーン上だけで全ての操作はできるものの,従来のハードキーに慣れていると,わずかな応答速度の差やクリック感,特に数値入力ではハードキーの方が操作性は良いように思います.Bモデルではタッチ・スクリーンならでの長所と,従来のハードキーの長所をバランスよく設計したなと感じます.
手始めに入手したばかりのBLEモジュールの信号を確認してみます.Bluetoothの信号は常にホッピングしているのでRTSAモードで信号を捉えます.ところが既に多くのBluetoothの信号が飛び交っているので,BLEのスペクトラム上の特徴をおさえることが最初の一歩です.従来のBRやEDRのチャンネル間隔が1MHz,データレート,すなわち変調帯域幅がそれぞれ 1MHzと2〜3MHzに対し,BLEはチャンネル間隔が2 MHzでデータレート,つまり変調帯域幅が1MHzになります.図2のトレースの丁度左半分がBLE,右半分がBRのように見えます.左半分の信号が本当に2MHz間隔で並んでいるのか確認してみましょう.
メニューパネル(図2のオレンジの破線で囲んだ部分)は,タッチパネルの特徴を活かして基本機能をタブ化して,サブメニューに分けたため,所望の設定をするときアクセスが容易になりました.しかも左側の測定結果の表示は十分な領域が確保されています. また従来はモード内共通設定と各測定固有の設定項目がメニューの階層構造上分かれており,所望の設定がどちらに属するか迷うこともありましたが,Bモデルではメニューパネルにこれらの設定項目が全て集約されたので,より分かり易くなりました.
図2のピークテーブルはピークを周波数の低い順に並べています.周波数のリストから,確かに左半分のピークは2MHz間隔に並んでいることが容易に分かります.
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アナライザが提供する種々の無線規格や測定モード,およびその測定や表示を一元的に表示することで,素早く所望の測定を開始できるようになりました(図3).
さらに,User View機能を用い,表示の組み合わせをカスタマイズできたり(図4-1,4-2),使用頻度の高い機能を右クリックすることで簡単にUser Menuとして登録しアクセスが簡単になるなど,ユーザの自由度が高まりました.
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Bモデルでは測定や表示の設定を直近の測定画面と共に一時的に記憶し,それをタブに割り当てることができます.図5-1はバースト信号を測定した例です.
まず,ゼロスパン(横軸:時間)を用い,Video Tri ggerでトリガをかけます.Video Triggerの場合はトリガ・レベルを表す緑の水平線が表示されるのでトリガの調整が容易です.結果はタブ(T-domain, Swept SA)を用いて設定と画面(図の左半分に表示)に一時記憶.次に新しいタブ(F-domain, Swept SA)で新しいスクリーンを開き,同じバースト信号をスペクトラム表示(横軸:周波数)します.トリガをかける場合は,通常Burst Triggerを用いますが,図のようにゼロスパン表示と縦軸を合わせて表示するとトリガ・レベルの設定が容易になります.タブには異なるモードを設定することもできるので(図5-2),異なるモードの測定結果を同時に表示することもできます.
通常はメニューパネル(図6-1)が表示され,そこから設定を行います.しかし,メニューパネルを非表示とし,測定結果を拡大したままで,トレースの設定や基本的なパラメータを設定できます.図6-2のように該当する部分(アノテーション・ホットスポット)をタッチするだけでポップアップ・メニューが表示されるので大変使いやすいです.
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Xシリーズは同時に6本のトレースを処理することができ,それぞれのトレースのタイプやディテクタなどを独立に設定することができます.これらを従来のソフトキー/ハードキーで全て設定しようとすると,数十回のキー操作が必要でしたが,Bモデルでは図7に示すような一覧表上で必要なパラメータに瞬時にアクセス,ドロップダウンやラジオ・ボタンを使い短時間で変更が可能です.しかも設定全体を一覧することができます.Bモデルでは,他にも種々の一覧表形式の設定が用意されており,複雑
な設定をする際の効率を飛躍的に向上できます.
複雑な設定で迷ったときや思うような結果が得られないとき,従来はプリセットを用いて設定を最初からやり直すしかありませんでした.しかしBモデルでは,現在の設定や測定結果を一旦保存したうえで,新しいスクリーンで設定を変更したり,もういちど最初から始めることもできます.設定一覧表(図7)から確認や修正が容易にできます.
UNDO機能は1ステップだけ戻ることができます.スペアナの設定過程でUNDO機能を自然に使えるかどうかについては,興味がありましたが実際に使うと思った以上に快適です.マウスでホバリングするとUNDOの対象機能が表示されるので作業が進みます.例えば6 dB未満のアッテネータ設定など,ノブでは操作ができない設定を繰り返し行う時には大変便利になりました.
Xシリーズの大きな特徴の一つは,高性能スペアナ,RTSA,89601B VSAが同じ筐体で動作することにあります.しかし,実際に89601B VSAをAモデルの8.4インチXGAで操作・表示すると画面の狭さを感じることも多く,外部パソコンや外付けディスプレイを使うこともしばしばです.Bモデルの10.6インチWXGA(10:6)を使えば,このようなストレスもなくなり,画面サイズ以上の改善を感じます(図8).
XシリーズBモデルは,大画面のマルチ・タッチ・スクリーンをフルに活用してスマホ並みの操作性を実現しているだけでなく,スペアナを長年使っているヘビーユーザや,測定や表示をカスタマイズしたいユーザにも配慮したバランスがとれた設計を感じました.少ない誌面の中で印象を語らせていただきましたが,まずは実際に操作し体感していただくことをお勧めします.
下記に新製品(XシリーズBモデル)の情報がまとまっています.http://www.keysight.co.jp/find/x-series-4
この記事に関するお問い合わせは下記のサイトからお願いします
キーサイト・テクノロジー合同会社 計測お客様窓口
〒192-8550 東京都八王子市高倉町9番1号 TEL:0120-421-345
http://www.keysight.co.jp/find/contactus
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NVIDIAは1993年に創業した半導体メーカで,GeForceシリーズなど高度な3Dグラフィックス機能をもつPC向けGPUを次々に開発し,グラフィック・プロセッサの代表的なメーカとして知られている.最近では,GPUのもつ高速演算性能を汎用計算処理に活用するGPGPUの技術を元に,組み込みからHPC(High-Performance Computing)まで,幅広い分野への展開を進めてきた.
組み込み市場で成長が注目されているロボット,ドローン,自動運転車などでは,視覚情報を高度に処理するコンピュータ・ビジョンや,それらの情報を自律的に学習・判断するディープ・ラーニングの技術が不可欠になると考えられる.NVIDIAでは,この用途に向けて小型・低消費電力の組み込み開発プラットフォームとしてJetson TX1開発キットの販売を開始した.
今回は,このJetson TX1開発キットと,組み込みからHPCまで統一的なアーキテクチャを実現しているNVIDIAのCUDAプラットフォームについてお話を伺った.
執筆:宮﨑 仁
3Dグラフィックスでは,3D座標を2D座標に変換するジオメトリ処理や,光源に合わせて画像に陰影を付けていくシェーディングなど,多量の演算をリアルタイムに行う必要がある.そのための専用ハードウェアとして作られたものがGPUだったが,2000年代後半には,GPUのもつ高速演算性能を汎用の科学技術計算に活用しようというGPGPUの手法が普及してきた.
金融/経済,資源/エネルギ,天気予報,流体解析,新薬創生などさまざまな分野でのシミュレーションや,画像認識,音声認識,ディープ・ラーニングなどのAIにおいて大きな力を発揮している.
NVIDIAでは,PC向けGPUのGeForce,ワークステーション向けのQuadro,サーバ/HPC向けのTesla,モバイル/組み込み向けプロセッサのTegraなど幅広い製品ラインナップを実現している.その中で,新世代のモバイル/組み込み向けプロセッサとして2015年にTegra X1を発表した.
Tegra X1はCPUとしてARM Cortex-A57+Cortex-A53によるbig.LITTLEオクタル・コアを採用し,256個の演算コア(CUDAコア)をもつGPUを組み合わせた統合プロセッサだ.10Wの消費電力で1TFLOPSの処理性能が得られるという.LinuxやOpenGLなどの標準的な環境に対応しており,システム構築やアプリケーション開発も容易にできる.
モバイル・コンピューティング,車載インフォテイメント,ロボットやドローン,自動運転など幅広い用途での活用を可能にしている.
このTegra X1の高性能を十分に引き出し,かつ簡単にソフトウェア開発を始められるように,NVIDIAではJetson TX1開発キットの販売を開始した(写真1).Jetson TX1開発キットは,Tegra X1とメモリなどをカード・サイズにまとめたJetson TX1モジュールと,周辺機能や各種のI/Oコネクタを搭載したI/Oボードから構成されている.Linux環境があらかじめ書き込まれており,NVIDIAの開発ツールをダウンロードすればすぐに開発が始められる.
また,ミニPCIeコネクタに接続するHDMIキャプチャ・ボードなどの周辺ボードもサード・パーティから供給が予定されており,システムの拡張も容易だ.
NVIDIAではさまざまなデモを行っている.たとえば,救急車の画像とこれまでに学習したさまざまな要素を比較して対象を認識したり(写真2),走行している自動車から撮影した画像をリアルタイムで解析して駐車場の空きを自動認識している(写真3)組み込みながらも高い処理能力をはっきしていることが分かる.
GeForceシリーズのGPUは,Windowsグラフィックスの標準であるDirect3Dや,サーバ/ワークステーションを含む幅広いコンピュータで普及しているOpenGLに対応してきた.
その後NVIDIAでは2006年に,汎用計算向けプラットフォームのCUDA(Compute Unified Device Architecture)を発表した.CUDAは,Cベースの言語でソース・コードを記述でき,CPUとGPUに分けた実行コードを生成できる.科学技術計算に必要な各種ライブラリや,Direct3DやOpenGLを含むさまざまなAPIも利用できる.
Tesla,Quadro,GeForce,TegraなどのさまざまなGPUで,CUDAによる汎用コンピューティングを統一的に利用できる.
Jetson TX1開発キットの開発にも,CUDA対応のツールが取り揃えられている.たとえば,コンピュータ・ビジョン用ツール・キットとしてNVIDIAはVisionWorksを提供している(図1).VisionWorksは上流側のさまざまなパイプラインに対応する実行コードを生成し,それをCUDA対応のNVIDIAのすべてのハードウェアにインプリメントできる.
また,ディープ・ラーニング用ライブラリとしてNVIDIAはcuDNNを提供している(図2).cuDNNはCaffe,torch,theano,Chainerなど既存のニューラル・ネットワーク・フレームワークに対応しており,学習や推論を大幅に高速化できる.さらに,TeslaやQuadroなどハイエンド・コンピューティングで十分な学習を行い,その成果をJetson TX1などの組み込みコンピューティングでの推論に活用できることも,大きな特徴となっている.
NVIDIAのGPU製品とそれを活用するCUDAテクノロジは,IoTとともに大きく発展する今後の組み込み機器にとって不可欠の技術と言えるだろう.
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インターフェース誌 巻頭企画プロセッサ・メーカにテクノロジ・シリーズの
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FPGAの利点は,ユーザの手元で回路構成を変更できる柔軟性にある.その修正の容易さゆえに,FPGAの検証は開発の最終段階である実機デバッグ工程に頼る風潮がある.回路規模が小さい場合はこの方法で問題ないが,開発対象が数十万ゲートを超えたあたりから,トラブルが増えてくる.例えば「納期遅延が頻発する」,「出荷後にバグが見つかった」,「プロジェクトを管理できない」.こうした問題を解消するには,開発管理者の統率のもと,仕様書作成とシミュレーションの工程を粛々と進める必要がある.ここでは,検証手法のコンサルティングを行っているCMエンジニアリングの斎藤 早苗氏に,FPGA検証の課題とその対策について聞いた.
CQ営業部
FPGA(field programmable gate array)の開発と言えば,かつては回路規模が小さく,設計からデバッグまで一人のエンジニアが担当することが珍しくなかった.しかし,昨今では開発対象の大規模化,機能の複雑化が進み,数人のチームでFPGA開発を進めるケースが増えている.
複雑なシステムをチームで開発するとなると,体系的な設計・検証の方法論が必要になる.大規模ソフトウェアの開発では,ソフトウェア工学に基づく自動テストやプロジェクト管理の手法を適用し,要求されるコード品質を維持している.大規模FPGAの開発についても,基本的な考え方は同じだ.
例えば,FPGA開発では「パソコン上でのシミュレーションをきちんと行わず,主に実機デバッグによって不具合を洗い出そうとする人が,少なからずいる」(CMエンジニアリングの斎藤 早苗氏)という.小規模な回路の開発であればこの方法で乗り切れるが,システム規模が大きくなると,途端にこの方法では苦しくなる.「いつまでたっても実機が期待通りに動作せず,開発マネージャは検証の進捗状況や検証終了のタイミングを正しく見通せなくなる」(斎藤氏).
このような状況に陥らないためには,パソコン上で行う機能シミュレーションと実機デバッグの2段構えで検証を進める必要がある.シミュレーションによって論理機能上の不具合やケアレス・ミスに起因するバグを洗い出し,実機デバッグではより詳細なタイミングにまつわる問題をチェックする.一見,「二度手間では?」と考えがちだが,「急がば回れ」という言葉のとおり,結局このほうが検証作業は早く収束する.開発マネージャにとっては,設計品質や検証の進捗を管理しやすくなる.
CMエンジニアリングも過去には,FPGAの検証漏れによるトラブルを経験したという.PCI Expressインターフェースを備えるシステムを開発した際に,試作したボードが思い通りに動作しなかった.結果としてスケジュールが1カ月遅れ,後工程であるソフトウェア・テストの時間が短くなってしまった.「原因はFPGA内部の機能上の不具合と,基板のピン割り当てのミスにあった.シミュレーションによる事前検証が甘かった」(斎藤氏).それ以降,同社はシミュレーションや体系的な検証手法の適用に,いっそう力を入れるようになったという.
ソフトウェア開発の方法論がソフトウェア工学という技術体系の中で整理されてきたように,FPGA開発の方法論は,主にASIC(application specific integrated circuit)やSoC(system on a chip)といった大規模ディジタルLSIの開発を通して確立された設計・検証手法がベースになっている.とは言っても,かつて隆盛を誇ったASICの設計件数は激減しており,ASICの設計経験のあるエンジニアは少なくなっている.そのノウハウが引き継がれないまま,開発部署が解散してしまった例もある.
FPGAを搭載したシステムの開発に取り組んでいる企業の中には,こうしたASIC開発の流れをくむ設計・検証効率化のノウハウをきちんと継承しているところもある注1.しかし大多数の開発企業は,こうしたノウハウに接する機会のないまま,日々の業務に追われているように見える.
そのような開発部署のエンジニアが,テストベンチやテスト自動化の環境を一から構築するのは,かなり大変だろう.そこで,「シミュレーションの作業負担を軽減するツールや検証用IP(intellectual property)を使いこなすことが重要になる」(斎藤氏).検証用IPとは,あらかじめ必要な検証項目が作り込まれた既製品のテストベンチ,および検証環境である注2.
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注1
注2
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『本当に必要な部分だけを内製し,それ以外の部分はできるだけ外部調達したものを流用する』.これは,標準プラットフォームやオープンソース技術の導入が進んだ昨今の,製品開発手法の定番のフレーズだが,検証ノウハウや検証環境の構築についても同じことが言える.
CMエンジニアリングは,「SpecInsight」というツールを自社開発し,第三者検証サービス(検証業務の受託事業)で利用している.2013年9月には外販も始めた.このツールは,(機能)仕様書を作成する過程で入力した情報(入出力端子表やレジスタ仕様,タイミング・チャート)から,RTL設計やシミュレーションに必要なデータ一式を自動生成する.シミュレーションのために何か特別な入力・編集作業を行うのではなく,仕様書の作成作業と一体になっているところがミソだ.「仕様書と検証用データの間に一貫性を持たせることが,設計品質の向上につながると考えた」(斎藤氏).
SpecInsightは,以下の四つの機能から構成されている(図1,図2).
これにより,テストベンチ,およびRTL記述の一部のコーディング作業を自動化できるので,そのぶん人手によるケアレス・ミスが減ると期待できる.またアサーション検証(複数の信号間の関係性を検証する手法)のような,やや難度の高い記述の作成作業も省力化できる.
上記の(3)のテストベンチ生成については,複数のタイミング・チャートを連結して長いサイクルのシミュレーションを実行する機能がある.ユーザは,この機能を利用して検証シナリオを作成・管理する.例えば,検証資産をタイミング・チャートの形で蓄積し,その後のプロジェクトで再利用することも可能となる.
さらにユーザ・サポートの一環として,同社はタイミング・チャートのサンプル・データを提供している.バスやインターフェース,FIFO(first-in first-out),競合制御など,使用頻度の高い機能のサンプルが用意されている.このサンプルにはアサーション仕様の情報が含まれており,アサーション検証の勘所をつかむためにも有用だろう.
同社によると,SpecInsightは大手企業よりも中堅クラスや小規模の企業,また電機系以外の業種の企業がよく利用しているという.「FPGAを利用して画像系や制御系のシステムを開発している部署による採用例が多い」(斎藤氏).
SpecInsightには,コードの自動生成のほかにもう一つの効用がある.このツールを使うと自然に仕様書の形式が標準化され,チームによる仕様の検討やデザイン・レビューが行いやすくなる.実はここに,FPGAの開発効率化を妨げるもう一つの課題が潜んでいるという.
同社は第三者検証サービスを通してさまざまな開発企業の設計・検証情報に接している.最近では,略式の仕様書しか用意していなかったり,そもそも仕様書がなかったりするケースが目立っているという.「状況は昔より悪くなっている.開発期間が短くなり,仕様書の作成に時間を割けなくなっているようだ」(斎藤氏).しかし,これではまともなデザイン・レビューが出来ない.作業効率も設計品質も低下する.
逆に考えると,この問題を解消できれば,設計品質を維持しつつ,開発に要する期間を短縮できるとも言える(図3).仕様書作成とシミュレーション.二つの工程を円滑に回し,きちんと管理することが,大規模FPGAの開発では欠かせなくなってきている.
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ここで今回,話を伺ったCMエンジニアリングについて紹介する.同社は検証サービスやアナログ/RF(radio frequency)設計サービス,無線通信モジュール/ボードの開発・販売を行っている企業である(図4).検証サービス事業の一環として,FPGAの設計品質を向上させるコンサルティングや検証環境構築を行っている.
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下記のタイミング・チャート・エディタ抽選プレゼントは5/31をもちまして終了させていただきました.
動画もあります
http://cmengineering.co.jp/products/specinsight-timingcharteditor.html
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〒141-0031 東京都品川区西五反田2丁目18番2号 五反田KYビル TEL:03-6420-0936
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5月11日~13日までの3日間「組込みシステム開発技術展(ESEC)」が,東京ビッグサイトで開催されます(主催: リード エグジビション ジャパン 株式会社).この期間は,Japan IT WeekとしてIoT/M2M展をはじめ,12もの多彩な展示会が開催されます.
ここでは展示会に先立ち,出展製品のプレビューをすると同時に,組み込み開発でも欠かせないIoTサーバの基礎知識をまとめました.さらにAmazonギフト券が当たるアンケート(5月1日〆切)を実施しています.ご応募お待ちしております.
クラウド・サーバをひとことで表すと,インターネット上にあるコンピュータです.コンピュータにはさまざまな用途があるように,クラウド・サーバにも用途に合わせたさまざまなサービスがあります.
IaaS:サーバやネットワークを提供
PaaS:ソフトウェアの実行環境を提供
BaaS:IoTデバイスに必要なサーバ機能を提供
SaaS:アプリケーションを提供・・・・・・・・・[続きをみる]
サーバ・ タイプ | IaaS | PaaS | BaaS | SaaS | 備 考 |
クライアント・アプリ | × | × | ×注1 | ○ | ブラウザ・アプリ,スマホ・アプリなどの実際にユーザが触れるアプリケーショ ン.IoTクラウドの場合は,データを収集してサーバへ送ったり,サーバからの プッシュに対してモータを動かしたりするデバイス内で動くアプリを指す |
サーバ・アプリ | × | × | ○注2 | ○ | ユーザ/デバイス管理,データ管理,Web API機能など |
ミドルウェア | △ | ○ | ○ | ○ | ウェブ・サーバ,データベース・サーバ,アプリケーション・サーバなど |
OS | ○ | ○ | ○ | ○ | LinuxやWindowsなど |
ハード(マシン) | ○ | ○ | ○ | ○ | ネット回線,配線,コンピュータ,設置場所 |
アドバンテック(株)
10分でARMの世界へARM開発スタータキット
実際のIoT 活用シチュエーションを想定した動態デモならびに,各種アプリケーション開発を容易にする
開発キットを展示いたします・・・[続きをみる]
イーソル(株)
高度化する車載ソフト開発支援ソリューション
自動運転,機能安全,画像認識など,高度化する車載ソフト開発を支援する,さらに強化したイーソルのAutomotiveソリューションを展示します・・・[続きをみる]
CMエンジニアリング(株)
Wireless Sensor Networkを体感できる!
ワイヤレスセンサーネットワークを活用したアプリケーションや適用事例として,IT農業や鳥獣被害の抑制,インフラ施設の状態把握や検査の省力化に有用なシステムについて,デモを交えてご紹介します・・・[続きをみる]
センチュリー・システムズ(株)
クラウド型にも分散型にも対応できるIoTゲートウェイ
企業向けネットワーク機器の企画・開発・製造を手がけるセンチュリー・システムズ株式会社は,安定稼働が求められる拠点向けのルータ・小型サーバを展開・・・[続きをみる]
(株) ニューロメーカ(韓国)
BeagleBoard+Wi-Fi+Zigbee+BLE=BBAir
BB Airは,BeagleBoard・シリーズと互換性があり,Wi-Fi,BLE,Zigbee が搭載されたIoT Gatewayに特化されたボードです.スマートフォンでWi-Fi,Zigbeeを簡単に設定可能です・・・[続きをみる]
(有)ヒューマンデータ
8ポート RS232C/USB変換器
共通絶縁型(HUB機能付) USB-401
USB-401は,USBインタフェースから8ポートのRS232Cを使用することのできる絶縁型変換器.8つのRS232CポートはUSBポートと絶縁されている.また2 ポートのUSBコネクタは,HUB機能として使用可能・・・[続きをみる]
ESEC展,IoT/M2M展へ来場予定の方にアンケートへのご協力をおねがい申し上げます.ご回答いただいた中から,抽選で30名様に,インターネットで使えるAmazonギフト券(1,000円分)を差し上げます.5月1日(日)まで.・・・[アンケートはこちらから]
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ここでは,IoT装置作りに役立つクラウド・サーバの種類や特徴について整理します.
中村 太一
クラウド・サーバをひとことで表すと,インターネット上にあるコンピュータです.コンピュータにはさまざまな用途があるように,クラウド・サーバにも用途に合わせたさまざまなサービスがあります(図1,表1).
IaaS:サーバやネットワークを提供※
PaaS:ソフトウェアの実行環境を提供※
BaaS:IoTデバイスに必要なサーバ機能を提供※
SaaS:アプリケーションを提供※
図1 IoTクラウドのおかげで簡単にIoTできるようになった
表1 タイプ別IoTサーバ ○=提供 ×=自分で用意 △=どちらの場合もある
注1:ブラウザ・アプリやスマホ・アプリも提供してくれるサーバもある.
注2:自作アプリを載せられるサーバもある
サーバ・ タイプ | IaaS | PaaS | BaaS | SaaS | 備 考 |
クライアント・アプリ | × | × | ×注1 | ○ | ブラウザ・アプリ,スマホ・アプリなどの実際にユーザが触れるアプリケーショ ン.IoTクラウドの場合は,データを収集してサーバへ送ったり,サーバからの プッシュに対してモータを動かしたりするデバイス内で動くアプリを指す |
サーバ・アプリ | × | × | ○注2 | ○ | ユーザ/デバイス管理,データ管理,Web API機能など |
ミドルウェア | △ | ○ | ○ | ○ | ウェブ・サーバ,データベース・サーバ,アプリケーション・サーバなど |
OS | ○ | ○ | ○ | ○ | LinuxやWindowsなど |
ハード(マシン) | ○ | ○ | ○ | ○ | ネット回線,配線,コンピュータ,設置場所 |
IaaSは,インターネット上にサーバやネットワークを設置するための仮想的なエリアを提供してくれるクラウド・サーバです.このエリアに自分専用のサーバを自由に作成できます.
自由度が高い反面,どのようなサーバを何台設置するか?サーバをどのように設定するか?は,利用者任せなので,サーバの知識がある人向けです(表2).
表2 無料枠のあるクラウド・サーバ(IaaS)
サーバ名/ 内容 | Amazon Web Services (AWS) | Microsoft Azure | IDCFクラウド | さくらのクラウド |
提供者 | アマゾン | マイクロソフト | ヤフー | さくらインターネット |
特徴 | 1年間無料で利用可能なIaaSはAWSしかない.おなじみの仮想マシン貸し出しサービスである EC2インスタンス以外にも,仮 想のオブジェクト・ストレージのS3,ブロック・ストレージを提供してくれるEBS,MySQLやPostgreSQL,Oracleまで提供してくれるRDSなど, 25ものサービス が1年間も無料で使える | AWSと同じように,単純な仮想マシン貸し出しサービスだけでなく,SQLServerやHadoop,ストレー ジなど,さまざまなサービスが使える点が大きな特徴. また,Active DirectoryのようなWindows特有の機能が使える点もうれしい. 無料枠はAWSに劣が,とても見やすいデザインで,UIもAWSよりも上と感じる人も | ヤフーが運営しているクラウド・サービス.AWSやMicrosoft Azureのようにさまざまなサービスが利用可能. 例えば,よくキャンペーンがある500円のクーポンで使えるサービスは,一番小 さな仮想マシン1台を1カ月利用できる程度だが,ロード・バランサやオブジェクト・ストレージなど,使えるサービスが豊富 | 純粋にIaaSサービスを提供しているサービス体系.たし,IaaSのインフラ性能は大手に劣らず,むしろ高いといわれている. IaaSとしての仮想インフラ利用が目的であれば,AWSなどとの比較対象として十分検討できるサービスである |
無料枠 | 1年間無料 | 1カ月無料+1カ月の無料期間内に使える20,500円ぶんのクレジットあり | 不定期で無料クーポンを配布するキャンペーンあり | 不定期で無料クーポンを配布するキャンペーンあり |
無料で使える機能 | EC2,S3など, 25のサービスを 使用制限の範囲内で利用可能. 詳細はhttps://aws.amazon. com/jp/free/を参照 | 20,500円ぶんのクレジットもあるので, 1カ月の範囲内であれば,ほぼすべての機能が利用可能 | クーポンの範囲を超えると有償 になる | クーポンの範囲を超えると有償 になる |
PaaSは,アプリケーション(主にWeb)の実行環境を提供してくれるクラウド・サーバです.アプリケーションを動かすにはOS上にミドルウェアを入れて実行環境を作ります.データベースが必要な場合は,MySQLのようなデータベース・ミドルウェアも必要です.また,高い可用性を求めるならばHAクラスタなどを用いたサーバの二重化も必要です.PaaSはこのようなアプリケーションを実行するためのインフラ環境を提供してくれるので,利用者は作成したプログラムをPaaSへデプロイするだけで,アプリケーションの実行ができます.アプリは作れるけれど,インフラ周りが不得意(または面倒)な方向けのクラウド・サーバです(表3).
表3 無料枠のあるクラウド・サーバ(PaaS)
Google App Engine | AWS Elastic Beanstalk | Heroku | |
提供者 | グーグル | アマゾン | Salesforce |
特徴 | PaaSの分野で初めに有名になった.PythonやJavaのソフトウェアをクラウド上で実行可能で,Webサービスをじかに立ち上げられる. 「オートスケール」という強力な機能も備わっている.オートスケールとは,サーバの負荷に応じてリクエストを複数のサーバに割り当てるスケール・アウトや,負荷が低下したらサーバの数をもとに減らすスケール・インを自動的に行う機能 | 1年間の無料枠を設けているAWSにもElastic BeanstalkというPaaSが用意されている.AWSで提供しているクラウド・リソースを統合管理するサービス. PaaS基盤となるEC2インスタンスやオートスケールを実現するための仮想ロード・バランサ(以降,ELB)などを作成する際にかかる費用は,Elastic Beanstalkが管理しているEC2やELBインスタンスの料金だけ | AWS EC2上に構築されたPaaSで,Google App Engineでは非対応のRubyon Railsを動かせるという点が特徴. 最近ではNode.jsにも対応しており,比較的多くの言語に対応しているところが人気の理由か |
対応言語 | Python,Java,PHP,GO | Java,Node.js,PHP,Python, Ruby,.NETウェブアプリケーション | Ruby,PHP,Node.js,Python, Java,Clojure,Scala |
IoTクラウド・サーバとは,IoTデバイスに必要なサーバ機能を提供してくれるクラウド・サーバです.「IoTデバイスに必要なサーバ機能」とは,例えば次のような機能を指します.
・デバイスの認証
・デバイスの状態管理(IDやStatusなど)
・デバイスから送られたデータの管理
・デバイスへの制御(クラウドからデバイスへのPush通知)
これらの機能を提供するためにIoTクラウド・サーバの中ではさまざまなサーバが協調して動いています.利用者はその機能だけ使えればよいので,中身はブラックボックスになっています.
そのブラックボックスの中身がどうなっているのかの一例を図2に示します.
図2 一般的なIoTサーバの中身
IoTが注目されるようになってから,たくさんのIoTクラウド・サーバが世の中に出現しました.表4(a)(b)はその中でも無料で使えるIoTクラウド・サーバの一例です.
それぞれできることや提供している機能はさまざまですので,いろいろ試して自分に合ったIoTクラウド・サーバを見つけてください.
これらのサーバにはIoTクラウド・サーバに接続するプログラムが簡単に作れる開発キット(SDK)が用意されています.大抵のSDKはLinuxに対応しているので,ぜひ小型コンピュータ・ボードで試してみてください.
表4(a) 海外の小型コンピュータ・ボードから無料で使えるIoTクラウド・サーバ
Parse | PubNub | IFTTT | Xively personal | |
運営会社 | PubNub | IFTTT | Xively | |
特徴 | Facebookが運営する.ラズベリー・パイやArduino,RTOSなどのSDKを提供.機能が豊富で,単純なセンサ・データ以外にも,画像ファイルなどの大きなデータのアップロードも可能.アクセス解析機能も無料で提供している.サーバ側で任意のJavaScriptコードが実行できる点は大きな特徴.入ってきたデータに対してサーバ側で判断し,IoTデバイスに対して何らかのアクションを起こすようなしくみを自由に作れる | 70以上のSDKが用意されている.中でもIoTデバイス向けのSDKは10個以上もあり,IoTクラウド・サーバの中でも最も多いと思われる. M2M向けの通信によく使われるパブリッシュ/サブスクライブのしくみを採用しており,パブリッシャ(データ送信者)からのデータを複数のサブスクライバ(データ受信者)で受け取るといったマシン間の双方向のデータ通信をリアルタイムで行うことが可能 | モノとインターネットをつなぐだけでなく,ウェブ・サービスとモノをつないだり,ウェブ・サービスとウェブ・サービスをつなぐことを目的とする. 「if this then that」というレシピを作成し,もし○○したとき(○○=this),△△する(△△=that)といったレシピを作成する.200以上のウェブ・サービスと連携可能.自作のサービスや装置を登録してIFTTTと連携できる | センサ・データをグラフ化し,データを見せる部分に特化.Add Triggersで入ってきたセンサ・データに対して,しきい値を設け,検知したらHTTPサーバにPOSTリクエストを送る機能もある |
無料枠 | ファイル・ストレージ:20Gバイト まで, データベース・ストレージ:20Gバ イトまで, ファイル転送:2Tバイトまで,受 信:100万回まで | 1日あたりのアクティブ・デバイス は100台まで無料. 月1億メッセージまで無料. ストレージやモバイル・アプリ向け プッシュ,分析機能などのAddOn に関しては30日間だけ無料 | 不明(基本的に全て無料) | Xively personalであれば基本的に全て無料だがデバイス数やデータ数の制限は不明 |
表4(b) 国内の小型コンピュータ・ボードから無料で使えるIoTクラウド・サーバ
Kii Cloud MBaaS | Milkcocoa | IdataSamplr | |
運営会社 | Kii | Technical Rockstars | アイ・エス・ビー |
特徴 | Parseと似たような豊富な機能を持つ | MQTTを使ったリアルタイム・データのやりとりに特化しており,それ以外の機能をそぎ落とすことで,シ ンプルさを確保している.思い立ったときにサーバを 使って何かを作ろうとした場合,確実に短時間でシステム作りができる | IoTデバイスの管理やセンサ・データの管理機能が豊富.センサの値を集計したり,しきい値を設定し,マッチしたらIoTデバイスに対してアクションを起こすような機能も持つ.データをダッシュボード画面に値とアイコンやグラフで,自由に表示させるためのツールも用意されている |
無料枠 | ストレージ:1Gバイト, APIリクエスト数:月 間100万,プッシュ 通知:月間100万 | データ数:10万メッセージ,同時接続数:20 | 期間:6カ月間無料, しきい値設定:最大5個, センサ・データ数:10万まで, 容量:100Mバイト, リクエスト数:月5万まで |
対象ボード, マイコン, OS | Kii Thing SDK.基本的にIoT用には特定のデバイスを対応し ているわけではなくC言語のSDKのみが用意されている | SDKはLinuxボード用にNode.jsのみ.汎用的な MQTTライブラリを使えば,さまざまな言語で利用できるためAruduinoやmbedなどのマイコンでも開発が可能.SDKなしでも開発できる | Node.js SDKほか.個別にデバイス対応する. Rooster GX(サン電子), CloudGate(オプション), UDON(アイ・オー・データ),RG-G200L(NECプラットフォームズ),FuterNet MA-E360/N(センチュリーシステムズ) |
執筆
なかむら・たいち
(株)アイ・エス・ビー
IoTクラウドサーバー「dataSamplr」の開発責任者
http://m2m.isb.co.jp/
製品概要
実際のIoT 活用シチュエーションを想定した動態デモならびに,各種アプリ
ケーション開発を容易にする開発キットを展示いたします.
このうち,ARMスタータキットは,ボードコンピュータ,液晶パネル,ストレージ,モジュール及びOS イメージ・BSPをワンパッケージにした開発者キットです.お客様が抱えるARMベースのプロジェクト実装にかかる複雑性を軽減し,開発リソースと時間を低減させ,アプリケーションの迅速な市場投入を実現します.
製品概要
アドバンテックのRISC ベースのボックス型コンピュータは,RISCデザインサポートサービスとともに,全体の設計プロセスを合理化し,お客様が迅速に独自の技術革新を実現するための開発を支援します.IoTゲートウェイとしても使用可能です.
連絡先
アドバンテック(株) コールセンター -- http://www.advantech.co.jp/
〒111-0032 東京都台東区浅草6-16-3
TEL / FAX:0800-500-1055(フリーコール)
ajp_callcenter@advantech.com
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製品概要
自動運転,機能安全,画像認識など,高度化する車載ソフト開発を支援する,さらに強化したイーソルのAutomotiveソリューションを展示します.
シングルコアからメニーコアまでをスケーラブルにサポートするRTOS,機能安
全ツール,開発プロセス支援ツール,スマホ連携技術,ディープラーニング技術,
AUTOSARなどを、新製品を含めてご紹介します.エネルギー・農業向けスマート技術,eSOL Platformの採用事例として産業ロボットなども展示します.
▲事例紹介
スケーラブルRTOS「eMCOS」が搭載された自動運転車がデモ走行
ロボット分野の発祥技術であるROS(Robot Operating System )をベースに構築した,自動運転システム用ソフトウェア「Autoware 」を実行するリアルタイムOS のひとつとして,商用では世界初のシングルコアからメニーコアプロセッサまでをスケーラブルにサポートしたリアルタイムOS「eMCOS」が採用されました.
イーソルは,Autowareを実行する開発ECU のひとつであるKalray 社製メニーコアプロセッサ「MPPA- 256」およびeMCOS向けに,名古屋大学と共同でROSを移植しました.eMCOSが搭載された自動運転デモカーは公道走行による実証実験が行われています.
連絡先
イーソル(株) -- http://www.esol.co.jp/
〒164-8721 東京都中野区本町1-32-2 ハーモニータワー
TEL:03-5302-1360 FAX:03-5302-1361
marcom@esol.co.jp
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製品概要
ワイヤレスセンサーネットワークを活用したアプリケーションや適用事例として,IT農業や鳥獣被害の抑制,インフラ施設の状態把握や検査の省力化に有用なシステムについて,デモを交えてご紹介します.
当社の商品である920 MHz 帯対応無線通信マイコンモジュール「CRESSON-MD 920シリーズ」と,3G/LTE/WiFiなどの他帯域との協調,各種センサーやカメラモジュールを統合したシステムは必見です.
▲事例紹介
鳥獣被害抑制モニタリングシステムのご紹介(北陸・東海地方で採用済)
CRESSON-MD 920シリーズ製品を基軸に,センサー端末,中継機,クラウドサーバーを統合したシステムにより,リモートセンシングの実現と,タブレット,スマートフォンでモニタリングできるシステムをご紹介します.
自治体やパートナー会社と連携し,試験運用中の鳥獣被害抑制モニタリングシステムは,鳥や猿,鹿などの鳥獣の見える化と,農作物被害の抑制を目指し,人感センサーやカメラモジュールによる鳥獣の検知と画像撮影,LED の投光やブザーの鳴動による一次撃退,クラウドサーバー上に転送される画像を手元で確認できます.
連絡先
CMエンジニアリング(株) 営業部・ビジネス企画部 -- http://cmengineering.co.jp/
〒141-0031 東京都品川区西五反田2-18-2 五反田KYビル
TEL:03-6420-0936 FAX:03-6420-0937
cme-sales@cmengineering.co.jp
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製品概要
企業向けネットワーク機器の企画・開発・製造を手がけるセンチュリー・システムズ株式会社は,安定稼働が求められる拠点向けのルータ・小型サーバを展開しています.
IoT/M2Mに向けても最適な,「セキュリティ・管理・アクセス手段」の組合せを提供しています.
▲事例紹介
IoTデータロガー(FutureNet MA-E350/NAD)による水位監視… 和歌山県田辺市
IoTデータロガー(FutureNet MA-E350/NAD)を用いて音波式水位計のアナログデータを取得し,移動平均処理を実施し,田辺市役所に送信.
田辺市役所内の端末でWEB画面で水位をリアルタイム遠隔監視.
<導入背景>
田辺市役所から約50 km 離れた熊野川支流を遠隔監視する必要があった.
<導入後>
田辺市役所内での遠隔リアルタイム監視が可能となった.パトライトとも連携しているので,設定警戒水位に応じて,色と音で水位状況を把握できるようになった.
連絡先
センチュリー・システムズ(株) 営業部 -- http://www.centurysys.co.jp/
〒180-0022 東京都武蔵野市境1-15-14 宍戸ビル
TEL:0422-37-8112 FAX:0422-55-3373
info@centurysys.co.jp
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製品概要
BB Airは,BeagleBoard・シリーズと互換性があり,Wi-Fi,BLE,Zigbee が搭載されたIoT Gatewayに特化されたボードです.スマートフォンでWi-Fi,Zigbeeを簡単に設定可能です.
IGoT-Micro(アイガットマイクロ)は,Wi-FiとBLEが搭載された小型Gatewayです.MQTTファームウェアがインストールされてデータを簡単にクラウドへ送信可能です.WSN-Microは,ZigbeeとBLEが搭載された小型WSN(Wireless sensor node)です.
▲事例紹介
(株) レインボー・ワイヤレス社向けに開発した監視カメラシステム
病院で使用中の麻薬等の薬品は一般的には施錠装置の金庫,冷蔵庫などに保管しなければなりません.総合病院の場合は専任責任者などが管理しています.しかし,一般病院では,人件費などで週末や夜間には管理が難しく,事故を未然に防ぐことは非常に困難です.そこで,監視システムを使って金庫や冷蔵庫などが開閉した時に周辺を録画しデータを保管,予定のない開閉などがあるときはアラーム(メールなど)を発生するサービスをBB AirとWSN Microで実現しました.
連絡先
(株) ニューロメーカ(韓国) IoT事業部 -- http://www.neuromeka.com/
〒047-98 #406, Seongsu IT Center, 37,Seongsui-ro 22-gil,
Seongdong-gu,Seoul, 047-98, South KOREA
TEL:+82+10-3021-2567 FAX:+82-70-7614-3026
jukyun.lee@neuromeka.com
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製品概要
USB-401は,USBインタフェースから8ポートのRS232Cを使用することのできる絶縁型変換器.8つのRS232CポートはUSBポートと絶縁されている.また2 ポートのUSBコネクタは,HUB機能として使用可能.
連絡先
(有)ヒューマンデータ 営業部 -- http://www.hdl.co.jp/ESEC2016
〒567-0034 大阪府茨木市中穂積1-2-10
TEL:072-620-2002 FAX:072-620-2003
s2@hdl.co.jp
家電機器から産業機器までさまざまな機器でモータが用いられており,マイコンのモータ制御アプリケーションは急速に増加している.その中で,家電機器のモータ制御アプリケーションではそれほど高い演算性能は要求されない代わりに,低コストや堅牢性に対する要求は強い.近年ではロジックLSIの低電圧化に対応して,マイコンのI/Oでも5Vが使われることは次第に少なくなり,マイコンの動作電圧も3Vが標準的になってきた.しかし,家電機器のモータ制御アプリケーションでは,耐ノイズ性を高められる5V動作マイコンのニーズが高い.今回は,5V動作対応でモータ駆動に最適なKinetis Eシリーズの新製品についてお話を伺った.
執筆:宮﨑 仁
プレゼントの入り口はは文末にあります.
MPU,MCUを中心に世界でも有数の半導体メーカとして知られていたフリースケールは,2015年12月にNXPセミコンダクターズと経営統合し,新生NXPのラインナップがさらに充実した.中でもARM Cortex-MコアのKinetisシリーズは,2010年の発売以来ラインナップの拡張を続け,現在は約1,000種類の品種をもつ業界最大のラインナップとなっている.
ここでKinetisファミリを概観しておこう.以下()内はCortex-Mのコアの種類.
・Kinetis K(M4)高性能/高機能
・Kinetis L(M0+)超ローパワー
・Kinetis E(M0+)5V動作
・Kinetis V(M7/M4/M0+)モータ制御/電力変換
・Kinetis M(M0+)電力計測
・Kinetis W(M4/M0+)ワイヤレス通信
このうち,Kinetis K/L/Eなどは標準マイコンとして,Kineis V/M/Wなどは特定用途向けのASSPマイコン製品としての位置付けとなっている.
2013年発売のKinetis EシリーズKE0xZは,5V動作(動作電圧2.7〜5.5V)の耐ノイズ性と堅牢性,Cortex-M0+コアの低価格と電源効率が特長で,家電機器などの用途に好評だ.特に,これまで5V動作の8〜16ビット・マイコンを使用していたユーザにとっては,低コストを維持しながら,将来の発展性が期待されている,そのEシリーズに新たにKE1xF,KE1xZが開発されている.
開発中のKE1xF(図1)はCortex-M4F搭載.2台の三相モータを同時に制御できるPWM*を搭載している.従来製品のKE0xZに比べてCPUコア,動作周波数,メモリ容量が大幅に強化されるとともに,各種機能も大幅に強化されている.特長は,160MHz動作のCortex-M4F(DSP,FPU内蔵)で8KB命令/データ・ キャッシュ内蔵),内蔵フラッシュメモリは最大512KBでECC付き,内蔵SRAMは最大64KBでECC付き,EEPROM内蔵,ブートROM内蔵,信頼性(ECC付きメモリ,カスタマ・コード保護機能,IEC60730対応の安全機能),アナログ機能,タイマ/PWM機能,耐ノイズ性の強化など改良が行われているようだ.
図1 Kinetis KE1xFのブロック図
もう1種類のKE1xZはCortex-M0+をベースとする72MHz動作のシリーズだ.1台の三相モータを制御できるPWM*を搭載している.従来製品のKE0xZに比べ,動作周波数の高速化(48MHz→72MHz),メモリ容量の拡大(フラッシュ最大128KB→256KB,SRAM最大16KB→32KB)と強化を図った.特長としては信頼性(ECC付きメモリ,カスタマ・コード保護機能,IEC60730対応の安全機能),アナログ機能,タイマ/PWM機能,耐ノイズ性の強化などの改良に加えて,25チャネルTSI(タッチ・スクリーンI/F)を搭載して家電機器のユーザ・インターフェースに適している(図2).両シリーズともサンプルは2016年第2四半期の予定だという .
図2 Kinetis Eシリーズのラインナップ
次にツールやライブラリを概観する.Kinetis Software Development Kit(Kinetis-SDK)は,Kinetis全シリーズ対応の開発ツール・キットで,リアルタイムOS(RTOS),ドライバ,ミドルウェア,通信プロトコル・スタックなどが階層的に構築されており,下位層のHAL(Hardware Abstraction Layer)でハードウェアの違いを吸収することによって,上位層の共通化を可能にしている.ツールチェーンとしては,IARのEWARM,ARMのKeil,AtollicのTrueSTUDIOなどの使い慣れたものを選択できる.さらに,GUIによって内蔵モジュールの設定を簡単化し,必要なドライバを自動生成するProcessor Expert Softwareをプラグインとして利用できる.
また,Embedded Software Motor Control and Power Conversion Libraries(図3)はモータ制御のソフトウェア開発を強力に支援する.統一されたAPIをもつ基本ファンクション(GFLIB),モータ制御(GMCLIB:三相モータ制御に必要なベクトル変換,パーク演算,クラーク演算など基本的な機能),アドバンスト・モータ制御(AMCLIB:センサレス・モータ制御などの複雑なモータ制御向けのライブラリでGMCLIBと組み合わせて使う),基本演算(MLIB),パワー変換(PCLIB)などのライブラリから構成され,アプリケーションを簡単に実現できる.
図3 Embedded Software Motor Control and Power Conversion Libraries
Kinetisファミリの開発用ボードとしては,Tower System(写真1)とFreedom開発プラットフォームの2種類が提供されている.Tower Systemは,コネクタをもつelevatorボードを両サイドに置き,高機能の開発用ボードを積み上げるように接続していく.Kinetisファミリだけでなく,NXPのハイエンド製品であるi.MXアプリケーション・プロセッサやQorIQマルチコア・プロセッサなど多くの製品が対応している.また,モータ制御ボードや無線通信モジュールなどの周辺ボードも数多く用意されており,大規模なシステムでも迅速に組み上げることができる.
写真1 Tower System
Freedom開発プラットフォームはKinetisマイコンを手軽に使ってみたいときに最適な小型,低価格の開発ボードだ.センサなどの周辺ボードも用意されており,すぐに開発を始められる.ボード上のコネクタはArduinoと互換性があり,Arduinoのシールドも利用できる.開発中のFreedom開発プラットフォームのFRDM-KE15Zを見てみよう(写真2).開発環境とはUSB接続で電源も供給される.また6軸センサ,タッチセンサ,3色LEDも搭載.このボード単体でも多様なアプリケーションに利用できそうだ.
写真2 KE15Zを搭載したプラットフォーム(FRDM-KE15Z)
家電から産業機器まで多彩な要求に対して,Kinetis全体のラインナップを充実させていく新生NXPセミコンダクターズ社の今後の動向に期待したい.
------------ 第9話 終了 ------------
プレゼントはこちらから
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アンケートに答えていただいた読者に,
低電圧三相PMSMモータを制御できるKinetis KV31搭載の開発キットをプレゼントします(5名様).
キット価格 $105(USD)相当! もちろんモータ付き.
プレゼントは下記の3つで構成されています
①FRDM-KV31F ($20)
Kinetis KV3xファミリ Freedom開発プラットフォーム
②FRDM-MC-LVPMSM ($50)
低電圧三相PMSMモータ制御向けのFreedom開発プラットフォーム
③FRDM-MC-LVMTR ($35)
Freedom開発プラットフォーム向け低電圧三相モータ
Linix 45ZWN24-40 Motor
①上記のFreedom開発プラットフォームFRDM-KV31Fの内訳です.↓
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NXPセミコンダクターズジャパン株式会社 http://www.nxp.com/ja/#
〒150-6024 東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー24階 TEL: 0120-950-032
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注目ポイントはチップの先進性だけじゃない/ARMマイコン開発を総合的にサポートするAtmel SMART
アトメルジャパン合同会社(以下:Atmel)は先進的な視点とユニークなアーキテクチャをもつマイコン・メーカとして知られている.マイコンには1993年に参入した草分け的存在であり,1997年に最新8ビット・マイコンのAVR,1998年に世界初のARMマイコン(ARM7TDMIコア),2007年にオリジナル32ビット・マイコンのAVR32,2008年からはARM Cortex-Mコア採用の32ビット・マイコンなど意欲的に新製品を投入してきた. さらに,同社の強みはチップだけでなく,ユーザのニーズをいち早くつかみとる開発ツール,ソフトウェア・ライブラリ,クラウド連携などのエコシステムの充実にあるという.今回は,Atmelの最新ツール,ソフトウェアおよびクラウドを含む評価・開発環境などについてお話を伺った. 執筆:宮﨑 仁
アトメルジャパン合同会社
Atmelは1980年代に不揮発メモリのメーカとして創業し,1990年代以降は8051コアのマイコンを発表.1997年にAVRを発売し,マイコン・メーカとしての地歩を固めた.
一方で,1994年には早くもARMコアの32ビット・マイコンの開発を始めている.当時は,省電力RISCプロセッサのARM7TDMIが携帯電話に採用され始めた時期であり,ARMコアでフラッシュメモリ内蔵のマイコン製品を作ったのは他にないユニークな発想だった.1998年にはARM7TDMIコアを採用して,世界初のARMマイコンを製品化した.また,ARM926,Cortex-A5コアのMPU製品もあり,新製品も開発中だ.その後,ARM自身がCortex-Mコアを発表してマイコンに参入してからは,Cortex-M0+,Cortex-M3,Cortex-M4,Cortex-M7とラインナップを広げてきた.
最新の製品としては,Cortex-M0+コア搭載で動作時に35μA/MHzの超ローパワー・マイコン「SAM L21」や,L21に320セグメントのLCDコントローラを内蔵した「SAM L22」,さらに5V動作可能のCortex-M0+コア搭載で耐ノイズ性を高めた家電向けマイコンの「SAM C20/C21」,Cortex-M7搭載で最高300MHz動作,256KB TCM/32KB Cacheを内蔵したハイエンド・マイコンの「SAM S70/E70」などがある.
Atmelでは,ARMコアを搭載したマイコン製品のブランド名を,SMARTと名付けている.SMARTは単にチップだけを指すわけではない.CPUコアと連携するペリフェラル,ワイヤレス,セキュリティ,ソフトウェア・ライブラリ,Low PowerテクノロジなどAtmelの先進的な技術が集積されており,ARMコアを最大限に活用することができる. .
Atmelでは開発ツール,ソフトウェア・ライブラリ,評価ボードなどのエコシステムにも力を入れ,最新の無償の統合開発環境としてAtmel Studio 7がある(図1).
従来はAVR用の開発環境としてAVR Studioを無償提供してきが,バージョン6からAVRとARMの開発環境が統合され,名称もAtmel Studioとなった. AtmelマイコンからArduinoの開発まで幅広く活用できる.
Atmel StudioはVisual Studioのシェルを用いており,Windowsアプリケーション開発の経験者にもなじみやすい.一方,豊富な機能はアドオンで簡単に追加でき,AVR Studioの軽快な操作性を維持している.また,機能制限やコード・サイズ制限をせずに,無償提供しているのもAtmelの伝統といえる.
Atmel Studio 7には,ASF(Atmel Software Frame work)に代表される豊富なサンプルコードや,最新の自動コンフィグレーション・ツールAtmel STARTとの連携により,さらに強力で使いやすくなった.
ASFは,Atmelが提供する充実したソースコード・パッケージだ.ペリフェラルのドライバからミドルウェアまで,さまざまなサンプルソースが利用しやすく整理されている.使用したいデバイスやボード,機能などから,目当てのソフトウェアを簡単に探せる.量産レベルの実用性を備えたものも多く,カスタマイズして製品に利用することも可能だという.
たとえば,最新の超低消費電力マイコンSAM L22を搭載したExplained Pro評価ボード(写真1)についても,すでに120点以上のサンプル・ソフトウェアが登録されており,今後さらに追加されていく予定だ.
ASFはAtmel Studioにはすでに含まれており,またAtmelのWebサイトからダウンロードして利用することもできる.Atmel Studioで新規プロジェクトを開き,Wizardに従ってサンプル・ソフトウェアを選んで組み合わせていくだけで,評価ボードを試してみるテスト・プログラムを簡単に作成できる.
Atmel STARTは,Webベースの強力な自動コンフィギュレーション・ツールである.これはAtmelのマイコン製品のピン機能の割り当て,クロック生成などをGUIで簡単に行い,さらに必要なドライバを自動的に生成してくれるコード・ジェネレータの機能をもっている(図2).
最近のマイコンには多数の機能が内蔵されていて,その中から必要な機能を選んでI/Oピンやクロックなどのリソースを割り当てるのは大変だ.その作業を自動化し,初めて使うデバイスでも簡単に動かせるようにしたものがAtmel STARTだ.
開発者は,使用したいデバイスを選びグラフィカルに表示されたピン配置をみながら,必要な機能を割り当て,ペリフェラル設定を行うと自動的にドライバなどが選択されて,ソースコードプロジェクトが生成される.ソースコード・プロジェクトは,Atmel Studio,KEIL,IAR用が選べる.
とくに最新のマイコンでは,SERCOM(多機能シリアル通信モジュール), PTC(Peripheral Touch Contr oller), CCL(Customer Configured Logic)など非常に高機能で設定の自由度が高いペリフェラルを簡単に活用することができる.
さらに,Atmelでは低価格で使いやすい評価ボードのファミリとして,Explained Pro等を展開している.Explained Proは各ファミリのマイコンを搭載したCPUボードと,各種拡張ボード(ワイヤレス,センサー,セグメントLCDなど)を組み合わせることによって必要な機能を簡単に実現できる.
Atmelでは,超低消費電力マイコンやワイヤレス・マイコン,8ビットtinyAVRなど,IoTのエッジ・ノードとして最適なマイコン製品を数多くラインナップしている.これらのデバイスを誰でも簡単に活用してIoT関連製品を開発できるように,無償のクラウド環境Atmel Cloudが用意されている.
Explained Proなどのマイコン評価ボードにセンサ,ワイヤレスなどの拡張ボードを組み合わせれば,IoTのエッジ・ノードを簡単に構築できる.あとはインターネット接続環境を用意してAtmelのwebサイトから手軽にIoTシステムを構築できる.これは,簡単なテストやデモには十分活用できる.また有料でより実用的な商業利用のクラウド環境に拡張もできる.
Atmelでは,その他にもコネクティビティ技術やセキュリティ技術などIoTに必要なさまざまな技術を提供しており,トータルなIoTシステム構築を強力にサポートしている(図3).
------------ 第8話 終了 ------------
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アンケートに答えていただいた読者に下記のどちらかをプレゼント(合計20名様)
「SAM L22 Xplained Pro」 LCD評価委ボード
「ATWINC1500-XSTK」 Wi-Fi + センサー拡張ボード付IoTクラウド評価キット
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これまで,プロセッサ上のソフトウェア開発とFPGA上のハードウェア開発はそれぞれ専門の技術者が別個に行うことが多かった.しかしザイリンクス株式会社(以下ザイリンクス社)のSoCであるZynqのようにプロセッサとFPGAを統合したデバイスの登場により,両技術者はより深く密接な関係をもつよう になっている.さらに,さまざまなアプリケーションでソフトウェアによる機能定義を実現しようとするソフトウェア・デファインの潮流から,これまで以上に ソフトウェア目線からのシステム開発の要求が高まっている.
今回は,ザイリンクス社の開発環境SDSoCについて,同社の黒田 成一氏にお話を伺った.
執筆:宮﨑 仁
従来のプロセッサ開発は,アルゴリズムを実行するハードウェアが別途与えられており,それに依存せずに抽象度が高い記述が可能であった.また,プロセッサ の性能が向上すれば自然にシステム性能も向上し,ソフトウェア開発では,個別の性能追求よりは,汎用性や変更に対する柔軟性が追及されることが多かった. 一方でFPGA設計では,ハードウェア自体がプログラマブルで,HDL(ハードウェア記述言語)を用いてRTLなどの抽象度の低い記述が必要になる.そ のかわり,高速処理が可能になりFPGAを使いこなせるのはスキルをもつ特定の技術者に限られていた(図1).
この現状を踏まえてザイリ ンクス社では,ソフトウェアとハードウェアのプログラマブル性を統合して,あらゆる面でプログラマブルな新しいデバイス,テクノロジ,システムのプラット フォームを実現すべく, All Programmableというコンセプトを提唱している.代表的なデバイスとしては,ARMコアとFPGAを統合したZynq- 7000 All Programmable SoCがある.また開発環境のVivadoはHLx Editionが発表され,すべてのEditionに高位合成(Vivado HLS)が無償で含まれ,C言語のユーザにも十分使いこなせる環境を用意した.
最近ではシステムの柔軟性に対するより高度な要求として,Software Defined(ソフトウェア・デファイン)という言葉をよく聞くようになった. プロセッサの性能向上によって,これまでハードウェアで実現してきた機能が,次々にソフトウェアで置き換わることだ.これは,物理的なハードウェアを隠 蔽して,仮想的なハードウェアの上に抽象的なアプリケーションを実現すると言い換えることもできる.また,開発の立場から言えば,Software Definedとは,より多くのソフトウェア技術者が,アプリケーション開発と同等のセンスでプログラマブルなデバイスを活用するための新しい開発方法だ と言えるだろう.
実際の開発では,分野によってデバイスに対する要求やアプリケーションのセンスも異なっている.ザイリンクス社では,ネットワーク向けをSDNet, データ・センタ向けをSDAccel,組み込みシステム向けをSDSoCと具体的な分野ごとに開発環境を分けた. さらに,各分野でハードウェアを最適化する効果の大きいアプリケーションを次のように絞っている.
・画像処理[Video/Vision,I-Iot]
画像形式の変換や画像分析をハード化して,処理速度を向上.高解像度や高フレーム・レートを実現.
・センサ情報処理[ADAS]
カメラ画像をはじめ赤外線,レーダなど各種のセンサ入力を複合化させる.センサ・フュージョンや画像情報の繋ぎ合わせにより処理速度を向上.
・無線処理の向上[5G Wireless]
SDR(Software Defined Radio)による多彩なフォーマットへの対応やフィルタリング処理のハード化によって2×2,4×4MIMOへの対応.
・ネットワーク・システムの向上[SDN/NFV]
SDN(Software Defined Network)やNFV(Network Function Virtualization)で実現されるネットワーク環境下で,通信速度の確保(Wire Speed)やフロー単位でのサービス・プロビジョニングの最適化.
・ネットワーク・サービスの向上[Cloud]
クラウドのハードウェア・オフローディングにおけるAccelerationがきわめて重要となる.たとえば,検索エンジンや機械学習ではCPUやGPUに比べて数十倍のパフォーマンス/パワーを実現でき,データ・センタの消費電力の抑制に大きな効果がある.
開発環境SDSoCは,C/C++やOpenCLによるソフトウェア記述から,ハードウェアを自動生成する高位合成ツールだ.だが,SDSoCは従来考えられてきた高位合成のイメージとは大きな違いがある.
従来の高位合成のイメージは,トップダウン設計の最上位からシステム全体をハードウェア化することを最終目標としてきた.だが,SDSoCはそれとは異なり,システム全体をソフトウェアとして設計する中で,処理速度などの性能面で必要な部分だけをハードウェア化する.これは,ソフトウェアの視線からみて,両者の優位性を最適化する自然な方法だ.
もう一つは,単なるハードウェアの自動合成ではなく,ハードウェア部分をソフトウェア部品として利用するため,インタフェース部分やドライバ・ソフトまで一貫して自動合成する点だ(図2).これにより,ソフトウェア技術者にとって,特別に高速化されたライブラリ関数を呼び出して利用するのと同じことである.
SDSoCを使ってHW/SWシステムを生成するのはとても簡単だ.開発者は通常のソフトウェア開発と同じように,Eclipseベースの統合開発環境の上で,C/C++でソース・コードを記述すればよい.高位合成などのツールは,統合開発環境の中にプラグインされており,自動的に必要な仕事をしてくれる.
記述したソース・コードの中にハードウェア化したい関数があれば,それを右クリックで選択するだけで,必要なハードウェアから関連ソフトウェアまでが自動的に生成される.まさに,ワン・クリックで関数を超高速化してくれる簡単ツールと言ってよい.
ただし,ソース・コードの記述は並列化を意識すべきだ(図3).元のソース・コードが直列的に逐次実行するものなら,生成されたハードウェアも直列的な回路になり,高速化の効果が上げにくい.ソース・コードのレベルで並列実行可能な部分やパイプライン処理が可能な部分を抽出し,それに適した構造の記述を行うことにより,SDSoCは効率の良い並列ハードウェアを生成してくれる.これは,ソフトウェア技術者にとって決してハードルが高い作業ではない.
従来から,ハードウェア技術者はHDLを学ぶことで,このような並列化や回路アーキテクチャを意識した記述を身に付けてきた.ソフトウェア技術者がそれらを身に付けようとすれば,ハードウェア技術者と同じようにHDLを1から学ぶしかなかった.
だが,SDSoCで必要となる並列化はC言語の範囲内であり,HDLよりずっと容易である.しかも,このように並列化の観点で処理を分析・記述するセンスは,マルチコアを活用した純粋なソフトウェア開発にも役立つはずだ.組み込み開発にたずさわるソフトウェア技術者にとって,SDSoCは自らのスキルを磨き仕事の幅を広げる大きなチャンスと言えるだろう.
------------ 第6話 終了 ------------
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3Dプリンタは産業向けに工業機械,自動車,航空宇宙,家電,医療/歯科分野などで着実な広がりをみせている.また一方では低価格帯のデスクトップ製品も数多くの製品が発売されている.そこでいわゆるエントリーモデルと呼ばれるデスクトップの現状として,株式会社ストラタシス・ジャパン(以下:ストラタシス)の代表取締役社長 片山 浩晶氏とメイカーボット事業部 テリトリーマネージャーの森 崇弘氏にお話を伺った.
同社はデスクトップ型のほとんどの機種で採用されているFDM(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層法)を開発した企業であり,産業用3Dプリンタでは世界1番のシェア(50%)を誇っている※1.また2012年には,研究室や個人向け製品に特化した米国MakerBot社を買収し,ラインアップを充実させている(世界シェア35%).
執筆:桑野 雅彦
●●●●●●読者プレゼントは文末にあります●●●●●●●
株式会社ストラタシス・ジャパン 代表取締役社長 片山 浩晶氏 | 同社 メイカーボット事業部 テリトリーマネージャー 森 崇弘氏 |
電子回路の設計・製作では,電子回路基板を作り,動作確認をすることが主体です. しかし,こうして製作された回路基板も単体で使われるということは稀で,最終的には「装置」の中に組み込まれて使われます.
特に高周波関係では回路図上では全く同じであっても,アンテナなどの部材の配置や形状が大きな影響を与えます.またホーン・アンテナのように,構造物そのものが動作を左右します. これまでは,市販のケースを流用するにしてもパネル,基盤固定ブロック,電源ボックスなどを手作りで加工する必要がありました.また曲面など難しい形状のものは図面を描いて専門業者に作ってもらうよりありません.
こうした状況を3Dプリンタは大きく変える可能性があります.開発現場にとって実験結果に応じて試行錯誤しながら少しずつ違うパターンを作っていくには最適です.現在の3Dプリンタで製造できるものは樹脂が主ですが,表面に導電製の素材や塗装・メッキすることもできますし,電導素材を混ぜた樹脂の試みもされています.
FDMは細い紐状の樹脂をヘッド部分で加熱・溶解してノズルから吐出して図形を描き,それを垂直方向に積み上げていく方式です(図1).ちょうど,医療用のCTスキャンのように,造形したいものを輪切りにしたものを描き,樹脂を積み上げて形にしていきます.
3Dプリンタの性能は,樹脂を出力するノズルの直径や垂直方向のピッチ,XYZ方向の位置決め精度で決まります.
MakerBot製品のReplicator 5th(約40万円)では積層ピッチは100μm(0.1mm),方向の精度ではXY方向が11μm, Z方向が2.5μmとなっています.低価格Replicator Mini(約20万円)では積層ピッチが200μmのほかは同じスペックです.
この点だけをみれば,他のメーカの製品もカタログ・スペックの上ではそれほど大きな違いは感じられません.しかし,実際にいくつかの機種を利用してみると,出力品質に大きな違いがあることが分かります.
ここから先はスペック表だけでは分かりにくい MakerBot製品の特徴をみていきます.
3Dプリンタの場合,XYZの3つの軸が正しく直交していなければなりません.ヘッドが移動するXY平面とプレート(造形用テーブル)の平行を計測し(写真1),調整作業を補助するレベル調整機能も重要です.
写真1 右のセンサで平行を測っている
3DプリンタではCADで作成した3次元モデル・データ(STL形式)から,スライサ・ソフトで横向きにスライスした図形の集合に変換します.
同じSTLデータでも描画方法に違いがあります.また層ごとに描画を変える方法もあり,仕上がり時間に差がでます.STLデータが同じであっても,スライサの解釈によって大きな差がでます. スライサにオープンソースのものを流用しているメーカが多い中,MakerBot製品はスライサを自社開発しプリンタに合わせた効率向上をしています.
専門知識がなくてもメニュー選択ができるLCDパネルやジョグダイヤル,LANやWiFiによるプリンタ共有への対応,内蔵カメラによる出力状態を離れた場所から監視できる機能,トラブル発生時に中断したところから再開できるなど,優れた使い勝手を実現しています.
3Dプリンタのトラブルの90%はエクストルーダ(樹脂を溶解し,ノズルから出力するヘッダ部分)で発生しています.通常エクストルーダは機構部分にしっかりと固定されて容易に交換できません.しかしMakerBot製品ではエクストルーダ部分をユニット化してマグネットで位置決めされ,簡単に着脱できるようになっています(写真2).
さらに,今年の1月に新設計のSmart Extruder+がリリースされました(写真3).温度管理システムの改良や起動時間の短縮,ヘッド内のセンサが強化され,従来機種でそのまま利用できます.
3Dプリンタで扱う樹脂は現在ABSとPLAが一般的です.上記は機種に対応した樹脂の種別です. ABSは強度があります.PLAは硬く熱収縮が少ないので高精度な出力を得やすいのが利点です.
CADデータの作り方は3つあり,専用CADで1から設計するか,スキャナで読み取るか,クラウドのデー タを利用するかです.ストラタシスでは3Dプリンタ向けにユーザが自由にデザインを投稿・共有できるサイトThingiverseとGrabCADを運営しています.Thingiverseはどちらかというとホビー的で,GrapCADは工業用途向けでGEやNASA,ティファニーなどの大手メーカも参画しています.
いずれのサイトも無料で使え,既に100万個を超えるSTL形式のフリーのデータが各々登録されています.汎用製品や部品はほとんど揃っていると思っても良いでしょう.CADに習熟していなくともこれらをベースとして利用すれば設計の強い味方になります.
ストラタシスでは3Dプリンタを初めて使う方向けに無料実習ワークショップを毎週金曜日の午後に少人数で開催しています.
抽選で下記をプレゼントします.締め切り3月29日(火)
以上
参考→RFワールド No.33 (1/29発売中)
「特集 第3章 3Dプリンタによるマイクロ波帯ホーン・アンテナの試作」
この記事に関するお問い合わせ先
株式会社ストラタシス・ジャパン www.stratasys.co.jp/
〒104-0033 東京都中央区新川2丁目26-3 住友不動産茅場町ビル2号館8F TEL:03-5542-0042
低価格デスクトップのMakerBot製品は, http://makerbot.co.jp
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英国には大手半導体メーカは存在しないが,ARM,CSR,イマジネーションテクノロジーズなど,半導体設計に特化したユニークなファブレス,IPベンダが多い.中でもイマジネーションテクノロジーズ株式会社(以下:イマジネーションテクノロジーズ)は,PowerVRによりグラフィックス・チップで大きなシェアを占め,メインストリーム・プロセッサのMIPS,マルチプロトコル無線チップのEnsigmaなどのIP群によるトータルなソリューションを提供している.今回は,IP群とその革新的な技術についてお話を伺った. 執筆:宮﨑 仁
イマジネーションテクノロジーズは,もともとは1985年にグラフィックス・ボード,サウンド・ボード,ホーム・オーディオ・システム,ビデオ会議システムなどボード製品やシステム製品の開発・販売を目的として創業した英国のベンチャ企業(当時の社名はビデオロジック)だ.1990年代には,従来の3Dレンダリング手法の常識を打ち破るタイルベース遅延レンダリング(TBDR)を採用したPowerVRテクノロジを開発し,最先端の技術開発で知られるようになった.
TBDRは,タイル単位で画面上に見える部分を早期に判定することによって,Zバッファが不要になり,最小限のリソースで効率良く描画する技術だ.既存のグラフィックス・チップに比べて,チップ面積や消費電力を大幅に削減できることが最大の特徴だ.
意外なことに,同社はベンチャから這い上がってきた経緯を大切にしており,中小ベンチャに対して,契約主旨に納得すれば,開発ツールやボード等を無償で提供している温かい側面がある.
1996年に最初のPowerVRチップが登場し,セガのドリームキャストを皮切りに,家庭用やアーケード・ゲームなどで広く採用された.またPowerVRをIPとして積極的にライセンスを進め,携帯電話,スマートホンなどの携帯機器のグラフィックス・コアとして大きなシェアを占めてきた.TI,Intel,ルネサスなど多くの半導体メーカがグラフィックス・コアとして採用している.
またグラフィックスだけでなく音声,ビデオ,ネットワーク,無線などさまざまな分野のIPを充実させてきた.さらに,2012年にはミップステクノロジーズを買収することで,メインストリームのプロセッサ・コアであるMIPSをラインナップに加えた(図1).
以下では,3本柱の概要と最新動向を紹介しよう.
MIPSアーキテクチャは1981年にスタンフォード大学のJ.L.ヘネシー博士による研究プロジェクトとして誕生して以来,代表的なRISCプロセッサとして発展を続けてきた.1980年代後半には32ビットのR3000,64ビットのR4000がワークステーション,サーバなどに採用されて成功を収めた.1990年代からはプロセッサ・コアIPの供給を始め,携帯情報端末やゲーム機,ディジタルTVなどの民生機器からネットワーク機器,通信機器などのハイエンド機器まで幅広く普及した.MIPSアーキテクチャを採用した代表的なMCU製品としては,マイクロチップ社のPIC32がある(写真1).
同社は,2012年にMIPSを買収してすぐに自社の開発人員を集中的にMIPSに投入し,2013年に新しいラインナップとなるMIPS Warriorファミリを発表した.MIPS WarriorはハイエンドのP-class,ミッドレンジのI-class,ローエンドのM-classの三つのファミリから構成される.特に,同社が20年間かけて開発してきたマルチスレッドによる並列技術とMIPSアーキテクチャを融合することにより,チップ・サイズと消費電力の極小化と高い処理性能の両立を実現している.
MIPSコアは,スパコンなどのハイエンド・コンピューティング用途も以前から注目されてきた.日本のベンチャ企業PEZYコンピューティング社では,イマジネーションテクノロジーズの開発陣から全面的なバックアップを得て4096コアのメニーコアと64ビットMIPSコアを組合わせたスパコンを開発中である.
2001年発表のMBX(シリーズ4)コアが携帯機器用のGPUとして大きな成功を収め,現在のGE7xxx/GT 7xxx(シリーズ7XE/7XT)へと発展してきた.
さらに,携帯機器で画期的なレイ・トレーシングを実現するPowerVR Wizard,マルチ規格対応のビデオ・デコーダ/エンコーダ,モバイルや車載カメラに対応する画像処理コアなどをラインナップしている.
無線通信(RPU),ネットワーク接続(NPU)などのコミュニケーションを実現するIPだ.製品名は,2000年に買収したDSPソフトウェア設計のEnsigma社に由来する.
その中でも,IoTなどで重要な役割を果たすのが無線プロセッサIPのEnsigme RPUだ.Ensigma RPUは無線LAN(802.11a/b/g/n/ac),無線PAN(BT/BLE/ Zigbee/NFC),TV放送,移動体通信などの無線通信とTV/ラジオ復調に対応したマルチプロトコル対応のプロセッサ・コアとなっている.
IoTアプリケーションでは,さまざまなデバイスがネットワーク通信を含む複数の処理を並列実行することが求められている.そこで問題となるのはSoCのセキュリティだ.同社ではこの問題を解決するために,各アプリケーションが実行されるセキュア・ドメインを完全に分離する技術と,それに必要なハードウェア・レベルでのサポートを実現するOmniShield技術を独自に開発した.
従来は図2のように,アプリケーション実行環境をノーマル・ドメインとセキュア・ドメインの二つに分けて,SoCのセキュリティを確保する手法が用いられていた.しかしセキュア・ドメイン内に混在する複数のアプリケーションが互いに干渉したり,GPUなど他のコアからセキュア・ドメインにアクセスされてしまう問題があり,セキュリティ強度は低い.
そこで新しいセキュリティ構造を図3のように,ハードウェア仮想化を用いてアプリケーションごとに異なる複数のセキュア・ドメインを作った.各ドメインは完全に分離され,それぞれ独立にゲストOSを稼動させることができる.CPU,GPUなどのハードウェアとそれらのゲストOSの間には,強力なHypervisorが介在する.
Hypervisorは,ゲストOS(Supervisor)に対する超OSとしての役割をもち,各OSに対して安全なハードウェア・アクセスとOS間通信を提供する.Omni Shieldは,このHypervisorをハードウェアによって安全かつ高速にサポートし,ほとんどオーバヘッドなしにシステムを稼動できる.
同社では,MIPS Warrior,PowerVR,EnsigmaなどすべてのプロセッサIPにこのOmniShield技術を組み込んでいくという.それによって,モバイル,ウェアラブル,IoT,車載などあらゆる分野でセキュアなSoCが活用可能になる.同社の真骨頂はプロセッサIPの提供だけではなく,世の中で現実に必要とされる技術を総合的に提供していく点にあると言えるだろう.
------------ 第7話 終了 ------------
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MCU機能とDSP機能を高いレベルでバランス良く統合した新世代Blackfin
デジタル信号処理が得意なDSP(Digital Signal Processor)はオーディオ,ビデオ,通信,モータ制御などを支えてきた.初期のDSPは乗算に特化しており,汎用プロセッサのような処理には適していなかった.しかし,現在では汎用プロセッサやMCUの機能を取り入れ,さまざまな用途を1チップで実現している.今回は,MCU機能とDSP機能を高いレベルでバランス良く統合したBlackfinファミリーの最新プロセッサADSP-BF70xについてアナログ・デバイセズ株式会社の玉野,祖父江ご両氏にお話を司った.
執筆:宮崎 仁
連続的なアナログ信号をサンプリングして,デジタル演算をリアルタイムに実行すれば,フィルタ処理ができることは早くから知られていた.ただし,汎用プロセッサは乗算が低速で,積和演算が苦手だった.
そこで,ハードウェア乗算器を内蔵した専用プロセッサとしてDSPが作られた.世界最初のDSPが登場したのは1980年で,16×16ビットのハードウ ェア乗算器を内蔵し,当時の代表的な汎用プロセッサの8086に対して乗算速度は100倍以上,デジタル信号処理演算全体でも数10倍の高速処理を可能にした.
80年代前半には多くのメーカがDSPに参入し,アナログ・デバイセズ株式会社(以下アナログ・デバイセズ)ではADSP-2100を発表した.90年代にはCMOSプロセスの微細化が進み,大規模,高速で低消費電力のLSIが作られた.新世代のDSPが次々に登場し,応用分野も音声から静止画,動画,無線通信のベースバンド処理,モータ制御などに広がっていき,民生用から産業用まで幅広く用いられた.
初期のDSPは演算命令に特化しており,コーディングも特別だったが,汎用の命令セットが追加されてC言語で容易に開発できるようにな った.また大規模な演算回路を内蔵できるため,32ビ ット浮動小数点DSPも増えてきた.浮動小数点演算は,ハードウェアの負担は大きいが,ソフトウェア的には汎用プロセッサと互換性が高く開発しやすい.
一方,固定小数点演算は,整数演算用の演算回路で実行できるのでハードウェアの負担は小さい.そのためDSPのハードウェアを簡素化し,小型・低消費電力で高速演算を実現するという観点から広く普及した.
アナログ・デバイセズでは1991年に32ビット浮動小数点DSPのSHARCファミリーを発表し,2000年にはMCU機能と16ビット固定小数点DSP機能を融合したBlackfinファミリーを発表した.Blackfinは,SHARCの演算性能と,RISCプロセッサのコントローラ性能を備えた新しいアーキテクチャを作るためインテルと共同で開発された.携帯電話や携帯情報機器,マルチメディア機器,産業用機器などに広く用いられた.
その後BlackfinはADSP-BF5xxファミリーからADSP-BF60xファミリーに発展し,2014年には新しいADSP-BF70xファミリーが登場した(図1).
Blackfinは,MCU機能とDSP機能を統合し,システム制御からデジタル信号処理までを1チップで実行できる.また命令とデータを分離したハーバード・アーキテクチャ,演算処理とデータ転送の並列化やDMA転送の効率化,命令遅延の考慮が不要なインタロックなどの特徴をもち,低いクロック周波数と消費電力でリアルタイムの演算処理を可能にした.
一方汎用プロセッサと同等のメモリ・インターフェースや充実したペリフェラル機能をもち,システム性能も高い.たとえば,SDカードI/F,USB(OTG対応),各種シリアルI/F,フラッシュI/F,SDRAM I/F,システム制御,音声処理などの機能があるので1チップで,ICレコーダや携帯音楽プレーヤなどを効率良く実現できる.
BF5xxファミリーはシングル・コアを中心としたベーシックなファミリーだが,ハイエンドのBF561はデュアル・コアとなっている.各シリーズの中にイーサネット内蔵デバイス,USB搭載デバイスなどが用意されている.BF60xファミリーはBlackfinコアを2個内蔵したデュアル・コアで,高性能,高信頼性を必要とする産業・車載イメージング向けの上位ファミリーとなっている(図1).
ADSP-BF70xは,新しいBlackfin+コアを搭載し,シングル・コアで高性能を実現するとともに,低消費電力と低コストを可能にしている.また,大容量SRAMやROMの搭載,ペリフェラルやセキュリティなど周辺機能も強化された(図2).
Blackfin+コアは,32ビット×32ビットの乗算と積和演算をサポートし,演算性能が大幅に向上した.デ ュアル16ビット×16ビットとして使用可能で,16ビ ット複素数乗算も高速化された.従来のBlackfinコアとの互換性を保ちながら,演算命令も拡張されている.また,パイプライン上の実行効率を高め,ダイナミック分岐予測でペナルティを削減したことにより,一般命令の実行も高速化された.
コア内蔵のL1キャッシュに加え,BF70xはL2メモリとして最大1MバイトのSRAMと512KバイトのROMを搭載している.ROMにデバイス・ドライバ,ランタイム・ライブラリなどを内蔵し,コード・サイズの削減や省電力化の効果も得られる.
セキュリティ機能も充実し,メモリはパリティとECC,外部I/FはCRC採用で信頼性を高めた.さらに,外付けフラッシュからコードを読み込む時にリアルタイムで暗号化/復号化を行うオンチップ暗号化アクセラレータを搭載し,セキュア・ブートを実現した.また消費電力を動作時,スリープ時ともに一段と削減し,デバイス全体で,400MHz動作時に95mWときわめて低消費電力を実現した.
以上のような強化により,BF70xは小エリアの画像処理やオーディオ用音声処理に最適な性能を持ち,産業・車載機器に最適な信頼性と,携帯機器に最適な低消費電力の両立を実現した.想定される機器として,携帯型バーコード・リーダ,指紋認証,CMOSカメラなどの産業用イメージング機器,エフェクト機器や携帯型レコーダなどのプロ用オーディオ機器,患者モニタリングなどの医療機器,車載オーディオ機器などが考えられる.
また開発環境も充実させている.汎用開発ボードのEZKITに加えて,低価格開発ボードのADZS-BF706-EZMINI(写真1)や,CMOSカメラ搭載ボード(写真2),低価格JTAGエミュレータ(写真3)などを提供し,すぐに開発が始められる.2012年にリリースされた統合開発環境のCCES(CrossCore Embedded Studio)を使えば,従来のBlackfinやSHARCと同様に開発ができる.
------------ 第5話 終了 ------------
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